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同軸ガイドカテーテル特許の機能的限定に関するCAFC判決

機能的限定が1つの特許のすべてのクレームにおいて同じ意味を持たなければならないかどうかについて初めて、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、その必要はないと判断し、ミネソタ地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)の判決を取消して差し戻しました。

 Vascular Sollutions LLC, Teleflex LLC, et al. v. Medtronic, Inc., et al. Case No. 2024-1398 (Fed. Cir. Sept. 16, 2024)

1.事件の背景

(1)本件特許の概要

 この事件において特許権者であるVascular Sollutions LLC, Teleflex LLC 他(以下集合的に「Teleflex社」)が権利主張した7件の特許(以下「本件特許」)は、「ガイドワイヤーレールセグメントを利用して、ガイドカテーテルの使用を妨げることなく血管への挿入を可能にすることにより、標準的なガイドカテーテルを介して血管に挿入できる同軸ガイドカテーテル」に向けられています。同軸ガイドカテーテルは、心臓や血管の病気に対してカテーテル(直径2~3mm程度のチューブ)を皮膚に開けた穴から血管に挿入して行なう治療法であるインターベンションに用いられます。

 本件特許はすべて共通の1件の特許出願に基づいており、これらの特許の権利主張された複数のクレーム間において、「側面開口部(side opening)」の位置をどのように特定するかが異なります。一部のクレームは、側面開口部を「実質的に硬い部分(substantially rigid portion/segment)」の一部として含んでいますが、他のクレームは、側面開口部が「実質的に硬い部分」に対して分離し、遠位にあると記載しています。

 本件特許に共通の出願の図4に示された好ましい実施形態では、下図に示すように、開示された延長カテーテルには3つの部分、すなわち、(i)近位の実質的に硬い部分20(黄色),

(ii)補強部分18(青色),および (iii)遠位の柔軟な先端16(ピンク色)が含まれます。なお、下図において、延長カテーテルの長手方向の左手(カテーテル先端)側を「遠位(distal)」、右手側を「近位(proximal)」と定めます。ガイド延長カテーテルの近位端には、「側面開口部」を有する部分円筒形状の領域(赤い楕円内)があり、これにより、ガイドカテーテル内にある延長カテーテルはインターベンション用の心臓デバイスを受け取ったり送ったりすることができます。

 本件特許のクレームにおいて、上図の赤い楕円内の「側面開口部」が具体的にどのように特定されているかを説明いたします。まず、本件特許に含まれる米国特許8,048,032号(以下、「032号特許」)のクレーム13では、“The device of claim 11 wherein the substantially rigid portion further includes a partially cylindrical portion defining an opening extending for a distance …”と記載されており、“substantially rigid portion(実質的に硬い部分)”が、“opening(側面開口部のこと)”を規定する“partially cylindrical portion(部分円筒形状の部分)”を含むことが特定されています。

これに対して、本件特許に含まれる別の米国特許RE45,776(以下、「776特許」)のクレーム25では、“A guide extension catheter for use with a guide catheter, comprising: a substantially rigid segment; a tubular structure defining a lumen and positioned distal to the substantially rigid segment; and a segment defining a partially cylindrical opening positioned between a distal end of the substantially rigid segment and a proximal end of the tubular structure, … ”と記載されており、“substantially rigid segment(実質的に硬い部分)”と、“partially cylindrical opening(側面開口部のこと)”を規定する“segment(部分)”とが、別の構成要素として並列的に列挙されています。そして“partially cylindrical opening”の位置関係としては、“substantially rigid segment”の遠位側の端部と“tubular structure”の近位側の端部との間に位置することが規定されています。

本件訴訟では、このように、「実質的に硬い部分」が「側面開口部」を含むように記載された032号特許のクレーム(後述するグループ1のクレーム)と、「実質的に硬い部分」から離れて別に「側面開口部」が設けられるように記載された776号特許のクレーム(後述するグループ2のクレーム)とが併存する(互いに排他的と思われるクレームを含む)本件特許に基づいて侵害訴訟が提起され、裁判でこれらのクレームの有効性が争点となりました。特にクレーム解釈の問題として、「側面開口部」の場所の特定のために「実質的に硬い部分」という文言がどの範囲を指すものと理解できるのかが問題となりました。

(2)本件特許に基づく係争手続きの経緯

 (i)特許侵害訴訟の提起

 2019年7月、Theleflex社は、Medtronic, Inc.およびMedtronic Vascular, Inc.(以下集合的に「Medtronic社」)を相手取って、ミネソタ地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)に、本件特許に基づいて特許侵害訴訟を提起し、仮差止命令を求めました。仮差止命令の救済を求めるにあたり、Teleflex社は、クレームの「実質的に硬い」という語句について、「デバイスをガイドカテーテル内で前進させることができるほど剛性が高い」という機能的定義を採用して、「実質的に硬い部分」の範囲についてはクレームを柔軟に解釈しました。

 (ii)当事者系レビューの請願と、地裁の判断

 それに対してMedtronic社は、Teleflex社の特許に対して特許審判部(PTAB)に複数の当事者系レビュー(IPR)を請願するとともに、地裁に対しても権利主張されたクレームは新規性がないために無効であると主張しました。その結果、地裁は、Medtronic社が特許クレームの無効性に関する重大な問題を提起したと判断し、Teleflex社の仮差止命令の要求を却下するとともに、Medtronic社によるIPRの結果を待つため、訴訟を保留しました。

 (iii)IPRにおけるPTABの決定、および、当該決定に対する控訴審判決

 IPRにおいてPTABは、一部のクレームは特許性がないと判断しましたが、残りのクレームについては特許の有効性を認めました。IPRの決定に対する控訴審においてCAFCは、PTABの決定をすべて支持しました。

 CAFCの控訴審判決のうち、7件の本件特許のうちの最初に発行された上記の032号特許に関する判決ついては、2023年8月18日付で弊所ホームページで配信した記事[1]において「第1の判決」として説明しています。

 (iv)Teleflex社による2回目の仮差止命令の請求

 PTABから最終的な書面による決定を受けとった後、Teleflex社は、地裁に対して2回目の仮差止命令の請求を行ないました。Medtronic社と地方裁判所は、権利主張されたクレームを、次のような2つのグループに分けしました。

・グループ1:「側面開口部」が「実質的に硬い部分」内に配置されているという限定を含むクレームのグループ

・グループ2:「側面の開口部」が「実質的に硬い部分」から離れた位置に配置されているという限定を含むクレームのグループ

 Teleflex社は、地方裁判所が特定したグループに基づいて、下に示す図を示して「実質的に硬い部分(substantially rigid portion)」を区分し、「実質的に硬い部分」という言葉は、クレームごとに異なる解釈が可能であると主張しました。

 (v)地裁の判断

 Teleflex社の仮差止命令の申し立てを却下するにあたり、地裁は、「同じデバイスがその特許内の相互に排他的(mutually exclusive)である2つのクレームを同時に侵害する可能性があるのに、そのような特許クレームを当業者が理解することを期待できるのか」という疑問を呈しました。ここで「相互に排他的」という表現は、判決内容全体から、「片方が成立すると、他方が成り立たないという関係」、すわなち「両立しない」という程度の意味であると判断されます。

 その後地裁は、クレーム解釈の手続きを進め、その段階でTeleflex社は、「実質的に硬い部分」について、「デバイスをガイドカテーテル内で前進させることができるほど剛性が高い部分」という機能的で柔軟な定義を採用し、Medtronic社は、「実質的に硬い部分」はプッシュロッドとして機能するデバイスの部分のみを意味するとの限定的な解釈を主張しました。

 地裁は、両当事者のクレーム解釈の受け入れを拒否し、独立した専門家である元米国特許商標庁長官のAndrei Iancu氏を任命して、「実質的に硬い部分」という用語の新たな解釈を提案するように命じました。Teleflex社は、Iancu氏が2通りの構造(すなわち、グループ1のクレームについての1つの構造とグループ2のクレームについての別の構造)を採用するように要請しました。

 Iancu氏は、両当事者の解釈を否定し、「実質的に硬い部分」を「ガイド延長カテーテルの全体的な剛性が、インターベンション心臓デバイスが挿入される同軸ルーメンの近位端またはその遠位端で大幅に低下する場所で終わる、マルチセクションガイド延長カテーテルの最初の近位セクション」と解釈することを提案しました。またIancu氏は、2つのグループのクレームが「互いに排他的である」ことについては、地方裁判所に同意しました。

 それに対してMedtronic社は、クレーム間に相互に排他的な限定を含む本件特許クレームは不明確であると主張しました。地裁はその主張に同意して、「実質的に硬い部分」を含むすべてのクレームは不明確であると判断し、本件特許は無効であるとの最終判決を下しました。それに対してTeleflex社はCAFCに控訴しました。

 

2.CAFCにおける審理

(1)当事者の主張

 Teleflexは控訴に際して、「実質的に硬い部分の境界がすべてのクレームについて同じでなければならないと判断したことにおいて、地裁は誤りを犯した」と主張しました。それに対してMedtronic社は、地裁での審理と同様に、「特許クレームは不明確である」と主張しました。

(2)CAFCの判断

 CAFCは、グループ1とグループ2のクレームの限定が相互に排他的であるために不明確であるとの地裁の判断は誤りであると結論付けました。CAFCは、その理由として、「地裁の結論を支持することは、特許のクレームが開示された主題を異なるやり方でクレームすることはできず、独立クレームは他の独立クレームと完全に一致していなければならないことを意味するが、特許権者が主題をクレームする上でそのような制限を受けることはない」と指摘しました。CAFCは、訴訟におけるクレーム解釈の段階における裁判所の任務は、「各独立クレームは異なる順序の限定の組合せ(a different ordered combination of limitations)であるため、クレームは必ずしも相互に排他的であるとは言えないことを理解して、クレームごとに解釈することである」と説明しました。

 次に、CAFCは、限定がすべてのクレームにわたって一貫した意味を持つ必要はないと判断しました。CAFCは、限定が機能的である場合、その構造も同様に機能的である可能性があることを強調しました。本件についてCAFCは、「実質的に硬い部分」との記載は、「実質的に硬い部分の(構造上の)境界を特定するものではなく、何らかの機能を達成するのに十分な剛性のあるカテーテルの一部であることを意味する機能的限定であり、クレームごとに機能的限定により特定される境界の範囲をどのように評価すべきかを示しているため、当業者が「実質的に硬い部分」の境界の評価の仕方について混乱することはないと判断しました。

 また、CAFCは、被疑侵害製品が様々なクレームをどのように侵害しているかについての議論は、クレームの解釈が確定していない現段階では時期尚早であると判断しました。したがって、CAFCは地方裁判所の判決を取消すとともに、地方裁判所がクレームを改めて解釈するために差し戻しました。

 

3.実務上の留意点

(1)発明の機能的側面の重要性

 本件判決においてCAFCが、「実質的に硬い部分」というクレームの記載を機能的限定と解釈して特許性を認めたことから、発明のより広い範囲の保護を得るためのクレーム作成の戦略として、機能的アプローチを採ることの重要性が増したものと言えます。

 ただし、クレームにおいて機能的限定を用いることは、不明確であるとして無効にされるリスクを伴うため、当業者にとって発明の範囲を明確に把握可能なクレームにすることとの両立を図ることに、十分留意する必要があります。

 機能的アプローチによる場合は特に、明細書において、発明の本質的な部分としての機能的な要素を説得性をもって説明することが重要になります。

(2)発明の多面的保護強化の取り組みの必要性

 本件判決においてCAFCが同一特許のクレーム間に互いに排他的である記載があることを理由に特許無効としなかったことから、同一の発明に対して異なる観点から複数のクレームを記載し、発明の多面的な保護を図ることが、有効な戦略になり得ます。

 ただし、クレームの用語は、同じ特許の中では一貫して解釈されなければならないという基本的原則が否定されたわけではないことから、クレーム間で互いに異なる定義で特定の用語を用いる場合には、互いに排他的であるとの理由で不明確とされる恐れを回避するため、そのような基本原則に反するものではないことについて説得性のある説明を行なうことに留意する必要があります。

[1] https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/9798/

 

[情報元] 

1.IP UPDATE (McDermott) “When Can Same Claim Limitation Have Different Meanings? When It’s Functional, Of Cours” September 26, 2024

        https://www.ipupdate.com/2024/09/when-can-same-claim-limitation-have-different-meanings-when-its-functional-of-course/

2. Vascular Sol. LLC v. Medtronic, Inc., Case No. 2024-1398 (Fed. Cir. Sept. 16, 2024)(本件)判決原文

        https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1398.OPINION.9-16-2024_2384927.pdf

3. The latest news for you (WHDA)“Both at Once: CAFC Clarifies that a Claim’s meaning Stands by Itself (Author: Michael J. Caridi)”Oct. 3, 2024

[担当]深見特許事務所 野田 久登