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連邦地裁は連邦民事訴訟規則12(b)(6)による訴状却下の申立の決定段階でクレーム解釈を行うことができるとしたCAFC判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、第一審の連邦地方裁判所による仮差止命令の却下および訴状の却下に対する控訴審において、連邦地方裁判所は、連邦民事訴訟規則12(b)(6)による訴状却下の申立の決定段階でクレームを解釈できるが、その範囲は、申立の決定に必要な範囲に限られる、と説明しました。

(UTTO Inc. v. Metrotech Corp., Case No. 23-1435(Fed. Cir. Oct. 18, 2024))

 

1.本件特許の概要

 UTTO Inc.(以下、「UTTO社」)は、米国特許第9,086,441号(以下、「本件特許」)の特許権者です。本件特許は、「現在の位置と既知の緩衝地帯を使用した埋設資産の検出」という発明の名称が与えられています。本件特許は、電話、電気、天然ガス、インターネット、または下水道管などの「埋設資産(地下の公共設備)」を検出および識別する方法のバリエーションについて説明しています。この方法の中核は、(a)人の位置を正確に特定するために地理的位置プロバイダー(たとえば、全地球測位システム(GPS))を使用すること、および(b)埋設資産の位置を特定してその周囲に緩衝地帯を生成するために以前に保存された埋設資産データを使用すること、の双方を含みます。この情報により、位置決め装置を持つ現場技術者は、その技術者が特定の埋設資産の緩衝地帯の内側にいるか外側にいるかを知ることができます。本件特許は、とりわけ、埋設資産に関する所望の情報が他の埋設資産からの干渉信号によって不明瞭になる可能性を低減する方法を教示しています。

 本件特許のクレーム1は以下のように規定しています(後述の争点となる文言を太字および下線で強調)。

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       1. A method on a mobile computing device for locating electromagnetic signals radiating from a buried asset, the method comprising:

   receiving, via a communications network communicatively coupled with the mobile

computing device, a group of buried asset data points corresponding to a particular buried asset sought by an operator of the mobile computing device;

   reading a predefined value pertaining to a width of a buffer zone;

   generating, based on the group of buried asset data points, a two dimensional area comprising the buffer zone at an above-surface location, wherein a width of the buffer zone corresponds to the predefined value, and wherein the buffer zone corresponds to the particular buried asset;

   iteratively executing the following four steps:

  1. a) calculating an above-surface location of the mobile computing device using spatial processes;
  2. b) determining whether the above-surface location of the mobile computing device is located within the two dimensional area;
  3. c) if the above-surface location is not located within the two dimensional area, displaying a first graphic in a display of the mobile computing device; and
  4. d) if the above-surface location is located within the two dimensional area, displaying a second graphic in the display.

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2.事件の経緯

(1)訴訟の提起

 2022年3月25日、UTTO社は、①本件特許に対する特許侵害、および②不正競争行為、という2つの理由を主張して、競業相手であるMetrotech Corp.(以下、「Metrotech社」)をカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(以下、「連邦地裁」)に提訴しました。UTTO社はまた、仮差止命令も申し立てました。

 Metrotech社の位置決め装置は、“walk back(歩いて戻る)”機能を有しており、この機能により、その装置のユーザーがデータベースに接続し、そのデータベースに以前保存された1つまたは複数の位置ポイントを検索することを可能にします。ユーザーが“walk back”ポイント(ユーザが歩いて戻るべき位置ポイント)を選択すると、自身の位置に関する情報を持っている位置決め装置は、そのポイントにユーザーを誘導する矢印を表示します。装置を保持しているユーザーがそのポイントから10フィート以内にいる場合、画面には、そのポイントを中心とする円と、そのポイントに対するユーザーの位置を表すシンボルとで構成される“zero-in”表示が表示されます。ユーザーが円の中心に到達すると、装置は“walk back”ポイントへの到着を確認し、ポイントの座標を表示します。

(2)被告による訴状却下の申立

 Metrotech社は、仮差止命令の申立に異議を申し立てるとともに、UTTO社の訴状は救済が認められるべき請求を記載していないとして、連邦民事訴訟規則12(b)(6)の下にUTTO社の訴状が却下されることを求める申立を行いました。

 米国の特許侵害訴訟では、訴状(complaint)を受け取った被告が取り得る手段として、答弁書(answer)ではなく、連邦民事訴訟規則12(b)に規定する所定の理由について「訴状の却下の申立(motion to dismiss a complaint)」を提出することができます。それらの理由の中で、特に12(b)(6)は、「救済が認められるべき請求が十分に記載されていない(failure to state a claim upon which relief can be granted)」という理由を規定しており、この規定に基づいて、訴状の記載が不十分であると主張して訴えの却下を求めることが可能です。訴えが却下された場合であっても、「再度の訴えが可能(without prejudice)」として却下された場合には、記載内容を修正した訴状の再提出が可能ですが、「再度の訴えが不可(with prejudice)」として却下された場合にはもはや修正した訴状の再提出は認められません。

 なお、本件訴訟においては、UTTO社は、連邦地裁が仮差止命令および訴状の却下について判断する前に、①特許侵害および②カリフォルニア州法に基づく将来の経済的利益に対する不法妨害を主張するように、最初の訴状を修正しておりました(この訴状を「最初の修正訴状」と称します)。

(3)仮差止命令の却下

 2022年6月2日、連邦地裁は、UTTO社が連邦地裁のクレーム解釈に基づいて侵害の実体に関する勝訴の可能性を示せなかったとして、仮差止命令を却下しました。以下に、連邦地裁による却下理由の詳細について説明いたします。

 連邦地裁は、上記の本件特許のクレーム1の強調部分“receiving, …, a group of buried asset data points”および“generating, based on the group of buried asset data points”における“group of buried asset data points”という用語について、「通常のかつ慣用される意味(ordinary and customary meaning)」を反映させた解釈を採用して、埋蔵資産ごとに少なくとも2つの埋設資産データポイントが必要である、という解釈を採用しました。

 連邦地裁は、明細書の2か所で、所与の埋設資産について1つ以上の埋設資産データポインに言及していることを認めましたが、単数形への言及は2回だけしかなく、どちらもクレーム文言自体の通常の解釈をサポートしていない、と述べました。さらに、連邦地裁は、緩衝地帯の生成を示す図(図4Aから4G)はすべて複数のデータポイントを示している、と指摘しました。連邦地裁はまた、埋設資産データポイントのグループは、存在するのが1つのデータポイントだけであれば、1つのデータポイントを包含することを当業者であれば理解するであろうというUTTO社の主張には納得できない、と述べました。

 UTTO社は、埋設資産は典型的には、電力線、水道管、電話ケーブルであり、線を定義するには少なくとも2つのポイントが必要であり、当業者であれば、クレームの記載がそのような現実を反映しているが、データポイントが1つしかない場合にはその方法が機能しないという意味ではないと理解するはずである、と主張しました。連邦地裁は、この議論は自滅的であると示唆しました。なぜなら、線を定義するのに少なくとも2つのポイントが必要であれば、当業者はクレームの文言を、1つよりも多い、すなわち2つ以上を意味するものと解釈する可能性が高いからであります。

 本件特許では、緩衝地帯を生成するために「複数のポイント」の使用が必要であるのに対し、Metrotech社の“walk back”機能では1つのポイントのみが必要であるため、連邦地裁は、UTTO社は侵害の主張の正当性に関して勝訴する可能性を示していない、と結論付け、仮差止命令の申立を却下しました。

(4)最初の修正訴状の却下

 2022年7月8日、連邦地裁は、救済が認められるべき請求を記載していないとして最初の修正訴状を却下しました。ただし、最初の修正訴状では、仮差止命令の却下決定の段階になされた上記のクレーム解釈に基づいては、クレームの侵害は申し立てられていないとして、UTTO社が訴状の記載を修正することを認めました。

(5)2番目の修正訴状の却下

 その後、UTTO社は修正された2番目の訴状を提出しました。しかしながら、2022年10月4日に連邦地裁は、UTTO社が仮差止命令の却下決定の段階でなされたクレームの解釈に基づく侵害を裏付ける事実を申し立てなかったと指摘して、この2番目の修正訴状も却下しました。しかしながら、連邦地裁は再びUTTO社に訴状の修正の許可を与えました。

(6)3番目の修正訴状の却下

 UTTO社は3度目の訴状の修正を行ないました。しかし、2022年12月19日に連邦地裁は、仮差止命令の却下の命令におけるクレーム解釈を引用して3番目の修正訴状も却下し、今回はさらに訴状を修正することを認めませんでした。

 

3.CAFCの判断

 控訴審において、UTTO社は、2018年のCAFCの判例であるNalco v. Chem-Mod事件(Nalco Co. v. Chem-Mod, LLC, 883 F.3d 1337(Fed. Cir. 2018))を引用して、地方裁判所のクレーム解釈に異議を唱えるとともに、連邦民事訴訟規則12(b)(6)の下に訴状の却下の申立について決定する段階ではクレーム解釈は全面的に禁止される、と主張しました

 CAFCは、「事件における特定のクレーム解釈の問題を解決するために」地裁がクレーム解釈を行うことは必要な場合があり、Nalco v. Chem-Mod事件は、規則12(b)(6)の段階でクレーム解釈が全面的に禁止されるという原則を述べているわけではない、と説明しました。Nalco v. Chem-Mod事件は、訴状却下の適正さに関する合理的な決定に到達する前に、特定のクレーム解釈の争点を解決するためにさらなる手続が必要であるという結論を導くものと容易に理解される、とCAFCは指摘しました。CAFCはさらに、そのように理解することは、侵害に対するクレーム解釈の論理的関係性と、規則12(b)(6)の申立を認めるかどうかを決定する裁判所の通常の機能とを反映するものである、と指摘しました。侵害分析では、まず主張されたクレームの範囲と意味の分析が必要であり、次に「適切に解釈されたクレーム」が被疑侵害装置または方法と比較されます。多くの場合、クレームは内的証拠のみに基づいて解釈されますが、CAFCは、これは規則12(b)(6)に基づく申立てに対して決定を下す際に適切かつ日常的に行われている他の法的基準の解釈と本質的に異なるものではないと結論付けました。例として、CAFCは、米国特許法第101条に基づく訴状却下申立に関連して、規則12(b)(6)に基づく日常的な訴状の却下について言及しました。

 CAFCは、規則12(b)(6)の訴状却下の申立の判断段階でクレーム解釈の全ての争点を解釈する必要はなく、特許の無効や侵害など、特定の問題を決定するために必要な争点のみを解釈すればよい、と注意を喚起しました。CAFCはまた、専門家の証言という形の外的証拠がクレームの解釈に役立つ場合があり、専門家の利用は裁判官の裁量に委ねられていると指摘しました。

 この事件に関して、CAFCは連邦地裁のクレーム解釈の分析に満足せず、さらなる手続きのために事件を連邦地裁に差し戻しました。CAFCは、より充実した記録の必要性を強調し、その記録には外部証拠が含まれる可能性があると示唆しました。

 

[情報元]

情報元①

McDermott Will & Emery IP Update | October 31, 2024 “Pre-Markman Claim Construction Is OK, Within Limits”
https://www.ipupdate.com/2024/10/pre-markman-claim-construction-is-ok-within-limits/

 

情報元②

UTTO Inc. v. Metrotech Corp., Case No. 23-1435(Fed. Cir. Oct. 18, 2024)判決原文
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-1435.OPINION.10-18-2024_2404584.pdf

 

[担当]深見特許事務所 堀井 豊