アンケート調査から集められた証人証拠は歴史でしょうか?
A&Eテレビジョンネットワーク社対ディスカバリーコミュニケーションズヨーロッパ
本事案は、ライバル同士のテレビドキュメンタリーチャネル間での商標及びパッシングオフ論争に関する事案であって、記述的とみなされる可能性のある文言に関する権利行使の難しさをあぶりだしたものです。特に、裁判所が、アンケート調査から収集された証人証拠の証拠価値について言及したことが注目されます。
原告であるデラウェア州の会社A&Eテレビジョンネットワーク社及びその英国子会社(AETN)は、HISTORY(以前のTHE HISTORY CHANNEL)の名の下にケーブル及びサテライトテレビチャネルを運営しています。AETN は「THE HISTORYCHANNEL」の文字商標及び文字と図形の結合商標の登録権利者であって、これらの商標は第9,16,38 及び41 類においてCTM 商標として登録されており、また英国商標としては第38,41 類において登録されています。
被告であるディスカバリーコミュニケーションズヨーロッパ(ディスカバリー)は最も視聴率の高いドキュメンタリーチャネルであるDISCOVERY ( 又はTHEDISCOVERY CHANNEL)を運営しています。ディスカバリーが2010 年にそのチャネル名を「DISCOVERY KNOWLEDGE」から「DISCOVERY HISTORY」に変更したことにより、AETN は以下の旨を主張しました。
1)「HISTORY」、「THE HISTORY CHANNEL」、「MILITARY HISTORY」についてパッシングオフ(詐称通用)があったと認められる。
2)Sky EPG(電子プログラムガイド)に掲載されているディスカバリーのチャネル、そのロゴ、及びその略称DISC HISTORY は商標権を侵害している。ディスカバリーはAETN の商標が無効である旨を反訴しました。
2 月1 日の衡平法部のピーター・スミス判事の判示においては、裁判所は「DISCOVERY HISTORY」の使用は公衆に誤認混同を生じさせるものではなく、したがってAETN の侵害及びパッシングオフの主張は商標法第11 条及び規則第12 条に照らして却下されました。
裁判所は「HISTORY」を指定商品・役務(すなわち「歴史関連の番組」)の種類及び性質について記述的であると認め、「DISCOVERY」に「HISTORY」を加えることによって実質的にグッドウィルを有するディスカバリー社のチャネルであることを単に示したに過ぎないと理由付けました。「DISCOVERY HISTORY」の存在にもかかわらずAETN の視聴率が上昇していた事実、及び「THE HISTORY CHANNEL」( 後のHISTORY)がBBC チャネルのUKTV HISTORY(後のUK HISTORY)と7 年間にわたって共存していた事実も特に考慮されました。裁判所はまた、マークス&スペンサー対インターフローラ事件の影響についても言及しています。これは事実関係には適用できないものの、もし適用されていたら裁判所によって証拠価値がないと判断された証言を除外したでしょう。しかしながら、裁判所は被告の反訴を却下しました。
マークス&スペンサー事件の示したガイドラインでは、裁判所は、アンケート調査を実施することの利点はそのコストを上回り、その証拠は信頼できるものであるとしなければならないとされていました。マークス&スペンサー事件以前には、AETN は公衆がディスカバリー社の新しいブランドについて誤認するかどうかについて確証を得るために証言を集める行為をすることを許されていました。マークス&スペンサー事件及びニュートロジーナ事件に照らし、ピーター・スミス判事は、それが裁判官の見解を助けるときには証言が証拠となる価値を有すると判断しました。
AETN が誤認混同を証明することに失敗したため、アンケート結果の証拠価値の分析はマークス&スペンサー・ガイドラインのもとでは不要となりました。しかしながら、AETN の証拠は、遡及的に無視することができないほど訴訟が進みすぎたという理由で、検討されました。
裁判所は、本事案が「マークス&スペンサー事件において控訴裁判所が検討した調査や証言収集上の問題点の全てを提示した」とし、マークス&スペンサー事件において明らかになった不備、特に、商標権侵害事件に関する証言には何ら特権を与えるべきでないという見解は、パッシングオフの立証のテストにも同様に適用できると認めました。
ピーター・スミス判事は、公衆から二次的な証拠を集めた方法について批判しました。1004 通のアンケート用紙のうち、167 人の回答者が連絡を受け、116 人が聞き取りを受け、14 の証言が得られました。
証言者の中には、聞き取りの最後に知らされるまでその証言が証拠として使用されることを知らなかった者が数人おり、その証言を使用されることに後で異議を唱えた者の中には、そのコメントが伝聞証拠として使用された者がいました。さらに、反対尋問では、最終的な証言は必ずしも電話で話した内容を反映したものとは限らなかったのです。
裁判所が常に現実に証人らにアンケート内容について審問することが不可能であることを考慮すると、本事案は、クライアントのために最善の結果をもたらそうとして証言や伝聞証拠をでっち上げない、という弁護士の義務の重要性を強調するものでした。さらに、もしもある人がその証言が証拠として使用されることを知らなかった場合、または証拠として使用されることに異議がある場合、その証言は裁判所において証拠として使用されることは適切ではないといえましょう。
[情報元]D YOUNG & CO TRADEMARK NEWSLETTER no. 68, May 2013
[担当]深見特許事務所 並川鉄也・冨井美希