(英国)英国控訴裁判所がソフトウェア関連発明の保護適格性に対する英国特許裁判所の判断を支持
2014年11月13日、英国控訴裁判所は、Lantanaの特許出願(GB 2470521 A)に係る発明の貢献はコンピュータソフトウェアそれ自体であるため、英国特許法1条2項の規定により保護適格性を有していないとの英国知的財産庁及び英国特許裁判所の判断を支持しました。
Lantanaのクレームはローカルコンピュータとリモートコンピュータとを含み、(1)ローカルコンピュータには、リモートコンピュータにある文書のリストを含むローカルデータストアがあり、(2)ローカルコンピュータは、文書のリストにおけるファイルを特定する電子メールをリモートコンピュータに送信するようにプログラムされ、(3)リモートコンピュータは前記電子メールで特定されたファイルを選択して、前記ファイルのコピーをローカルコンピュータに送り返す電子メールを生成する、というものです。
英国控訴裁判所は、同裁判所の先例であるHTC Europe Co Ltd v Apple Inc(2013)に従って、ソフトウェア関連発明の保護適格性を判断しました。この先例では、特許出願に係る発明の貢献が技術的であれば、発明の貢献はコンピュータプログラムそれ自体であるとはされず、保護適格性を有するとしております。英国控訴裁判所は、(ア)ステップ(2)における技術的ステップは、複数のコンピュータがインターネットを通じて互いに通信するというものであり、この技術的ステップは公知であるため、ステップ(2)は優先日当時の技術水準に対する技術的貢献を有しない、(イ)コンピュータウイルスが自動的に電子メールを送信することは優先日当時において常識であるから、ステップ(3)も優先日当時の技術水準に対する技術的貢献を有しない、(ウ)そのため、Lantanaの特許出願に係る発明の貢献はプログラムそれ自体にあると判断されるので、Lantanaの特許出願に係る発明は、英国特許法1条2項の規定により保護適格性を有していないと判断しました。
ソフトウェア関連発明の保護適格性を判断する際に出願時または優先日当時の技術水準を考慮するか否かの点で、英国における上記の判断手法はEPOの判断手法と異なります。英国では、特許出願に係る発明が保護適格性を有するか否かを判断する際に、特許出願に係る発明が出願時または優先日当時の技術水準に対する技術的貢献を有するか否かを検討します。特許出願に係る発明が出願時または優先日当時の技術水準に対する技術的貢献を有しないと判断された場合には、特許出願に係る発明は保護適格性を有しないと判断されます(英国特許法1条2項)。これに対し、EPOでは、特許出願に係る発明が保護適格性を有するか否かを判断する際、出願時または優先日当時の技術水準を用いることなく、特許出願に係る発明が技術的性質(technical character)を示すか否かが検討されます。特許出願に係る発明が技術的性質を示さないと判断された場合には、特許出願に係る発明は保護適格性を有しないと判断されます(EPC 52条)。出願時または優先日当時の技術水準は、特許出願に係る発明が保護適格性を有すると判断された後、特許出願に係る発明が新規性・進歩性を有するか否かを判断する際に検討されます。なお、この新規性・進歩性の判断は、特許出願に係る発明のうち非技術的特徴は考慮されず、特許出願に係る発明のうち技術的特徴にのみ基づいて行なわれます。
[情報元]J A Kemp Briefing, 21 November 2014
[担当]深見特許事務所 日夏貴史