Myriad 米国最高裁判決-単離した遺伝子の発明性-
アンジェリーナ・ジョリーが両方の乳房の乳腺を切除する手術を受けたとのニュース(ニューヨークタイムズ紙:2013 年5 月14 日付)が世界中に衝撃を与えましたが、今度はその診断に用いられるMyriad 社の検査キットに関係するBRCA1,2 遺伝子特許の一部が米国最高裁で全員一致で無効と判断されました(Association for MolecularPathology v. Myriad Genetics,Supreme Court, No.12-398, 2013.6.13)1)。
これらの関連情報を、以下にご報告致します。
(1)米国
USPTO は、従来isolated DNA(単離した遺伝子)は101 条の特許対象に該当するとして多数の特許を認めていました。しかし、米国最高裁判決は、自然に存在するisolated DNA は、たとえ化学結合を切断して調製したとしても自然の産物に過ぎず、発明ではなく特許対象でないと判示し、従来のUSPTO の審査運用を否定しました。また、本判決は、cDNA 等の自然には存在しない人工的な遺伝子は特許対象であると判示しました。さらに、本判決の17~18 頁に、本判決が影響を与えないものが列記されており、方法発明、新規な知識の適用に関する発明等が挙げられています。従って、今後、米国では、用途または方法の形式での特許化が有用と考えられ、物の発明で特許を取るにはisolated DNA に何らかの改変を加えた物にしなければなりません。また、本判決に関してインターネット上では、自然に存在する物質、例えばタンパク質、ペプチド、抗生物質、ホルモン等は特許対象かが不明である等の多くのコメントがされております。これらにつきましては、今後の判決の蓄積が待たれます。
最高裁判決が出された同じ日にUSPTO は審査官にメモランダムを展開しました2)。自然に存在する核酸およびその断片に係る物の発明は単離されたか否かに関わらず拒絶すべきであること、cDNA 等の自然には存在しない核酸は特許対象であること、自然に存在する核酸を含む方法等のクレームは特許対象に該当し得ること、さらに今後よりわかりやすいガイダンスが発行されること等が述べられています。
(2)オーストラリア
米国と同様の無効訴訟が起こされ、オーストラリア連邦裁判所が判決(Cancer VoicesAustralia v. Myriad Genetics, [2013] FCA 65, 2013.2.15)3)を出しました。争点は、isolated DNA が同国特許法18 条(1)(a)における「製造の態様(manner of manufacture)の発明」に当たるかです。条文の解釈、同国および他国の判決を参考にして、isolatedDNA は生体内のDNA をカバーせず、生体内から単離されたDNA しかカバーしないことから、製造の態様に該当し、「特許対象である」との判断がなされました。本判決は控訴され、現在、連邦裁判所大法廷で審理が進められています。
(3)欧州
欧州には対応特許4 件(EP 699754,EP 705903,EP 705902,EP 785216)が存在し、そのいずれもがフランスの国立研究機関等から多数の異議申立がなされ、2008 年までに異議/審判で特許有効と判断されています4)。3 件の審決(T 080/05,T 666/05,T 1213/05)において、異議申立人の「遺伝子配列は自然界に存在するものであり、発明ではなく発見に過ぎないため、EPC 52 条(2)(a)の特許対象に当たらない」との主張について、EPC 52 条(2)(a)に対応する規則23e 条(2)に従って、単離された遺伝子配列は「特許対象である」と判断しています。
EU のバイオ指令(Directive 98/44/EC)の5 条(2)は以下のように記載されており、上記規則23e 条(2)はこの5 条(2)に該当するものとしてEPC 規則に導入されています。
ついては、EU 各国およびEPC 締約国ではisolated DNA 等は特許対象とされます。
[ Article 5 (2) ] An element isolated from the human body or otherwise
produced by means of a technical process, including the sequence or partial
sequence of a gene, may constitute a patentable invention, even if the structure
of that element is identical to that of a natural element.
(4)その他の国
日本およびその他の国では、対応特許が有効に維持されている模様です。
1)http://www.supremecourt.gov/opinions/12pdf/12-398_1b7d.pdf
2)http://www.uspto.gov/patents/law/exam/myriad_20130613.pdf
3)http://www.judgments.fedcourt.gov.au/judgments/Judgments/fca/single/2013/2013fca0065
4)http://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/archive/pdf/news_0_29.pdf
[情報元/担当]深見特許事務所 中村敏夫