システムの能力を表わす機能的なクレーム文言は、不明確さを緩和する可能性がある
CAFCは、クレームが不明確なため無効とした地裁判決を覆して、争点となっているシステムのクレームは、2つの異なる主題(subject matter)のクラスを記載したものではないと判示しました(MasterMine Software, Inc. v. Microsoft Corp. (Fed. Cir., Oct. 30, 2017))。
MasterMineは、顧客関係管理(CRM)アプリケーションによって維持されるデータをユーザが取出して報告することができる方法およびシステムを開示した2件の特許を所有しています。これらの特許は、ユーザが迅速かつ容易にCRMデータを要約し、または閲覧することができるようにする”ピボットテーブル”を含む電子ワークシートの作成を記載しています。MasterMine(原告)は、Microsoft(被告)がこれら2件の特許を侵害しているとして、提訴しました。地裁は、装置と、装置を使用する方法の両方を記載したクレームは、不明確であると判示しました。原告は、判決を不服として控訴しました。
CAFCは、IPXL事件(IPXL Holdings, L.L.C.)に関する2005年の判決の分析に注力しました。IPXL事件において、CAFCは、装置と、その装置の使用方法の両方をカバーするクレームは、第112条第2項の下で、不明確であると判断しました。その理由は、侵害しているシステムを製造したことによって侵害が発生するのか、侵害する方法で実際にシステムを使用したことによって侵害が発生するのかが不明確であるというものです。
IPXL事件の判決、およびそれに続く判決にも拘らず、CAFCは、これまでにも、装置クレームは、機能的文言を用いたことによって、必ずしも不明確になるとは限らないことを指摘してきました。たとえば、HTC事件(HTC Corp. v. IPCom GmbH & Co.)において、機能的文言は、移動局が動作する下位のネットワーク環境を構築するための目的を提供するので、機能的文言を用いたクレームは、無効ではないと判断しました。CAFCは、他の事件においても、クレーム中の機能的文言は、記載されている機能の能力を表わすのに適しており、それゆえ、クレームは不明確ではないと判断しました。
CAFCは、本件のクレームが、動作動詞(presents, receives and generates)を含んでいるが、これらの動詞は、報告モジュールの能力を記述するために用いられる許容される機能的文言であると説示しました。さらに、CAFCは、本件のクレームは、システムのユーザによって実行される動作を記載したものではないという理由によって、本件のクレームは、IPXL事件のクレームと区別することができるものであって、むしろ、ユーザの選択を受けて応答するシステムの能力を記載したものであると判断しました。それゆえ、CAFCは、本件のクレームは、クレームされたシステムの能力を記述するために、許容される機能的文言を使用したものであり、システムを生産し、使用し、販売の申し出をし、または販売したときに限り、侵害が発生するのは明らかであると判示しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol.20, No.11 11月号
[担当]深見特許事務所 西川 信行