台湾改正特許法
台湾改正特許法が2013 年1 月1 日から施行されています。新特許法施行から数ヶ月が経過し、立法委員は改正法中に三つの欠点があることを発見したため、自主的に法律を改正しました。この改正は今年6 月13 日に公布した後、その公布日から施行されました。今回の改正内容の概要は以下の通りです。なお、今回の改正前の台湾特許法を、ここでは“現行法”とも言います。
(1)旧特許法に定められた、故意による特許権侵害に対する三倍懲罰的損害賠償に関する規定の復活(第97 条)
現行法では、三倍懲罰的損害賠償に関する規定が削除されました。その理由は、特許主務官庁が、当該規定は英米のコモンローの制度であって、台湾の一般民事損害賠償による損害補填制度と異なると考えたためです。
しかしながら、立法委員は、台湾の著作権法、営業秘密法、公平交易法及び健康食品管理法等にはいずれも懲罰的損害賠償制度があり、また国外でも同様の懲罰的損害賠償制度があるとの見解を示し、現行法に懲罰的損害賠償の規定を追加しました。
(2)同日に発明特許及び実用新案を出願し、発明特許を選択した場合は、実用新案登録は最初から存在しないと見なすとの規定を「実用新案登録は発明特許の公告日から消滅する」と改正し、特許出願人の権利の保護を継続する(第32 条)
現行法において、同一人が同じ創作について、同時に発明特許及び実用新案をそれぞれ出願できることを正式に承認しましたが、実用新案は方式審査を採用しているため、数ヶ月以内に登録を取得でき、その後、発明特許が特許査定された場合、特許主務官庁は出願人にいずれかの出願を選択するよう通知しなければならず、もし出願人が発明特許権(保護期間は比較的長く、権利も安定する)を選択した場合、実用新案登録権(保護期間は比較的短く僅か10 年で、権利も安定しない)は最初から存在しないと見なしました。
しかしながら、立法委員は、この規定には多数の問題が生じており、例えば、当該実用新案登録を既に実施許諾している又は他人に譲渡している場合、その実施料/費用は返還すべきか否か等の問題があるとの見解を示し、このため、権利が継続するよう、「その実用新案登録権は発明特許の公告日から消滅する」と改正しました。当該条文では更に、同日に発明特許と実用新案を出願した場合は、それぞれ声明を行わなければならず、行わない場合は特許を付与しない。また、出願人が実用新案登録を取得している場合は補償金の請求、又は実用新案登録権の行使(損害賠償)の主張は、いずれか一方のみできる、と改正しました。
(3)実用新案登録権者が実用新案登録権を行使するとき、実用新案技術報告書が提示されていない場合には、警告を行うことができない(第116 条)
現行法では、実用新案登録権者は、実用新案登録権を行使するとき、実用新案技術報告書を提示して警告を行わなければなりません。技術報告書を「提示」せずに「警告」を行った場合、損害賠償請求権を含め、その権利を主張できないと規定しています。
しかしながら、実用新案は方式審査のみなので、現行法では権利の濫用を防止するため、「実用新案登録権を行使するとき、実用新案技術報告書を提示して警告を行わなければならない」としていますが、現行法の条文の解釈については業界の見解が一様でなく、裁判所の実務も統一されていません。このため、今回、立法委員は、権利者は実用新案技術報告書を提示しない場合には、警告を行うことができないと明確に改正しました。
今回の特許法の改正は、立法委員が自ら提案し、立法を通過したもので、将来、特許が故意に侵害された場合の保護が強まり、国内外の業者が同時に発明特許及び実用新案を出願して特許保護を取得する件数が増えると見込まれます。
日本の特許出願人にとって、化学物質又は製法以外の発明特許出願について、できるだけ早く台湾で保護を取得するため、同日に発明特許及び実用新案を出願することを視野に入れてもよさそうです。何故ならば、発明特許は特許査定までに3~4 年以上もの期間がかかりますが、実用新案は方式審査のみで、4~6 ヶ月で登録の保護を取得できるからで、更に発明特許を取得した場合には、出願人は実用新案を放棄でき、その権利は発明特許の公告日から消滅するため、権利が継続して保護されるからです。こうした二重保護は出願人の権利保護に万全と言えます。
[情報元]ユニオンパテント工業所有権ニュース,2013/6
[担当]深見特許事務所 杉本さち子