キャドバリー社対ネスレ社/識別性獲得に至るといえるまでには認識されず
2010 年、ネスレ社は自社のKIT-KATチョコレートバーの形状に係る立体商標をイギリスに出願しました。キャドバリー社はこれに異議を申立て、(a)当該標章は識別性に欠け、さらに使用を通じても識別性を獲得していないこと、(b)当該標章の形状はチョコレートバーの性質に由来する形状であり、技術的成果を獲得する必要があることを主張しました。
<形状に関する拒絶>
形状に関する出願がイギリスで拒絶されるのは、製品の技術的解決や機能的特徴の独占を回避するためです。もし形状の本質的特徴が技術的成果を達成するために必要とされる場合に、本質的特徴以外の無作為に抽出される特徴が消費者になんら現実的影響を与えないならば、拒絶理由の適用を回避できないでしょう。
ヒアリング・オフィサーは、KIT-KATバーの本質的特徴を以下のように判断しました。
・長方形型のバー
・バーの”指形小片”
・バーに刻まれている、バー中の”指形小片”数を決定する溝の数
ヒアリング・オフィサーは、型抜きチョコレートビスケットやそれらのバーにおいて、KIT-KATバーの形状は簡単で安価なチョコレートバー製造方法であると結論づけました。その他のチョコレート製品が”長方形板”とは言われないという事実を以って、KIT-KATバーの形状が型抜きチョコレートの基本的な形状でないとはされないのです。それゆえ、KIT-KATバーの形状は型抜きチョコレートという商品の性質に由来するとして、キャドバリー社の異議は支持されました。
また、バー上の溝も、それらが設けられている目的はバーを”指形小片”に分けるためのものであるため、技術的機能を有するとされました。包装の封を開けるまでKIT特KATバーの形状はわからないから、上述の溝は、バーを分割する以外の恣意的な機能を有しません。さらにはKIT-KATバーという製品は分割できるように設計されており、”指形小片”同士を縦に分断できるのですが、ネスレ社も自社のマーケティングキャンペーンを通じ、バーの簡単に割れる特性を浸透させました。
<識別性>
キャドバリー社の証拠から、2010 年7 月他の当事者により”指形小片”が2本であるKIT-KATバーが使用されている事実が示されました。また、溝により”指形小片”を分けることのできる他のチョコレート製品が存在することも判明しました。それに応じて、ヒアリング・オフィサーは以下のように判断しました。KIT-KATバーの形状は標準範囲内かつ菓子業界では慣習的であるからして、チョコレート製品に関しては、そのような形状は本質的に登録できるというものではありません。
さらに、KIT-KATバーの形状は、ネスレ社の使用を通じて識別性を獲得するには至っていないことが判明しました。ヒアリング・オフィサーはKIT-KATバーはチョコレート製品市場1~2%を占めており、イギリスでは人気のあるチョコレート製品の一つであることを認めました。さらにKIT-KATバーがイギリスで75 年以上使用されていることも判明しました。ネスレ社が調査した人々のうち50%以上の人がバーの形状をKIT-KAT製品だと認識している点も受入れられました。しかしながらそうした証拠は、これら消費者が―識別性の獲得を見出すには必要なのですが、―商品の出所を識別するのに形状に頼っていることを示していない、とヒアリング・オフィサーは判断しました。ネスレ社は2010 年以前には自社製品販促の際バーの形状を使用しておらず、バーの形状が消費者の目に唯一とまるのは、製品が一旦開封されてからであることも認められました。ヒアリング・オフィサーには、消費者が購入後正しい製品を選択したかどうか確認するためにKIT-KATバーの形状を利用しているように思われませんでした。
それゆえ、本質的に登録性を有しておらず、使用による識別性獲得にも至っていないということで、チョコレート製品に対するKIT-KATバーの立体形状標章は拒絶されました。
<コメント>
大半のイギリスの消費者は、KIT-KATバーの立体形状を認識していたでしょうが、当該商標は機能的であり、消費者はKIT-KATもしくはネスレ製品を購入するのにバーの形状に頼っているわけではないため、ネスレ社は敗れました。標章の形状は消費者のチョコレートバーの購買を促進するものではなかったのです。もしネスレ社が、まさに”穴あきミント”を販売する際に行ったように、KIT-KATバーに言及せず立体形状の使用単独で証明を行ったなら、結果はまた違ったものになっていたでしょう。
ネスレ社は控訴する可能性が高いようです。我々皆がKIT-KATバーだと知っている立体形状に関する広告が人目を引き、KIT-KATという文字の使用が2 番手の位置になった場合には、我々がネスレ社の新たな広告キャンペーンも見るということもあるかもしれません。
[情報元]D YOUNG & CO TRADEMARK NEWSLETTER, Sep. 2013
[担当]深見特許事務所 並川鉄也