欧州共同体商標出願「SWATCHBALL」への異議申立に関する第一審判決
第一審裁判所は、欧州共同体商標出願「SWATCHBALL」に対するSwatch AG(「Swatch社」)による異議申立(商標「SWATCH」に係る同社の名声に基づくもの)を棄却しました。関連需要者が商標「SWATCH」と「SWATCHBALL」とを関連付ける証拠が無かったことが理由でした。
出願人であるPanavision Europe Limitedは、第9、35、41、42類において、商標「SWATCHBALL」について、欧州共同体商標出願を行ないました。指定商品・役務には、「レンズフード選択用の電子出版物」等と、それらの小売役務及びコンサルタント役務が含まれていたところ、時間管理を含まない商品・役務へと減縮補正されました。
Swatch社は、特に、第14類の「時計」に係る「SWATCH」の語の様々な先行商標に基づき、上記出願に対して異議申立を行ないました。それに対し、異議申立部は、異議不成立決定を下し、審判部は、同決定への不服申立を棄却しました。
共同体商標規則第8条第5項の異議理由について、審判部は、フランス、ドイツ、スペインにおいて、Swatch社が、第14類の商品に係る商標「SWATCH」について、名声を確立していたことを認めました。しかしながら、異議対象出願の指定商品・役務は、Swatch社のものと著しく相違するため、商標「SWATCHBALL」が関連需要者に商標「SWATCH」を想起させる可能性は低いとしました。また、審判部は、異議対象出願が先行商標の希釈化を起こす又はそれにただ乗りするものであることを、Swatch社は立証していないと認定しました。
第一審裁判所は、商標が類似するからと言って、必ずしも関連需要者がそれらの商標を互いに関連付ける訳ではないという事実を繰り返し述べました。更に、関連性が存在するとしても、必ずしも先行商標が害されることにはならないと指摘しました。
第一審裁判所は、先行商標「SWATCH」が名声を獲得しているとしながらも、商標「SWATCH」と「SWATCHBALL」とが需要者間で関連付けられ得るか否かに関する全要素を判断し、その可能性は低いと結論付けました。
一方では、第一審裁判所は、関連性の認定に有利な要素、即ち、両商標の類似性と先行商標の高い名声を考慮しました。しかしながら、他方では、流通経路の相違、互換性のある又は競合する商品・役務でないこと、目的や用途の著しい相違等、両商標に係る商品・役務の性質が異なり、その結果、商品・役務の類似性が極めて限られたものであること等の様々な要素が、関連性の認定に不利なものでした。
第一審裁判所は、異議対象出願の指定商品・役務の専門家需要者は、先行商標「SWATCH」にも気付き得るが、同じ店舗にて両商標に係る商品に遭遇する可能性は極めて低いため、両商標を関連付けることはないという点で、審判部と見解を同じくしました。
本事件は、異議申立人が共同体商標規則第8条第5項における名声を異議理由とする場合には、関連需要者が商標を関連付ける必要があることを強調しています。
[情報元]D Young & Co Trade Marks Newsletter, 2015年9月
[担当]深見特許事務所 小野正明