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特許不適格とする地裁の判決を覆し、Aliceテストのステップ1で クレームが特許適格な主題であると判断した米国連邦巡回控訴裁判所判決

米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、地方裁判所がクレームを「許容しがたい高いレベルの一般性」で不適切に特徴付けたと認定し、クレームは米国特許法第101条に基づき特許不適格であるとする地方裁判所の判決を覆しました。

 Contour IP Holding LLC v. GoPro, Inc., Case Nos. 22-1654; -1691 (Fed. Cir. Sept. 9, 2024) (Prost, Schall, Reyna, JJ.)

 

.背景

(1)本件特許の概要

 Contour IP Holding LLC(以下「Contour」)は、「リモート画像取得制御および表示用に構成された」ポータブルのポイントオブビュー(POV)ビデオカメラに関する米国特許第8,890,954号(以下「’954特許」)および米国特許第8,896,694号(以下「’694特許」)を所有しています。’694特許は’954特許の継続出願であり、2つの特許は実質的に同一の明細書を共有しています。’694特許および’954特許(以下、まとめて「本件特許」)に関する本件事案を検討するにあたり、以下では、’954特許を参照します。POVビデオカメラ(以下、「カメラ」)は、一人称視点のシーンを撮影するために用いられ、本件出願当時には比較的新しい製品カテゴリに属していました。

 本件特許明細書には、カメラをスキーヤーのヘルメットに取り付ける例が記載されています。ユーザであるスキーヤーは、撮影中にカメラに録画されている内容を確認することはおろか、カメラ自体を見ることもできません。このような状況では、ユーザがカメラの録画設定や視点を調整して、ユーザ好みの撮影をすることは困難です。このような問題に対処するため、本件特許明細書は、ディスプレイを有する携帯電話等のリモートデバイス(パーソナルポータブルコンピューティングデバイス)に、リアルタイムの録画ファイルをワイヤレス送信し、ユーザがリモートデバイスで録画内容を確認しつつリモートデバイスからカメラに向けて録画設定に関する制御信号を出力させることで、カメラの録画設定を調整できるようにしたカメラを開示しています。

 特に、本件特許の重要な点に関して、本件特許明細書は、高品質と低品質との2つの形式でカメラがビデオ録画を生成するように構成され、高品質のファイルは後で表示できるようにカメラに保存される一方、低品質のファイルはリモートデバイスにストリーミングされることを開示しています。これにより、カメラは、ワイヤレスの帯域幅に制限がある場合であっても、リモートデバイスで画像をリアルタイム再生させることができます。

 クレーム11は、次のとおりです。

クレーム11

  1. A portable, point of view digital video camera,

comprising:

a lens;

an image sensor configured to capture light propagating through the lens and representing a scene, and produce real time video image data of the

scene;

a wireless connection protocol device configured to send real time image content by wireless transmission directly to and receive control signals or data signals by wireless transmission directly from a personal portable computing device executing an application; and

a camera processor configured to:

                 receive the video image data directly or indirectly from the image sensor,

                 generate from the video image data a first image data stream and a second image data stream, wherein the second image data stream is a higher quality than the first image data stream,

                 cause the wireless connection protocol device to send the first image data stream directly to the personal portable computing device for display on a display of the personal portable computing device, wherein the personal portable computing device generates the control signals for the video camera, and wherein the control signals comprise at least one of a frame alignment,

 multi-camera synchronization, remote file access, and a resolution setting, and at least one of a lighting setting, a color setting, and an audio setting,

                receive the control signals from the personal portable computing device, and

                 adjust one or more settings of the video camera based at least in part on at least a portion of the control signals received from the personal portable computing device.

 (試訳)

11. ポータブルなポイントオブビュー(POV)デジタルビデオカメラにおいて、

 レンズと、

 レンズを通過してシーンを表す光をキャプチャし、シーンのリアルタイムビデオ画像データを生成するように構成された画像センサと、

 アプリケーションを実行するパーソナルポータブルコンピューティングデバイスにワイヤレス伝送で直接リアルタイム画像コンテンツを送信し、ワイヤレス伝送で制御信号またはデータ信号を直接受信するように構成されたワイヤレス接続プロトコルデバイスと、

 カメラプロセッサとを備え、

 カメラプロセッサは、

 画像センサから直接または間接的にビデオ画像データを受信し、

 ビデオ画像データから第1画像データストリームと第2画像データストリームとを生成し、第2画像データストリームは第1画像データストリームよりも高品質であり、

 ワイヤレス接続プロトコルデバイスが、第1画像データストリームをパーソナルポータブルコンピューティングデバイスに直接送信して、パーソナルポータブルコンピューティングデバイスのディスプレイに表示するようにし、パーソナルポータブルコンピューティングデバイスがビデオカメラの制御信号を生成し、制御信号には、フレームアライメント、マルチカメラ同期、リモートファイルアクセス、解像度設定の少なくとも1つと、照明設定、色設定、オーディオ設定の少なくとも1つが含まれ、

 パーソナルポータブルコンピューティングデバイスから制御信号を受信し、

 パーソナルポータブルコンピューティングデバイスから受信した制御信号の少なくとも一部に少なくとも部分的に基づいてビデオカメラの1つ以上の設定を調整する、ポイントオブビュー(POV)デジタルビデオカメラ。

 

 クレーム11の理解に役立つと思われる、筆者作成による参考図を以下に示します。

 [参考図]

(2)本件特許に対する地方裁判所の判断

 Contourは、GoPro, Inc.(以下「GoPro」)を2度に亘って訴え、GoProの製品が本件特許のクレームを侵害していると主張しました。最初の訴訟において、北カリフォルニア地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)は、GoProの被疑製品が’954特許のクレーム11を侵害しているとの部分的な略式判決を下しましたが、GoProは2つの訴訟のいずれにおいても米国特許法第101条に基づく特許不適格を理由とする異議を申し立て、地裁は最終的にGoProに同意しました。

 地裁は、Aliceテスト[注1]のステップ1で、クレーム11を「ビデオ(2つの異なる解像度)を作成して送信し、ビデオの設定をリモートで調整する」という抽象的なアイデアに向けられていると判断し、Aliceテストのステップ2で、クレームは機能的で結果指向の言語のみを記載しており、「物理的コンポーネントが基本的な一般的なタスク以外の方法で動作していることを示すものは何もない」と判断し、クレームは特許不適格と結論し、GoProに有利な判決を下しました。この地裁の判決を不服として、Contourは控訴しました。

 

2.CAFCの判断

(1)Aliceテスト(ステップ)の確認

 はじめにCAFCは、Alice Corp. v. CLS Bank International事件最高裁判決の判断基準である2段階のAliceテストについて確認し、特に、ステップ1では、クレームが特許不適格な主題に向けられているかどうかを判断すること、そのために、しばしば「先行技術に対するクレームされた進歩の焦点」を分析すること、およびクレームされた主題の「基本的な特徴」を確かめることによってその分析を行うことに言及し、そうすることで、クレームの言葉自体から切り離した抽象度の高いレベルでクレームを説明することを避けなければならないと説明しました。

 CAFCは、McRO, Inc. v. Bandai Namco Games America Inc.事件[注2]を引用し、クレームされた進歩の焦点を決定するためには、クレームが単に「それ自体が抽象的なアイデアである結果または効果」に向けられているのではなく、「関連する技術を改善する特定の手段または方法」に向けられているかどうかを確認する必要があり、改善された結果だけでは、アリスステップ1で特許適格性をサポートするのに十分ではないと説明しました。

 

(2)クレーム11へのAliceテストの適用

 CAFCは、全体として読むとクレーム11は、関連技術を改善する特定の手段を対象としており、クレーム限定と、「POVカメラプロセッサが低品質および高品質のデータストリームを並行して記録するように構成され、その後、低品質データストリームがリモートデバイスにワイヤレス転送されるという要件」との組み合わせによって、改善されたPOVカメラを記載していると認定しました。クレームされたPOVカメラを使用すると、ユーザは、ワイヤレスデータ転送の帯域幅に制限を排除して、所望の録画をリモートでリアルタイムで表示および調整できることから、CAFCは、クレームは特定の技術的手段(低品質の録画をリモートデバイスにワイヤレスで転送する並列データストリーム録画)を必要とし、これにより、リモートデバイスでのPOVカメラの録画のリアルタイム表示機能が技術的に改善されると判断しました。

 重要なことに、地裁は、控訴審に至る前、当事者レビュー(Inter Partes Review)手続中におけるContourの主張を受け入れ、クレーム11の「ビデオ画像データから第1画像データストリームと第2画像データストリームとを生成し」という記載に含まれる「生成」を、「ビデオ画像データから並行して記録する」とクレーム解釈していました。Contourの主張は、従来技術とクレームとを区別することを目的とするものでした。CAFCは、このクレーム解釈を採用することにより、たとえば、2つの品質のストリームを並行でなく順番に生成する等、複数のビデオストリームを生成する他の方法をクレームはカバーしておらず、むしろ、クレームは「関連する技術を改善する特定の手段または方法」に向けられていると判断しました。

 確かに、クレーム11の「生成」は、文言上、ビデオ画像データから第1画像データストリームを生成してから時間を空けてビデオ画像データから別の第2画像データストリームを生成するような態様を包含する余地があるかもしれません。このようなケースでは、同じビデオ画像データから得られた画質の異なる2つのビデオ画像データストリームは得られません。この場合、たとえば、高品質の第2ビデオ画像データストリームに含まれる撮像を基準とするビデオ調整のために、同じ撮像を含む低品質の第1ビデオ画像データストリームを活用することはできないでしょう。このように、本件事案では、「特定の手段または方法」と認定されるに際して、クレーム解釈も重要な役割を担っています。

 CAFCは、地裁の判決は許容できないほど高いレベルの一般性でクレームを特徴付けており、クレームが「それ自体が抽象的なアイデアである結果または効果に向けられている」という地裁の結論は技術的結果を得るための開示された技術的手段を無視し、クレームの主張された進歩を一般化した表現において誤りを犯し、クレームが抽象的なアイデアに向けられているという誤った結論をほぼ確実にしたと判断しました。おそらくは、CAFCは、地裁が上記のクレーム解釈を認めながらも結果的にはクレーム11を「ビデオ(2つの異なる解像度)を作成して送信し、ビデオの設定をリモートで調整する」という程度の内容に一般化して解釈したことを重大な誤りであると捉え、そのことが地裁の誤った結論に至る大きな要因であったと指摘しているのだと思われます。

 

(3)GoProの主張について

 CAFCは、「クレームは、発明の時点で先行技術に存在していた既知または従来のコンポーネントを単に使用している」とのGoProの主張に対して、「それだけでは、クレームがステップ1で抽象的なアイデアに向けられていることを必ずしも意味するものではない」として、その主張を退けました。

 GoProは、特許不適格性の異議を行うにあたり、Yu v. Apple Inc.事件[注3]の分析に大きく依拠しており、CAFCが当該事件の判決を下した直後に異議の申し立てを行っていました。GoProは、控訴審において、Yu v. Apple Inc.事件に加えてChargePoint事件[注4]を引用し、特許不適格性の主張をしていました。

 CAFCは、Yu事件では、クレームの特徴点に関する「複数の写真を使用して互いを引き立てるというアイデアと実践は、写真家の間で1世紀以上にわたって知られてきた」という点について争いがなかったことから、先行技術調査を行わずに、写真撮影における古くから知られている基本的な実践に注目したものの、「カメラが2つのビデオストリームを並行して録画し、低品質のビデオストリームをワイヤレスでリモートデバイスに転送してリアルタイムで表示および調整すること」が、Aliceテストのステップ1での特許不適格性を支持する、古くから知られている、または基本的な実践であるとGoProが主張しているわけではないことから、Yu事件に依拠したGoProの主張を退けました。

 CAFCは、クレームは単にワイヤレスネットワーク通信という抽象的な概念に向けられたものであり、ChargePoint事件と類似しているというGoProの主張も退けました。CAFCは、ChargePointのクレームは、ワイヤレスネットワーク経由で接続された電気自動車のローカル充電ステーションに関連しており、明細書もクレームも、「充電ステーション自体が技術的な観点から改善されている、または充電ステーションが本来とは異なる動作をする」ことを裏付けていない一方、クレーム11は、特定の技術環境内でのワイヤレスデータ転送以上のものを説明しており、複数のビデオストリームを並行して記録し、1つのビデオストリーム(低品質のストリーム)のみをリモートデバイスにワイヤレスで転送することによって、クレームされたPOVカメラが「他の方法とは異なる方法で動作」できるようにし、技術的な問題に対する技術的な解決策を対象としていると説明しました。

 

(4)結論

 CAFCは、クレームは、Aliceテストのステップ1で特許適格な主題を記載しており、Aliceのステップ2に進む必要はなく、地裁はクレームが抽象的なアイデアに向けられていると結論付けるという誤りを犯したため、判決を破棄し、さらなる手続きのために差し戻すと結論しました。

 

3.コメント

 本件事案では、Aliceテストのステップ1で特許適格性が認められた点に意義の1つがあると考えられます。本件特許発明は、POVカメラ、無線通信、およびディスプレイ付ポータブルデバイスといった既存技術の組み合わせであり、カメラで撮影された画像データからストリーミング画像(高品質,低品質)を生成することも、低品質画像をポータブルデバイスへ無線送信することも、ポータブルデバイスでカメラの設定を調整することも、それら単独でみた場合には、技術の改善に貢献するとはいえず、地裁が認定したとおり、「ビデオ(2つの異なる解像度)を作成して送信し、ビデオの設定をリモートで調整する」という抽象的なアイデアに向けられているとも解されます。このようなケースは、通信技術を介在させて構成された数多くの発明に当てはまりがちでしょう。

 CAFCは、Aliceテストのステップ1の判断においては、抽象度の高いレベルでクレームを説明することを避けなければならないこと、クレームが「関連する技術を改善する特定の手段または方法」に向けられているかどうかを確認する必要があることを改めて説明した上で、クレーム11を個々の構成でなく全体として分析し、「低品質の録画をリモートデバイスにワイヤレスで転送する並列データストリーム録画」を特定の技術的手段と捉え、これがPOVカメラを技術的に改善していると判断しました。

 本事案を参考にするならば、既知の技術的手段の組み合わせからなる発明を出願しようとする特許実務家は、クレームを全体としてみた場合に、関連する技術の改善に寄与する「特定の技術的手段」がそこに存在すると主張できるように、発明特定事項を記述するように心懸けることが必要でしょう。

 なお、Aliceテストのステップ1に関する判断基準に関しては、Aliceテストのステップ1に関する最近のCAFC判決を検討できるBeteiro, LLC事件[注5]も参考になるでしょう。Beteiro, LLC事件では、本件判決とは逆にAliceテストのステップ1でクレームは「抽象的アイデアである」とCAFCが判断しているものの、抽象性判断のための4つの指標をCAFCが明確に示しているためです。これについては弊所配信記事[注6]もご参照下さい。

 

[注1]

Aliceテストは、次の2ステップで行なう特許適格性判定のテストです。

・ステップ1:クレームが抽象的なアイデアなどの特許不適格な概念に向けられているかどうかを判断する。

・ステップ2:そうである場合は、クレームされた抽象的アイデアを特許適格な出願に変換するのに十分な発明的概念が含まれているかどうかを判断するためにクレームの要素を調べる。

[注2]

McRO, Inc. v. Bandai Namco Games Am. Inc.、837 F.3d 1299、1314 (Fed. Cir. 2016)

[注3]

Yu v. Apple Inc., 1 F.4th 1040 (Fed. Cir. 2021)

[注4]

ChargePoint, Inc. v. SemaConnect, Inc., 920 F.3d 759 (Fed. Cir. 2019)

[注5]

Beteiro, LLC v. DraftKings Inc., Case Nos. 22-2275他 (Fed. Cir. June 21, 2024)

[注6]

https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/12318/

 

[情報元] 

1. McDermott Will & Emery IP Update | September 19, 2024 “Stay Focused: New Point of View of Patent Eligibility”

        https://www.ipupdate.com/2024/09/stay-focused-new-point-of-view-of-patent-eligibility/

2. Contour IP Holding LLC v. GoPro, Inc., Case Nos. 22-1654; -1691 (Fed. Cir. Sept. 9, 2024) (Prost, Schall, Reyna, JJ.) (判決原文)

        https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-1654.OPINION.9-9-2024_2381170.pdf

[担当]深見特許事務所 中田 雅彦