国・地域別IP情報

対特許商標庁実務に関する最近の米国特許商標庁の発表

本年9月から10月にかけて、対特許商標庁手続きに際して実務者が留意すべきであると思われる事項が、米国特許商標庁(以下「USPTO」)から官報等において発表されましたので、そのうちの6件について、以下時系列的に紹介致します。以下の発表の主体は、いずれもUSPTOです。

 

1.特許審判部(以下「PTAB」)に対するクレーム訂正の申立てに関する最終規則を公表(2024919日)

 USPTOは、2024年9月18日付の官報[1]で、PTABにおける当事者系レビュー(Inter Partes Review: IPR)などで試行プロジェクトとして運用されてきたクレーム訂正の申立て(Motion To Amend: MTA)[2]を正式化するための最終規則を公表しました。この最終規則は、2024年10月18日に施行されています。

 今回公表された最終規則は、MTAについて2019年から運用されてきた試行プロジェクトについての数次の意見募集の結果を反映したもので、その主な内容はつぎの通りです。

(1)MTAに際して特許権者は、訂正クレームの当初明細書によるサポートについて、申立て書面に記載する必要があります。

(2)PTABは、訂正クレームについて、新たな特許不成立理由を自発的に提起することができ、その際にPTABは、当事者から提出されていない証拠も考慮して特許性を判断することが可能です。

(3)特許権者は、MTAについてPTABの予備的見解を求めることができ、また、PTABの予備的見解等に応答する形で、クレームの再訂正を申し立てることが可能です。

(4)審判請求人は、PTABの予備的見解や特許権者の答弁書に対して、意見書を提出することができますが、新たな証拠を追加することは認められません。

 

2.特許期間調整の計算プログラムにおける不具合を報告(2024930

 USPTOは、特許庁長官名の2024年9月25日付書簡[3]で、特許権の存続期間について、USPTOの手続きの遅延に基づく調整を行うための計算プログラムに不具合があり、2024年3月19日から7月30日までに登録された特許で影響が生じ、その期間に特許登録されたもののうち1%程度の存続期間に誤りがある可能性があることを報告しました。

 この計算プログラムの不具合を根拠として特許権の存続期間の再調整を求める特許権者は、特許査定を受けた日から7か月以内に申し出る必要があります。

 米国特許法には、特許権の存続期間について、USPTOの手続きの遅延を補償するPatent Term Adjustment(PTA)と、医薬品などの承認を得るために特許権を行使できない期間を補償するPatent Term Extension(PTE)とが規定されています。PTAの条件や手続きについては米国特許法154条(b)(1)(A)[4]、154条(b)(2)(A)[5]に規定されており、今回の不具合はこれらの条文に関するものとされています。

 

3.PTABの決定に対する長官レビューの最終規則を公表(2024101日)

 USPTOは、10月1日付の官報[6]において、PTABの決定に対する長官レビューの最終規則を公表し、同規則は10月31日に発効しています。USPTOは2024年4月に規則案を公表して意見募集を行っており、今般公表された最終規則は、意見募集後の検討を経たものですが、規則案からの大きな変更はありません。

 最終規則では、IPRや付与後レビュー(Post Grant Review: PGR)の決定だけでなく、特許法135条に規定される冒認出願の認定手続き(由来手続:Derivation Proceeding)に関する決定や、IPRやPGRの請求却下なども長官レビューの対象となる点が明確化されています。

 また、長官レビューが請求された場合に加えて、長官レビューの請求期間が合理的な理由により延長された場合、審判合議体の決定が確定しない点も明確化されています。

 長官レビューの請求対象となる決定は、次のとおりです。

 (1)審理開始の決定

 (2)IPR、PGR、由来手続きに関する審決(審判合議体による最終審理結果)

 (3)審理開始の決定または審決に対する再審理の決定

 (4)その他、IPRなどのAIAレビュー[7]に関する決定

 なお、IPRの決定について実際に長官レビューが行なわれた事例について、弊所ホームページの「国・地域別IP情報」にて2024年9月13日付で配信した「当事者系レビュー(IPR)における手続き遅延を理由とする特許権者に不利な審判部の決定を覆した米国特許商標庁長官の決定」と題した記事[8]で紹介しています。

 

4.最終拒絶後の審査官対応に関する取組(AFCP2.0)を廃止(2024101日)

 USPTOは、2024年10月1日付官報[9]で、2024年12月15日をもってAfter Final Consideration Pilot Program(AFCP)2.0を終了すると発表しました。これによりAFCP2.0の申請を提出することができる最終期限は2024年12月14日になります。

 AFCP2.0は、出願人が審査官から最終拒絶の通知を受けた場合、クレームされた発明を拡張させない補正を伴うことを条件として審査官に再考を求めることができる手続きであり、補正されたクレームの全てが特許不可能である場合、審査官は出願人との間で面接を設定します。

 2013年に開始されたAFCP2.0は、出願人が追加料金なしで補正を提出できるようにすることで、最終拒絶後の特許審査プロセスを合理化することを目的としていました。このプログラムにより、審査官はこれらの補正を検討し、追加の検索を実施し、結果を議論するための申請者との面接をスケジュールするための追加の時間を確保できました。

 2016年以降、年間60,000件以上のAFCP2.0申請が提出されています。USPTOは、使用率が高いのは、プログラムの特典が参加者に直接費用をかけずに提供されていることが一因であると指摘しました。しかし、USPTOは、このプログラムにより1,500万ドル以上の費用が発生したと推定しています。その結果、2024年4月3日、USPTOはAFCP2.0リクエストに関連する費用を回収するための新しい料金を提案しました。

 USPTOは、上述のコストを踏まえて、2024年4月に公表した料金改定案の中で、AFCP2.0を有料化する提案を行ないましたが、出願人からは否定的な反応が示されたため、AFCP2.0の廃止が決定しました。

 

5.代理人参加資格に関する最終規則を公表(20241010日)

 USPTOは2024年10月10日付官報[10]で、「特許審判部に出廷する機会の拡大」と題する最終規則を公表しました。この最終規則は、USPTOが2024年2月21日に通知していた規則制定案についての、その後の意見募集の結果を受けて、当該規則制定案の一部が取り下げられる形で決定されたもので、2024年11月12日に発効しています。最終規則の概要、および当初の規則制定案から外れた事項は以下の通りです。

 (1)最終規則の概要

 最終規則の主な内容は、次の通りです。

 (i)新規則は、これまで当事者が主任代理人とバックアップ代理人を指名する必要があった米国発明法(AIA)の手続きに適用されます。主任代理人は登録された実務家(registered practitioner)[11]である必要があり、登録されていない実務家は、正当な理由が示された場合にバックアップ代理人になることができます。

 (ii)当事者が適切に代理され、正当な理由がある限り、手続きの柔軟性が高めるため、当事者がバックアップ代理人なしで手続きを進めることが可能になります。正当な理由としてUSPTOは、当事者が、例えば、主任代理人とバックアップ代理人の両方を雇うための財源が不足していることを示すことを挙げており、主任代理人が一人で実務を行なうことを好むというような代理人の都合については、正当な理由とは認められません。

 (iii)以前にPTABでの手続きに際して代理して実務を行うことが認められた代理人が、その後の手続きについても代理する資格を、簡素化したプロセスで手数料なしで取得することが可能になります。そのような資格取得を求める代理人は、PTABが定めたすべての要件が満たされていることを示す宣言書または宣誓供述書を提出する必要があります。それに対して相手方の代理人には、異議を唱える機会が与えられます。

 (2)2024221日付規則制定案で提案され、その後取り下げられた事項

 USPTOは、2024年2月21日に通知した規則制定案の中で、主任代理人が登録実務家である限り、当事者が個別のバックアップ代理人なしで進行することをPTABが許可できるように、規則を改正することを提案していました。

 またUSPTOは、登録された実務家がその当事者の記録上の代理人でもある限り、非登録の実務家が当事者の主任またはバックアップ代理人として機能すること、および以前にAIAの手続きで代理人と認識された未登録の実務家をPTABが認めた実務家と見なして、簡素化された迅速なプロセスを通じて自動的に代理人資格を与えることを許可することを提案していました。

 しかしながらこれらの提案はいずれも、その後の意見募集の結果として、最終規則には盛り込まれませんでした。なお、USPTOに登録されていない代理人を主任代理人とする点が最終規則からは外されたものの、USPTOは、特定の事件に限り代理人として認められたUSPTO登録されていない代理人について、所定の条件の下で、主任代理人とする試行プロジェクトを実施する意向を示しています。

 

6.登録商標の監査プログラムを変更(20241028日)

 米国の商標保護制度においては、商標権者は、米国の商取引で実際に、登録で指定されたすべての商品(またはサービス)にその商標を付して使用する必要があり、商標登録の更新に際しては、これまでもUSPTOによる使用状況の厳しい監査[12]が行なわれてきました。

 USPTOは10月28日付の官報[13]において、登録商標の監査方法を変更することを公表しました。今回の変更は、登録商標の正当性を確保するために、監査内容を強化するものです。

 商標登録の正確性と完全性を促進するために、今回の変更において、登録後の維持プロセス中の監査のための登録の選択に関する慣行を修正しています。USPTOが2017年に監査プログラムを実施し始めた際には、毎年提出される特定の宣誓供述書または宣言書について、無作為に選択しての監査を実施すると発表していました。商標登録の正確性と完全性を促進するために、今後は、登録書類などに電子的な改変が認められた場合や、商取引が行われない見本サイト(specimen farm website)の印刷物が使用証拠として提出された場合など、商標の商業的な使用が適切かどうか疑問視される場合において、商標権者に対して追加の証拠提出が求められます。

 

[1] https://www.federalregister.gov/documents/2024/09/18/2024-21134/rules-governing-motion-to-amend-practice-and-procedures-in-trial-proceedings-under-the-america

[2] MTA:PTABの手続で特許の有効性が争われた際に、特許権者が特許されたクレーム発明の訂正を申し立てる手続

[3] https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/og-pta-software-error.pdf

[4] 米国特許法154条(b)(1)(A)の概要:USPTOの手続きの遅延により特許権の存続期間を調整する条件を手続きごとに規定

[5] 米国特許法154条(b)(2)(A)の概要:遅延期間に重複があった場合には、PTAが実際に特許権の付与が遅延した日数を超えないようにすることを規定

[6] https://www.federalregister.gov/documents/2024/10/01/2024-22194/rules-governing-director-review-of-patent-trial-and-appeal-board-decisions#:~:text=This%20final%20rule%20provides%20that,decision%20concluding%20an%20AIA%20proceeding.

[7] AIAレビュー:当事者系レビュー(IPR)、付与後レビュー(PGR)、および由来手続き(derivation proceedings)を指します。

[8] https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/12239/

[9] https://www.federalregister.gov/documents/2024/10/01/2024-22481/extension-and-termination-of-the-after-final-consideration-pilot-program-20

[10] https://www.federalregister.gov/documents/2024/10/10/2024-23319/expanding-opportunities-to-appear-before-the-patent-trial-and-appeal-board

[11] Registered practitioner:USPTOに登録することにより、USPTOに対して特許実務を行なうことを許可されたpatent attorneyまたはpatent agent (37CFR§11.6, 1.32)

[12] 登録商標の監査プログラムは、2017年から開始されたにおり、監査に際してUSPTOは、商標の継続的な使用の証明や、商標の不使用に関する正当な理由の証明のために商標権者が提出する宣誓書または宣言書について、監査に必要な情報を追加的に要求することができます。

[13] https://www.federalregister.gov/documents/2024/10/28/2024-24755/changes-in-post-registration-audit-selection-for-affidavits-or-declarations-of-use-continued-use-or

 

[情報元] 

1.IP UPDATE (McDermott) ” End of an Era: PTO Terminates AFCP 2.0 Amid Fee Concerns ” October 10, 2024

https://www.ipupdate.com/2024/10/end-of-an-era-pto-terminates-afcp-2-0-amid-fee-concerns/

2.IP UPDATE (McDermott) “No Need to Call for Backup at the PTAB (Sometimes)” October 24, 2024

https://www.ipupdate.com/2024/10/no-need-to-call-for-backup-at-the-ptab-sometimes/

3.JETRO NY 米国発特許ニュースより

(1)2024年9月19日:USPTO、PTABに対するクレーム訂正の申立てに関する最終規則を公表

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20240919.pdf

(2)2024年9月30日:USPTO、特許期間調整の計算プログラムにおける不具合を報告

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20240930.pdf

(3)2024年10月1日:USPTO、PTABの決定に対する長官レビューの最終規則を公表

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20241001.pdf

(4)2024年10月2日:USPTO、最終拒絶後の審査官対応に関する取組(AFCP2.0)を廃止

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20241002.pdf

(5)2024年10月11日:USPTO、PTABでの代理人参加資格に関する最終規則を公表

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20241011.pdf

(6)2024年10月30日:USPTO、登録商標の監査プログラムを変更

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20241030.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登