§101の抽象的アイデアのテストにおいて特定の技術的改良を十分考慮することの重要性を指摘したCAFC判決
連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、アメリカ合衆国国際貿易委員会(ITC)による35 U.S.C. § 101(特許適格性に関する規定)に基づく対象外判断を覆し、事件を差し戻しました。ITCは、クレームが抽象的なアイデアに関するものであるとし、特許適格性がないと判断していました。しかし、CAFCは、ITCの分析が「緩く、一般的すぎる」とし、この分析がクレームに示されている特定の技術的改良を十分に考慮していなかったと結論付けました。
US Synthetic Corp. v. International Trade Commission, Case No. 23-1217 (Fed. Cir. Feb. 13, 2025) (Dyk, Chen, Stoll, JJ.)
1.事件の背景
US Synthetic Corp. (USS)は、いくつかの企業(Intervenors:訴訟の当事者ではないものの、訴訟に参加する権利を得た第三者であって、特許侵害に関する訴訟において自らの利害が関係する場合に、訴訟に参加し、自己の立場を主張することができる(以下、「参加人」と称します))が、USSの5つの特許を侵害する製品を輸入し販売したとして、輸入禁止等の救済を認める関税法第337条(§337)に基づく訴えをITCに提起しました。ITCで争われた5件の特許のうち、米国特許第1,508,502号(以下、「本件特許」)のみが後にCAFCでの控訴審で問題となりました。本件特許の以下の特許クレーム1、2は、多結晶ダイヤモンドコンパクト(PDC)の組成に関するもので、PDCの製造方法の改良された方法を開示しています。
1. A polycrystalline diamond compact, comprising:
polycrystalline diamond table, at least an unleached portion of the polycrystalline diamond table including:
a plurality of diamond grains bonded together via diamond-to-diamond bonding to define interstitial regions, the plurality of diamond grains exhibiting an average grain size of about 50 μm or less; and
a catalyst including cobalt, the catalyst occupying at least a portion of the interstitial regions;
wherein the unleached portion of the polycrystalline diamond table exhibits a coercivity of about 115 Oe to about 250 Oe;
wherein the unleached portion of the polycrystalline diamond table exhibits a specific permeability less than about 0.10 G∙cm3/g∙Oe; and
a substrate bonded to the polycrystalline diamond table along an interfacial surface, the interfacial surface exhibiting a substantially planar topography;
wherein a lateral dimension of the polycrystalline diamond table is about 0.8 cm to about 1.9 cm.
(和訳:1.多結晶ダイヤモンドコンパクトであって、
多結晶ダイヤモンドテーブルを含み、前記多結晶ダイヤモンドテーブルの少なくとも未洗浄部分は、
ダイヤモンドからダイヤモンドへの結合により粒子間領域を画定する複数のダイヤモンド粒子であって、前記複数のダイヤモンド粒子は平均粒度が約50μm以下である、前記複数のダイヤモンド粒子と、
コバルトを含む触媒であって、前記触媒は少なくとも前記粒子間領域の一部を占める、前記触媒と、を含み、
前記多結晶ダイヤモンドテーブルの前記未洗浄部分は、約115 Oeから約250 Oeの保磁力を示し、
前記多結晶ダイヤモンドテーブルの前記未洗浄部分は、約0.10 G·cm³/g·Oe未満の比透磁率を示し、
前記多結晶ダイヤモンドコンパクトは、前記多結晶ダイヤモンドテーブルと界面表面に沿って結合された基板をさらに含み、
前記多結晶ダイヤモンドテーブルの横方向の寸法は、約0.8 cmから約1.9 cmである、多結晶ダイヤモンドコンパクト。)
2. The polycrystalline diamond compact of claim 1
wherein the unleached portion of the polycrystalline diamond table exhibits a specific magnetic saturation of about 15 G∙cm3/g or less.
(和訳:2.前記多結晶ダイヤモンドテーブルの前記未洗浄部分は、約15 G·cm³/g以下の特定の磁気飽和を示す、クレーム1に記載の多結晶ダイヤモンドコンパクト。)
ダイヤモンドテーブルの超硬質な性質により、PDCは「さまざまな機械的用途で利用されており(本件特許第1欄第20~25行)」、これには掘削工具や機械加工設備が含まれます。
2.ITCの判断について
ITCの行政法裁判官(ALJ)は、本件特許のいくつかのクレームが35 U.S.C. §§102、103、112に基づき有効であり、侵害されていると判断しました。しかし、ALJは、クレームが抽象的なアイデアに関連するとして、§101に基づき特許適格性を有しないと判断しました。ITCはこの判断を支持し、クレームが§112に基づく実施可能要件を欠いているという参加人の主張を却下しました。結果として、§337の違反に対する唯一の障害は§101の判決でした。USSはこの特許適格性を有しない旨の判断に対して異議を唱えてCAFCに上訴し、参加人はクレームが実施可能要件を欠いていると主張しました。
3.CAFCの判断について
CAFCは、クレームが抽象的なアイデアではなく、特定の技術的改良に向けられていると判断しました。CAFCは、技術分野における認識された問題に対する具体的な技術的解決策を提供するクレームは、§101の下で特許適格性を有すると一貫して説明してきました。ここで、クレームされた発明は、単に抽象的なアイデアを一般的なコンピュータ上で実装したものではなく、構成要素、寸法情報、そして固有の材料特性によって定義された物質の物理的構成に根ざした特定の解決策を提供していました。
最高裁の2段階のアリス・フレームワークを適用して、CAFCはアリスのステップ1において、CAFCはクレームが抽象的なアイデアに向けられているのか、それとも特許適格性を有する改良に向けられているのかを判断しなければならないと論じました。本事案において、CAFCは、クレームが抽象的なアイデアに向けられているのではなく、物質の非抽象的な組成に向けられた特定の解決策を示していると判断しました。具体的には、それはPDCという物質の組成に関連していました。過去の事例で特許適格性がないとされたクレームとは異なり、USSの特許は単に数学的なアルゴリズムや基本的な経済的慣行を記載したものではなく、PDCの製造方法の改良された技術的進歩を提供していました。
CAFCは、仮にクレームがアリスのステップ1で抽象的なアイデアに向けられているとしても、クレームされた発明には、アリスのステップ2に基づきその性質を特許適格な主題に変換するのに十分な発明的概念が含まれていると指摘しました。CAFCは、発明的概念が存在するのは、クレームがその分野で以前から知られていた、十分に理解されている、定型的で慣習的な活動を超える、特定の非従来型の解決策を記載している場合であると説明しました。ここでは、CAFCは、クレームされた発明がダイヤモンド、コバルト触媒、基板という構成要素の革新的な組み合わせと、特定の寸法情報(粒度)および材料特性(磁気飽和)を組み合わせて、改良された組成物であるPDCを実現していると判断しました。したがって、CAFCは、USSの特許が抽象的なアイデアではなく、特定かつ発明的な技術的改良をクレームしていると結論付けました。
最高裁の2段階のアリス・フレームワーク(MPEP2106より引用)
4.判決の意義
この判決は、クレームが抽象的なアイデアに該当するかどうかを判断する際に、具体的な技術的進歩を十分に評価することの重要性を強調しています。CAFCは、特許適格性の判断において、広範で一般的な分析に頼るのではなく、クレームが記載する実際の技術的革新を深く掘り下げるべきだとしました。
この判決はまた、抽象的アイデアを評価する際には、発明が実際に新しい技術的な進展をもたらしている場合、それが特許適格性を有するかどうかに重要な影響を与えることを示しています。
[情報元]
1.IP UPDATE (McDermott) “Diamond in the Rough: Federal Circuit Polishes§ 101’s Abstract Idea Test” February 21, 2025
2.US SYNTHETIC CORP., v. INTERNATIONAL TRADE COMMISSION, Case No. 23-1217(Feb. 13, 2025)CAFC判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1217.OPINION.2-13-2025_2467516.pdf
[担当]深見特許事務所 赤木 信行