特許されていない技術の州法に基づく盗用の主張を、 連邦特許法の目的と矛盾するものとして却下した地裁判決を支持したCAFC判決
仮想通貨のデータマイニング[1]に関する特許訴訟において、第一審であるデラウェア州連邦地方裁判所(以下「地裁」)は、特許を取得していない技術に関する州法に基づく盗用の主張(state law conversion claim)を、発明の公開を奨励することを目的として特許を保護する連邦特許法と矛盾するとして、棄却する略式判決を下していました。また、地裁は、発明者の追加訂正の要求について、特許発明への貢献についての明確な証拠が欠如するとして拒否していました。その後の控訴審において連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、これらの地裁の判断をいずれも支持する判決を下しました。
BearBox LLC v. Lancium LLC, Case No. 23-1922 (Fed. Cir. 2025年1月13日) (Stoll, Chen, Bryson, JJ.)
1.事件の背景
(1)当事者について
Austin Storms氏によって2018年に設立された、ルイジアナ州の企業体である、BearBox LLC(以下「BearBox」社)は、モバイル仮想通貨データセンターを開発および設計し、半メガワットのデータセンターを運営していましたが、電気代が高い上にデータセンターが多くのエネルギーを必要とするため、採算が取れませんでした。
McNamara氏とCline博士は共同で、2017年にLancium LCC(以下「Lancium社」)を設立しました。Lancium社は、風力発電所と同じ場所にデータセンターを配置して、風力発電によって生成された非常に変動性の高い電力を、電気代が安い時にデータマイニングに使用し、電気代が高いときには余剰電力を送配電網に販売することを目的とした企業体でした。
BearBox社のStorms氏は、Lancium社のMcNamara氏や最高財務責任者と、2019年5月に仮想通貨マイニングサミットで初めて出会いました。当時、BearBox社は新しく開発したBearBoxコンテナ[2]の顧客を探しており、Lancium社はそのコンテナの購入を検討していました。BearBox社とLancium社はどちらも、仮想通貨マイニングの収益性の高い期間を検出するために同様のソフトウェアを開発していました。
Storms氏とMcNamara氏は、仮想通貨マイニングサミットの会議の後の夕食中に、BearBox社のシステムについて話し合い、McNamara氏はその仕様と価格に興味を示しましたが、Storms氏はMcNamara氏にBearBox社の文書やソースコードを見せたことはありませんでした。夕食後、Storms氏とMcNamara氏は電子メールでテキストメッセージをやり取りし、Storms氏からのメールの添付ファイルには、BearBox社のシステムの仕様書等の説明書類が含まれていました。このメールのやり取りが、両者間の最後の交信となりました。
(2)Lancium社による2件の特許出願について
両社のシステムは、電気料金が安いときには仮想通貨をマイニングし、電気料金が高いときにはエネルギーを送配電網に販売することを目的としていました。Lancium社は、BearBox社のStorms氏が2019年5月の仮想通貨マイニングサミットでLancium社のMcNamara氏に会う15か月前に提出された国際特許出願(WO2019/139632、以下「’632出願」)で、これらの概念を開示しました。
「未使用のエネルギー源を使用して柔軟なデータセンターに動的電力を供給する方法とシステム」と題された’632出願では、McNamara氏とCline博士の両名が発明者として挙げられており、優先日は2018年1月です。’632出願の図6(下図参照)は、風力発電所に接続されたデータセンター(200)と、地元の変電所(690)および送電網(660)への接続を示しています。
[’632出願の図6]
’632出願の図2(下図参照)には、ラックとサブセット(240)に編成されたデータセンターの個々のコンピューティングシステム(100)と、データセンター制御システム(220)が示されています。データセンター制御システム(220)は、「1つ以上のコンピューティングシステム(100)への電力供給を動的に調整する(dynamically modulate)」ように構成されたコンピューティングシステムである可能性があります。
[’632出願の図2]
仮想通貨マイニングサミットの約5か月後の2019年10月に、Lancium社は、McNamara氏およびCline博士を発明者とする仮特許出願(No.62/927,119、以下「’119出願」)を提出しました。’119出願は、後に特許(US10,608,433、以下「’433特許」)されています。
’119出願(’433特許も同様)に開示された発明は、電力網からの電力を使用して計算操作を実行するように構成された一連のコンピューティングシステムであって、一連の状態を監視し、少なくとも部分的には時間間隔に関連付けられた最小電力しきい値を指定する電力オプション契約に基づく電力オプションデータを受信する制御システムに関するものです(’433特許公報の第5欄48行~55行)。一連のコンピューティングシステムでは、電力オプションデータと1つ以上の監視対象状態の組み合わせに基づいて、負荷のパフォーマンス戦略を決定することもできます。パフォーマンス戦略では、各時間間隔の負荷の電力消費目標を指定し、各電力消費目標が各時間間隔に関連付けられた最小電力しきい値以上になるようにすることができます。コンピューティングシステムは、パフォーマンス戦略に基づいて1つ以上の計算操作を実行するための命令を提供できます(’433特許公報の第5欄60行~第6蘭13行)。
(3)BearBox社による訴訟の提起と、地裁の判断
’119出願が’433特許になった後、BearBox社は、Storms氏が発明したシステムをLancium社が盗用したとして、ルイジアナ州法に基づく技術の盗用を主張するとともに、’433特許についてStorms氏が単独の発明者であるか、または共同発明者の一人であることを主張して、地裁に訴訟を起こしました。ルイジアナ州法に基づく技術の盗用として、BearBox社は、BearBox社が発明し所有していると主張する、特許されていない技術の使用、販売、収益化に対する金銭的損害をLancium社から取り戻すことを明示的に求めていました。このようにBearBox社は、連邦法である特許法では保護されない技術思想に対して、特許侵害訴訟で用いられるような文言で特許法と同様の保護を求めました。
それに対してLancium社は、BearBox社の技術の盗用の主張を却下する略式判決を求め、地裁はこれに同意して、技術の盗用の主張を却下する略式判決を下しました。この略式判決に至るにあたり、地裁は、「BearBox社の技術の盗用の主張は特許侵害の主張に類似した保護を求めており、特許されていない技術に関する州法に基づく盗用の主張は、技術の公開を奨励する代償として保護するという連邦特許法の目的に反するため、州法に基づく主張は無効である」との判断を示しました。
Lancium社はまた、’433特許についてStorms氏が単独の発明者であるか共同発明者の一人であるというBearBox社の主張についても、略式判決を求めました。それに対して地裁は、Storms氏が発明者であることを立証する明確な証拠はないとは断言できなかったため、一旦は略式判決の申立てを却下しましたが、その主張についてはその後のベンチトライアル(陪審評決後の裁判官裁判)で改めて審理されました。当該審理において地裁は、仮想通貨マイニングサミットやその後の電子メールのやり取りに関するLancium社の証人による証言を信頼できるものと判断し、また、BearBox社は、Lancium社が独自に考え出す前に’433特許のクレームの主題をStorms氏が発明したか、あるいは発明創出に何等かの寄与をしたかを立証できなかったと結論付けて、BearBox社の主張を却下する判決を下しました。
2.CAFCの判断
上記地裁判決に対して、BearBox社はCAFCに控訴しました。控訴審においてCAFCは、以下に述べる理由により、ほぼ全面的に地裁の判断を支持する判決を下しました。
(1)BearBox社による、州法に基づく技術の盗用の主張について
控訴信においてCAFCはまず、BearBox社の州法に基づく盗用の主張に関する地裁の判断を評価することから始めました。CAFCは、1989年の「Bonito Boasts, Inc., v. Thunder Craft Boasts Inc.」事件連邦最高裁判決[3]および2005年の「Ultra-Precision Mfg. v. Ford Motor」事件CAFC判決[4]に依拠して、地裁の判断を支持しました。その具体的理由は次の通りです。
(i)連邦法が国の最高法規であることを規定した米国憲法第6条第2項に基づき、連邦法と矛盾する州法は無効である。
(ii)州は、連邦特許法では保護されない知的創造物に対して、特許のような保護を提供することはできない。
(iii)発明者によって公衆に自由に開示された、特許を取得していない実用的または設計的概念の享受を実質的に妨げる州法は、公衆への開示による活用推進という連邦特許法の最終目的に反する。
このような理由に基づき、CAFCは、BearBoxの州法に基づく盗用の主張は、その請求原因が本質的に特許権に基づく侵害の主張と共通するため、連邦特許法が州法に優先し、州法は適用除外とされることを確認しました。
(2)’433特許の発明者に関するBearBox社の主張について
CAFCは次に、Storms氏が’433特許の単独の発明者あるいは共同発明者の一人であるというBearBox社の主張を否定した地裁の判決を取り上げました。
裁判所は、発明者記名の訂正に関する米国特許法第256条に基づき、発明者が誤って特許への記載を省略されていると判断した場合、発明者の資格の訂正を命じることができます。特許に自分の名前を発明者として記載することを求める者は、明確で説得力のある証拠によって発明者であることを証明しなければなりません。1998年のEthicon v. U.S. Surgical Corp.事件判決(以下「Ethicon判決」)において、CAFCは、「共同発明者とされる者の証言だけでは、明確で説得力のある証拠によって発明者であることを立証するには不十分であり、彼の証言を裏付ける証拠を提出しなければならない」との判断を示しました。またEthicon判決は、「証拠を裏付けるものは、物的証拠、創意プロセスに関する証拠、および発明者とされる人物以外の誰かの口頭証言を含む多くの形態をとることができると説明しました。
発明者に関する争いに最終的に勝つためには、明確で説得力のある証拠が必要であることから、BearBox社は、同社の証人による証言を裏付けるために、Lancium社との1回限りの電子メール交換でメールに添付した4つの添付ファイルを提示しましたが、そのどれもが発明者または特許取得済みの主題を証明するものではありませんでした。
BearBox社は、Storms氏が特許クレームの発明の創出に寄与したかどうかの評価に際して、特許クレームの要素を組み合わせて検討することなく、個々の要素に焦点を当てたと主張しましたが、CAFCは、地裁によるクレームの記載の限定事項ごとの分析に問題はないと判断しました。CAFCはさらに踏み込んで、BearBox社は、Storms氏がLancium社に先立って特許クレームの主題を導入したことを証明できていないと判断しました。
CAFCはさらに、共同発明者とされる人物は、発明の明確かつ永続的な概念、または少なくとも1つのクレームの実施に大きく貢献したことを示さなければならず、これらの貢献は、他の発明者との協力や共通の指示の下での作業など、共同行動の何らかの要素からも生じなければならないと指摘しました。
以上の審理結果に基づいてCAFCは、Storms氏が’433特許の単独の発明者または共同発明者の一人であるというBearBox社の主張を却下した地裁の判断を支持しました。
[情報元]
1.IP UPDATE (McDermott) “No Co-Inventorship Absent Corroborated Conception” January 23, 2025
https://www.ipupdate.com/2025/01/no-co-inventorship-absent-corroborated-conception/
2.BearBox LLC v. Lancium LLC, Case No. 23-1922(Jan. 13, 2025)CAFC判決原文)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1922.OPINION.1-13-2025_2449602.pdf
[担当]深見特許事務所 野田 久登
[1] データマイニング(data mining)とは、一般に、統計学的な手法や人工知能を用いてデータを分析し、データから有益な知見を得ることを意味します。仮想通貨(暗号資産)のデータマイニングとは、取引などのデータをブロックチェーン(情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種)に保存する作業を行ない、その報酬として仮想通貨を得る行為を言います。
[2] ここで言う「コンテナ」は、モバイル型仮想通貨マイニング用のコンテナ型データセンターを意味します。近年のデータセンターには、即応性や拡張性が強く求められることから、運搬が容易なコンテナ型のものの開発が進んでいます。
[3] https://supreme.justia.com/cases/federal/us/489/141/
[4] https://law.resource.org/pub/us/case/reporter/F3/411/411.F3d.1369.04-1329.html