当事者系再審査の対象であるクレームは特許権者が開示した刊行物により自明である
(1)背景
SFC社(以下、請求人という)は当事者系再審査(inter partes reexamination)を請求し、Idemitsu社(以下、被請求人という)が有する米国特許第8,334,648号(以下、「648号特許」と記載します)のクレーム1-15は、被請求人が出願人であるWO2002/052904(以下、「Arakane」と記載します)により自明であると主張しました。特許審判部(Patent Trial and Appeal Board: PTAB)は請求人の主張を支持し、クレーム1-5, 7-11および13-14は、Arakaneにより自明であると認定しました。被請求人はその後CAFCに提訴しました。
(2)648号特許について
648号特許には「一対の電極と、電極間に挟持された有機発光媒体層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、電極を介して電圧が印加されると有機発光媒体が発光すること」が規定されています。
(3)Arakaneについて
Arakaneには「一対の電極と、電極間に挟持された有機発光媒体層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
有機発光媒体層が(A)少なくとも一種の正孔輸送性化合物と、(B)少なくとも一種の電子輸送性化合物とを含有する混合層を有し、
正孔輸送性化合物のエネルギーギャップEg1と電子輸送性化合物のエネルギーギャップEg2とが、Eg1<Eg2の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子」、が開示されています。
(4)CAFCにおける被請求人の主張
被請求人は、PTABによる以下の2点の認定は誤りであると主張しました。
[ア]当業者であれば、Arakaneにおいて開示される「正孔輸送性化合物」と「電子輸送性化合物」とが、常にEg1<Eg2の関係を満たすものであると理解するであろうという認定。
[イ]Arakaneは、「混合層」中にEg1<Eg2の関係を満たす「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」に加えて、Eg1<Eg2の関係を満たさない「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」を含み得ることを示唆しているという認定。
(5)CAFCの判断
CAFCはPTABの認定を容認しました。CAFCは、ArakaneにおいてEg1<Eg2の関係を満たさない「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」を含んだ場合には、係る「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」を含むことに起因する耐久性および抵抗の問題が生じ得ると認定しました。しかしながら、かかる欠点を有し得るにも拘わらず、当業者であればArakaneから「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」を含む「有機エレクトロルミネッセンス素子」に想到し得ると結論付けました。
更にCAFCは、648号特許には「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」のエネルギーギャップに関する規定はされておらず、また、Arakaneに開示されている「正孔輸送性化合物」および「電子輸送性化合物」から、648号特許に想到することは容易であるという見解を示しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol. 20, No. 10
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛