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RED ALERT/顕著性の欠如に関する決定についてのヒント(欧州)

 色彩や形状や音や匂いなどいわゆる「非伝統的商標」の登録を獲得することは難しいことで悪名高いです。よくある拒絶理由は、そうした標章の(特別)顕著性の欠如です。顕著性を有し商標の本質的本来的機能を果たすためには、標章は、関連分野の標準的なものや習慣的なものからはっきりと区別できるものではならないとされています(C-456/01 P and C457/01 P Henkel v. OHIM [2004] E.C.R. I-5089)。使用による顕著性(識別性)の獲得の証拠を提出することは、上述の登録へのハードルを克服するのに有益です。
 この問題が周知されるきっかけとなる有益なものを、T-208/12 Think SchuhwerkGmbH v. OHIM に関する高等裁判所(GC)2013 年7 月11 日判決に見ることができます。出願人はオーストリアの靴会社Think Schuhwerk GmbH であり、靴ひもの終わりに赤い先端(ひも先金具)を有するひも靴について第25 類でCTM 出願をしました(下記図)。
 審査官は、欧州共同体商標(CTMR)7 条(1)(b)における顕著性の欠如を理由に登録を拒絶しました。これは審判部でも支持されました。審判では、靴ひもの終わりに赤い先端を用いることは、編み上げ靴の標準的デザインとはっきりと異なる印象を生みだすものではなく、消費者は当該商標を出所を表示するものではなく靴のデザインの一変形として認識するだろう、と考えられました。一般裁判所(GC)への控訴では、出願人は4つの申し立てを前面に押し出しました。即ちCTMR 75 条及び76 条違反、CTMR 7条(1)(b)適用の誤り、さらに衡平の原則違反を主張しました。
 GC は、7 条(1)(a)に関する審判の論について意見を述べる機会がなかったという75条に基づく申し立てを却下しました。なぜなら、7 条(1)(b)に基づいて決定が下されたとすれば、出願人の申し立ては不適当だからです(下記参照)。
 出願人は、靴と靴ひもは市場において様々な型や色で存在していることを認めている一方で、審判部が審決の理由を述べなかったと主張しましたが、その主張はGC によって却下されました。なぜならGC は、より重要な議論は、理由付けの不足ではなく当該標識が顕著性を有するかといった実質的な問題との関係であると考えたからです。
 さらにGC は、顕著性の審査時には、標準的な消費者が標識を出所を表示するものとみなさないことを確認するために、製品のマーケティングから通常獲得される実務的経験から生じる事実を基礎に、審判官は顕著性について分析するだろうし、また、審判官はそうした実務的経験の具体例を引用する必要はないとした上で、76 条に基づく出願人の主張も却下しました。とりわけ、出願人は関連する公衆が赤い先端を出所を示すものとして認識するだろうことを証明する証拠を示しませんでした。GC はまた、顕著性を評価するに際し、オリジナリティと新規性は決定的な要因ではないことを強調しました。
 審判において7 条(1)(b)が誤って適用されたという出願人の申し立てについて、GCは、赤い先端が指定商品の外観と「一体化」しており、赤い先端が靴ひもの形状から独立していないことを主たる理由として、この問題に関する、3D 商標や図形商標にあてはめ可能な判例法-標識がその分野における標準的なものや習慣的なものからはっきりと区別できるものでない限り、平均的消費者は、製品の外観に基づいて商品の出所を推測しないものであるという判例法―が今回の事件では適用されると論じました。GCは、靴ひも上の赤い先端はめずらしいという出願人の主張を却下し、当該製品との関連において、消費者が払う注意は標準程度であると考えました。さらにGC は、靴ひもにおいて赤色を独占させないことには公共の利益がないという出願人の主張も却下しましたが、この主張はどちらかといえば7 条(1)(c)に関するものだと考えました。
 最後に、GC は衡平の原則に関する違反はないとしました。
 消費者にとってその標識が出所を表示するものであるという主張を裏付けるべく使用による顕著性の獲得に関し十分な証拠を提出することがいかに重要か、非伝統的商標の出願人に思い起こさせるのに、この決定は有益なものです。

[情報元]D Young&Co Trademark Newsletter, No.71, November 2013
[担当]深見特許事務所 並川鉄也