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(ドイツ)実用新案制度 -侵害訴訟における強力な武器-

 ドイツにおいて、実用新案による保護が侵害訴訟でいかに有効であるかは、特に特許による保護が伴っている場合には、過小評価されがちです。そこで、実用新案による保護の利点について、特許とも比較しながら、簡潔に紹介したいと思います。
(1)係属中の特許出願(つまりPCT出願、欧州特許出願、またはドイツ特許出願)の出願日から10年以内であれば、特許出願からドイツ実用新案登録出願を分岐させることができます。実用新案を分岐させる場合、分岐元の特許出願のクレームとは無関係に、具体的な侵害品を対象とするクレームにすることができます。特許出願のクレームの文言に限られず、図面を含む出願の開示の全てを利用して、実用新案を分岐させることができます。係属中の一つの特許出願から、全く異なるクレームを有する多数の実用新案を分岐させることができます。これにより、低コストで包括的権利を発生させることができ、侵害者が権利範囲を回避することを困難にできます。
(2)実用新案は、非常に早く(1ヶ月から最高3ヶ月で)登録されます。登録のために新規性および進歩性の審査は行なわれません。出願費用が低額であること、審査手続を省略できることにより、分岐した実用新案にかかる費用は、特許出願と比較して低額になります。
 登録取消請求が特許庁に提出されたときにのみ、新規性および進歩性が審査されます。取消手続の最終の決定までの期間は、約3年です。
(3)取消手続において実用新案の法的有効性を審査するとき、進歩性の審査に関しては特許と同じ基準が使用されます。しかし、新規性については、以下の点で特許と異なります。
-公然実施に関しては、ドイツ国内での実施のみが適用されます。
-特許と異なり、口頭での発表は先行技術ではありません。たとえば、口頭でのみ行なわれる講義は、特許の場合は新規性喪失事由ですが、実用新案には適用されません。
-6ヶ月間のグレースピリオド期間があります。この期間は、実用新案の出願日ではなく、優先日を基準として計算されます。
(4)実用新案権に基づく差止請求および損害賠償請求ができます。実用新案権を利用すれば、特許権の設定登録よりもずっと前に、迅速に侵害者に対する行動を起こすことができます。
(5)実用新案登録出願には、特許出願とは異なり、クレーム数に対する付加費用は必要ありません。したがって、低額な出願費用の支払いだけで、好きなだけ多くのクレームを作成することができます。
 さらに、発明の単一性が問題になることはありません。
(6)欧州特許またはドイツ特許が登録された場合でも、異議申立手続が開始されれば、実用新案の分岐が依然として可能です。
(7)安い調査費用で、実用新案の全てのクレームについて、ドイツ特許庁による調査を行なうことが可能です。通常、3~6ヶ月以内に調査結果を得ることができます。
 実用新案権の存続期間は10年間ですが、技術革新は比較的短命であり7年後、10年後には新たな開発技術によって置き換わるのが通常です。問題になることは少ないように思われます。特許権が維持される期間も、通常は10~12年間です。
 このように、世界的に見ても特有の、係属中の特許出願からの実用新案の分岐によって、侵害者に対する非常に有効で戦略的な武器が提供されます。よって、欧州における権利を保護するために、この有効な武器を活用する価値はあります。

[情報元]Bockhorni & Kollegen事務所, 2015年9月
[担当]深見特許事務所 村野 淳