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「グリーン」テクノロジー特許のインセンティブ-世界全体像

(1)英国
 UKIPO は2009 年5 月に「グリーンチャンネル」を導入しました。「グリーンチャンネル」とは、環境保護にふさわしい技術に関する特許出願が、通常(2~4 年)よりもかなり早く(早ければ出願から9 ヶ月)に審査され特許権が付与される制度です。このようなインセンティブを特許出願に与えることで環境保護にふさわしい技術に関するイノベーションが促進され、環境保護にふさわしい技術に関する投資が助長され、環境保護にふさわしい技術の商業化が促進されると考えられました。
 グリーンチャンネルは、単に出願人の要求によって、環境関連技術であろうと考えられるどのような技術に関する特許出願についても適用することができ、そして、早期審査を正当化するどのような理由も必要とされません。これは、早期審査を要請するためには、例えば潜在的侵害の証拠や投資を確保するための特許の要求、といった確固とした理由が要求される他のタイプの特許出願とは対照的です。その導入以来、出願人によるグリーンチャンネルの使用は著しく、環境関連技術の特許出願人のおよそ20%が審査を促進するためにこの方法をとることを選んでおり、2009 年5 月から2012 年6 月までの間の合計776 件にも上っています。
(2)米国
 USPTO は、2009 年12 月に、温室効果ガスの削減、環境基準、省エネルギー、再生可能エネルギー資源の開発、温室効果ガスの排出の削減などといった環境関連技術に関する特許出願の処理を促進するために環境関連技術パイロットプログラムを導入しました。このプログラムは、3,500 件の出願までに限定され、すでにその数に達して終了しています。しかしながら、出願人は、高額の費用が必要だとしても、依然としてこの制度を望む可能性があります。
(3)オーストラリア
オーストラリア特許庁は、2009 年9 月に環境関連出願の早期審査のファーストトラッキング制度を導入しました。この制度は、環境関連技術に含まれるタイプについてのいかなる特定の限定も要求せず、出願が環境関連技術の分野に関するものであるという出願人の声明のみを要求しています。
 早期審査の要求を提出すると、最初の審査リポートは2~4 ヶ月のうちに発行されます。この制度を利用するための追加の料金は不要です。
(4)カナダ
カナダ特許庁は2011 年3 月に環境関連出願の早期審査の取組みを導入しました。この制度では追加費用は不要であり、宣誓書の提出が必要です。
 この制度の下で出願が受入れられると、(通常は3 年程度かかる)審査リポートが2ヶ月以内に発行されます。出願人は、この制度において当該出願を維持するためには審査リポートに対して3 ヶ月以内に応答する必要があります。期限内に応答書類を提出しなかったり、応答期限を延長したりするような遅延をすると、当該出願はこの制度での特別な地位を失い、通常の出願と同じ扱いを受けることになります。
(5)イスラエル
 イスラエル特許庁は、2009 年12 月に環境関連出願のためのファーストトラック制度を公表しました。この制度では、特許出願は優先的に審査され、優先審査の請求が受理されてから3 ヶ月以内に審査リポートが発行されます。この制度には、満たさなければならない特別な基準は設けられておらず、単に、主題が環境関連であればよく、また、追加費用も要求されません。
(6)日本
 日本国特許庁は2009 年11 月に、早期審査に適した出願の一つとして環境関連出願を導入しました。この出願として取扱われるためには、出願は、省エネや二酸化炭素削減に寄与する発明に関するものであることが課せられます。出願人は日本国特許庁に対して、先行技術を挙げ、先行技術と本願との比較を説明した、優先審査の必要性を説明した用紙を提出しなければならず、他の特許庁の制度と比較して手間がかかります。この制度では、最初の審査リポートが約2 ヶ月以内に発行されます。
(7)韓国
 韓国特許庁は、2009 年10 月に環境関連出願についてのスーパー早期特許審査制度を導入しました。この制度では、最初の審査リポートが1 ヶ月以内に発行されます(平均では17 ヶ月程度)。最速記録は11 日です。
 この優先審査を受けるためには、出願人はオンライン化していなければならず、発明が、騒音・振動制御、水質、大気汚染防止、廃棄物管理などの環境関連の特定の分野に関するものである必要があります。
 加えて、出願人は、韓国特許庁に承認された検索機関によって検索された先行技術を取得して優先審査の請求と共に韓国特許庁に提出する必要があります。
(8)中国
 中国特許庁は、2012 年8 月に環境開発に関連する特許出願のためのファーストトラック制度を導入しました。この制度を利用するためには、発明が、低炭素排出、エネルギー・リソース保全、新エネルギー自動車、または環境保全に関するものでなければなりません。このファーストトラック制度はまた、新世代情報技術や高機能の装備を有した製品などのいくつかの環境に関連しない技術にも適用され得ます。これは、中国政府が自国の経済成長に恩恵をもたらす技術をこの制度に囲い込むことを意味します。
 このファーストトラック制度から恩恵を得るためには、出願人は他の特許庁または承認団体からの先行技術の調査結果と共に、電子的に申請しなければなりません。この申請が受理されると、最初の審査リポートが1 ヶ月以内に発行され、出願人は、このリポートに対して2 ヶ月以内に応答しなければ、この優先的なステータスを失うことになります。
(9)ブラジル
 ブラジル特許庁は、2012 年4 月に、環境関係の特許出願の審査期間を2 年以下に削減することを目的として(平均的には5 年を超えるものでした)、環境関連の特許のファーストトラック試行プログラムであるパテントベルデを着手しました。試行プログラムは、最初の500 件までの申請に限定しました。適した環境技術には、代替エネルギー、輸送、エネルギー保護、廃棄物管理、および農業が含まれます。このプログラムに参加するために、出願人は、500 米ドルの支払いと共に審査および早期公開を請求する必要があります。

[情報元]Venner Shipley’s Intellectual Property Magazine Spring/Summer 2013
[担当]深見特許事務所 丹羽愛深