欧州バイオ指令6条(2)(c)の「ヒト胚」に関する欧州連合司法裁判所の大法廷判決
バイオテクノロジー発明の法的保護に関する1998年7月6日の欧州議会及び理事会指令98/44/EC(バイオ指令)6条(2)(c)は、「ヒト胚の産業又は商業目的の使用」は特許保護適格性を有しない旨規定しております。この規定を受けて、欧州特許条約(EPC)は、「その商業的使用が公序良俗に反する発明」には欧州特許は付与されない旨規定し(53条(a))、欧州特許規則は、EPC 53条(a)の下で、ヒト胚の産業または商業目的の使用に係るバイオテクノロジー発明について、欧州特許は付与されない旨規定しております(規則28(c))。
従来、欧州連合司法裁判所は、2011年、ブリュストル事件(C-34/10)において、バイオ指令6条(2)(c)における「ヒト胚」は、受精後のいかなるヒトの卵子、成熟したヒト細胞から細胞核を移植したいかなる非受精のヒトの卵子、及び分裂とさらなる成長が単為生殖によって促進されたいかなる非受精のヒトの卵子を含む旨判示しておりました。
International Stem Cell Corporation(ISCO社)は、単為生殖からヒト胚を生産する方法に関する特許出願と、このようなヒト胚から作成された合成角膜組織に関する特許出願とを、英国知的財産庁に出願しました。英国知的財産庁は、上記バイオ指令及びブリュストル事件に基づいて、これらの特許出願を拒絶したため、ISCO社は英国特許裁判所に提訴しました。 ISCO社は、胚盤胞の段階を越えて成長することを妨げる固有の生物学的制限のために、単為生殖によっては、ヒトに成長し得ないことを示す証拠を提出しました。そこで、英国特許裁判所は、欧州連合司法裁判所に、「分裂とさらなる成長が単為生殖のみによって促進された未授精のヒトの卵子であり、受精した卵子とは対照的に、多能性細胞のみを含むがヒトに成長することができないものは、バイオ指令6条(2)(c)における『ヒト胚』に含まれるか。」という質問を付託しました。
2014年12月18日、欧州連合司法裁判所は、バイオ指令6条(2)(c)は、人間の尊厳に対する敬意に影響を及ぼし得る特許保護適格性の可能性を排除することを目的とすることを指摘した上で、分裂とさらなる成長が単為生殖によって促進された未授精のヒトの卵子は、現在の科学的知識に照らしてヒトに成長する内在的能力を備えていない場合には、バイオ指令6条(2)(c)における「ヒト胚」に該当せず、特許保護適格性を有する旨の大法廷判決(C-364/13)を下しました。この判決は、欧州域内におけるこの分野の研究の商業化に向けて、前向きな一歩とみなすことができるでしょう。
[情報元]Mewburn Ellis, Mews News, January 2015
[担当]深見特許事務所 日夏貴史