純度に特徴のある数値限定発明の新規性が認められるためには
数値限定発明がその出願前に公知になった発明と比較して数値限定の有無または範囲においてのみ差がある場合、その数値限定が通常の技術者が適宜選択できる周知・慣用の手段に過ぎず、これによる新しい効果も発生しないのであれば、その数値限定発明は新規性が否定されます(大法院2013.5.24.言渡し2011フ2015判決)。しかし、その数値限定が通常の技術者が適宜選択できる周知・慣用の手段の範囲を超えたり新しい効果を現わす場合には、その数値限定発明は新規性が否定されません(特許法院2017.7.14.言渡し2017ホ1373判決)。
事実関係
原告は発明の名称が「高純度カルコブトロール」である特許第1251210号に対して無効審判を請求したが、特許法院は本件の請求項3*の発明が先行発明によって新規性が否定されないという理由で原告の審判請求を棄却し、原告はこれを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起しました。
*[請求項3]ガドブトロール(Gadobutrol)と99.0%以上の純度を有する10-(2,3-ジヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)プロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ酢酸のカルシウム錯体(以下、「カルコブトロール」)を含む造影剤組成物
法院の判断
本件の請求項3の発明と先行発明はともにガドブトロールとカルコブトロールを含む造影剤組成物という点では同じであるが、請求項3の発明はカルコブトロールの純度を99.0%以上に限定した一方、先行発明はカルコブトロールの純度を限定しなかったという点で差がある。
ある低分子化合物とその製造方法を開示した文献は、特別な事情がない限り、通常の技術者が望む全ての水準の純度の化合物を開示したと見なければならないので、特許発明が先行発明に比べて単純に化合物の純度を限定したことに過ぎない場合には特別な事情がない限り新規性が否定されると見るべきである(特許法院2008.4.23.言渡し2007ホ8627判決)。しかし、公知の精製技術によっても特許発明で限定した純度の不純物を得ることができず、その特許発明で初めてそのような純度の化合物を得る技術を開示したとすれば、その化合物純度の限定は通常の技術者が適宜選択できる周知・慣用の手段と見ることができないので、その特許発明は先行発明によって新規性が否定されない。本件特許発明の優先権主張日前に公知となった精製方法では本件請求項3の発明で限定した純度99.0%以上のカルコブトロールを得ることができないことが認められる。このような点を上記の法理に照らしてみると、本件請求項3の発明でカルコブトロールの純度を99.0%以上に限定したことは通常の技術者が適宜選択できる周知・慣用の手段に該当しないと見なければならないので、本件請求項3の発明は先行発明によって新規性が否定されない。
コメント
従来、特許法院の判例では公知物質の純度限定のみ特徴がある発明の新規性を否定したが、本判決では、「純度を高める方法」ではなく「純度を限定した組成物」と記載されていたにも拘らず新規性が認められたことに意義があります。
したがって、公知の精製方法では得ることができなかった純度を得ることができる新しい精製方法を発明した場合、新しい精製方法に関する請求項だけでなく、「純度を限定した組成物」の発明も請求範囲に記載して、公知の精製方法で得ることができる純度および公知の精製方法を改良しても純度を高めることが難しかった理由などを明細書に具体的に記載する戦略が望ましいです。
[情報元]KIM & CHANG IP Newsletter, November 2017
[担当]深見特許事務所 小寺 覚