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PTAB は、申立人の主張を全面的に採用することができる

 PTAB(特許審判部)が、当事者の主張を全面的に採用してもよいかどうかの問題に対して、CAFC は、当事者の主張に本質的に基づく PTAB の判決を支持し、クレームが先行技術に対して自明であり、先行技術文献を組合せる十分な動機付けがあると判示しました(Outdry Technologies Corp. v. Geox S.p.A., (Fed. Cir. June 16, 2017)。
 Geox は、Outdry Technologies の特許に対して、当事者系レビュー(IPR)を申請し、Outdry の皮革を防水する特許方法は、先行技術に対して自明であると主張しました。Outdry の特許の明細書には、先行技術として、皮革の内部に半透膜を縫い合せまたは接着させることを含む皮の衣類および皮靴を防水するための方法が記載されています。明細書には、先行技術の方法では、水クッションが形成されて、水が皮に浸透し、膜と内部表面との間に水が閉じ込められる問題が指摘されています。特許方法は、半透膜をドット状の接着パターンを介して皮革上に「直接的に押し当てる」ことによって、この問題を解決しようとしたものです。
 しかしながら、PTAB は、そのような方法は、先行技術に対して自明であると判断しました。Outdry は、上訴して、PTAB は、「直接的に押し当てる」を誤って解釈するとともに、PTAB は、当業者が、なぜ様々な先行技術文献を組合せるように動機付けられたかを十分に説明していないと主張しました。
 最も広い合理的解釈基準を適用することによって、CAFC は、PTAB による「直接的に押し当てる」の解釈を支持し、Outdry が提案している狭い解釈は、明細書にサポートされていないと述べました。自明性の問題に対して、Outdry は、PTAB が、先行技術の組合せを判断するのに Geox の申立にのみ依拠して、自ら明確に認定しなかったのは適切でないこと、PTAB が、特許明細書に記載されている具体的な問題を解決するために、当業者がなぜ先行技術を組合せるように動機付けられたかの理由を説明しなかったことを主張しました。しかしながら、CAFC は、当業者は、先行技術を組合せることに動機付けられるであろうとする PTAB の判断、および PTAB は、発明者が直面している問題に対する探究を組合せる動機を制限するような義務はないとする判断を支持しました。
 PTAB が申請者の主張に依拠した点に関して、CAFC は、そのような依拠は、先行技術を組合せる動機を認定するための十分な説明の効果を弱めるものではないと述べました。このように述べることによって、CAFC は、申立人の主張に依拠した点が否定された以前の判決と、本件とを区別し、本件では、PTAB は、当業者が、なぜ先行技術文献を組合せるように動機付けられるかの理由を明確に説明し、PTAB による十分な事実の引用および説明があったと判示しました。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol.20, No.7
[担当]深見特許事務所 西川 信行