EPO拡大審判部審決G-3/14:異議申立手続における特許クレームの明確性要件の審理の可否
欧州特許条約(EPC)101条3項は、「異議部は、異議申立手続において、欧州特許の特許権者によりなされた補正を考慮して、特許及びその特許に係る発明が、…(b)本条約の要件を満たさないという見解を持った場合は、特許を取り消す。」旨規定しております。条約84条は、「クレームは明確かつ簡潔でなければならず、明細書によって裏付けられるものとする。」と規定しておりますが、条約100条に規定される異議申立の根拠に条約84条違反が含まれておりません。そこで、異議申立手続において、欧州特許の特許権者により補正されたクレームについての条約84条の要件(明確性要件)の適合性を、(補正によって新たに導入された部分以外も含む)補正後のクレームの全体について審理できるのか、それとも、補正後のクレームのうち補正によって新たに導入された部分についてのみ審理できるのかが問題となりました。
この問題について、2015年3月24日、欧州特許庁の拡大審判部は、下記タイプA(i), (ii), Bのいずれの補正も条約101条3項の「補正」に該当するとともに、条約84条も条約101条3項の「本条約の要件」に含まれるとしたうえで、条約101条3項の立法過程及び改正の経緯を踏まえて、「条約101条3項の下において、補正された特許が条約の要件を満たすか否かを考慮するに際しては、補正が条約84条に対する不適合性を導入する場合のみ、かつ、当該補正が条約84条に対する不適合性を導入する範囲に限り、特許のクレームについて条約84条の要件の適合性が審理される」旨の審決(G-3/14)を下しました。
具体的には、特許時の一の従属クレームの全ての特徴を独立クレームに挿入する補正(タイプBの補正)、及び特許時の一の従属クレームが代替的な実施形態を含み(例えば、X or Y)、そのうちの一つ(例えば、Y)を独立クレームに挿入する補正(タイプA(i)の補正)は、特許時のクレームに対して何ら新たな部分を導入しないので、異議申立手続では、これらの補正は条約84条の要件の適合性の審理の対象外とされます。これに対し、特許時の一の従属クレームの一部の特徴を独立クレームに挿入する補正であって、該一部の特徴は、補正前に従属クレームの他の特徴と結合されておりましたが、補正後では、該他の特徴と結合されていないもの(タイプA(ii)の補正)は、異議申立手続において、条約84条の要件の適合性の審理の対象となります。
[情報元]EPO拡大審判部審決G-3/14
[担当]深見特許事務所 日夏貴史