国・地域別IP情報

遠隔ギャンブルに関する発明を抽象的アイデアとして特許適格性を否定したCAFC判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、2段階のAliceテストの枠組みを適用して、オンラインでの遠隔ギャンブルに関する発明の特許クレームが米国特許法101条に基づいて特許適格性があるかどうかを評価した結果、クレームは特許適格性のない抽象的なアイデアに向けられており、それ以外に発明的な概念を述べていないとして、特許適格性がないと判断しました。

                 Beteiro, LLC v. DraftKings Inc., Case Nos. 22-2275; -2277; -2278; -2279; -2281; -2283 (Fed. Cir. June 21, 2024) (Dyk, Prost, Stark, JJ.)

 

1.本事案の背景

(1)本件対象特許の概要

 Beteiro, LLC(以下「Beteiro社」)は、ユーザーの物理的な場所から離れたゲーム会場でのライブゲーム(ライブ配信中の配信者と視聴者が参加できるゲーム)活動および/またはギャンブル活動の促進(facilitating)に関連するいくつかの特許(以下、総称して「本件特許」)を所有しています。本件特許の発明により、ユーザーは通信デバイスを介して、オンラインでライブゲームやギャンブルに参加でき、また、ユーザーの位置情報に基づいて、その地域でオンラインギャンブルが合法か否かを判断することができます。

(2)特許侵害訴訟の提起

 2021年と2022年に、Beteiro社は、DraftKings, Inc.他5社(以下総称して本件控訴の「被控訴人」あるいは第1審の「被告」)に対して少なくとも6件の特許侵害訴訟を、ニュージャージー地区連邦地方裁判所(以下「地裁」)に提起しました。

(3)地裁の判決と、CAFCへの控訴

 Beteiro社による特許侵害訴訟の提起に対して、被告は、米国連邦民事規則12(b)(6)[注1]に基づく訴えの却下を求める申し立てを行ない、本件特許の代表的なクレームについて、コンピュータ、第1通信デバイス、第2通信デバイス、通信リンク、全地球測位システム(GPS)デバイスという一般的なコンピュータデバイスを用いた、次の一連の抽象的なステップ(i)~(v)から成る方法であることから、特許法101条の特許適格性を満たさないと主張しました。

 (i)ギャンブル活動(gambling activity)に関する情報の検出(detecting)、

 (ii)その活動に関する通知(notification)メッセージの生成(generating)とユーザーへの送信(transmitting)、

 (iii)ユーザーが行なう賭けの情報(information regarding a bet to be placed)とユーザーの位置情報とを含む賭けメッセージの受信、

 (iv)ユーザの位置情報に基づく、賭けを許可するか禁止するかの決定、および、

 (v)賭けをすることを認めるか、賭けを禁止するかを決定するための情報処理(processing information)。

 このような被告の主張を、地裁は、本件特許の代表的なクレームの正確な特徴付けであるとして受け入れました。また地裁は、Alice Corp. v. CLS Bank International事件最高裁判決の判断基準である2段階のAliceテスト[注2]を厳格に適用して、「Beteiro社の特許が抽象的なアイデア(abstract idea)に向けられており、かつ、発明的概念(inventive concept)に変換する要素を欠いているため、特許法101条に規定する特許適格性を満たさない」と結論付けました。その結果地裁は、米国連邦民事規則12(b)(6)に基づく訴えの却下を求める被告の申し立てを認めました。

 この地裁の判断を不服として、Beteiro社は、CAFCに控訴しました。

 

2.CAFCの判断

(1)Aliceテストのステップ1についいて

 (i)抽象性に関する4つの指標

 CAFCは、Alice/Mayoフレームワークのステップ1に基づくクレームに対する地裁の評価に同意し、本件特許のクレームが抽象的なアイデアに向けられていると結論付けました。その判断に際してCAFCは、以下に述べる抽象性に関する確立された4つの指標(indicators)(a)~(d)を示し、特許クレームがそれらの指標に該当する特徴を有するものと判断しました。

 (a)一般的な手順を広い概念で記載していること。

 情報の検出、情報に基づく通知の生成と送信、賭け要求のメッセージの受信、位置データに基づいて賭けが許可されているかどうかの決定、賭けを許可するかまたは不許可にするという情報の処理などのような、本件特許クレームのようにある種の一般的なステップを広く記載したクレームは、これまでのCAFCのいくつかの判決で、抽象的であると認定されました。そのような判決の一例としてCAFCは、AI Visualize, Inc. v. Nuance Commc’ns, Inc., 97 F.4th 1371, 1378 (Fed. Cir. 2024)を挙げており、その判決においてCAFCは、データの取得、操作、および表示のステップは、特に高いレベルの一般性でクレームされる場合、抽象的概念であると説明しました。この判決については、弊所ホームページの「国・地域別IP情報」において2024年7月23日付で配信した、「コンピュータ視覚化に関連する……地裁の認定を支持したCAFC判決」と題した記事[注3]をご参照下さい。

 (b)結果に焦点をあてた機能的言語を使用していること。

 本件特許クレームは、結果に焦点をあてた機能的言語[注4]を使用して作成されており、クレームされている発明がそれらの結果をどのように達成するかについての具体的な記述が含まれていません。この種のクレームは、これまで、ほとんどの場合、第101条の下では特許不適格と判断されています[注5]

 (c)過去の判決で類似したクレームが抽象的と判断されていること。

 個人の位置に基づいて特定の情報を個人に提供する方法に類似したクレームについて抽象的であると結論付けた、先例となるCAFCの判決[注6]がいくつかあります。

 (d)長年の現実の世界の活動から類推可能であること。

 地裁は、クレームされた方法が「長年普及している基本的な慣行」に類似していることは、クレームが抽象的で特許取得できない可能性があることを示すもう1つの手がかりであると指摘しました。たとえば、地裁は、クレームされた方法を、州の境界をまたぐカジノの窓口係の行動と比較し、賭けを受け入れる窓口係は、常に、取引先の賭け手がギャンブルが許可されている場所にいることを確認する必要があるとして、本件特許のクレームは、現実世界で長年に渡り行なわれている基本的な経済活動、すなわち抽象的なアイデアに向けられていることを指摘しました。この指摘についてCAFCは、本件特許クレームが長年の現実の世界の活動から類推可能であることを、地裁が説得性をもって示したと認めました。

 ii)特許発明による進歩の焦点がコンピュータ技術の改善にあるかどうか

 前掲のCAFCによるAI Visualize, Inc. v. Nuance Commc’ns, Inc.判決において、「コンピュータ関連技術の分野では、特許クレームは、主張された進歩の焦点が単なるコンピュータの使用ではなく、コンピュータ技術の改善にある場合、Aliceテストのステップ1では非抽象的である可能性がある」と判示されています。

 本件特許のクレームが上記4つの指標を満たすにもかかわらず、Beteiro社は、クレームが技術的な改善に結びついているという理由で、それらは抽象的なアイデアではないと主張していました。

 Beteiro社の主張に対して地裁は、本件特許は、単にコンピュータをツールとして使用することに関するものであって、コンピュータ関連技術自体の改善をもたらす解決策をクレームしていないと判断し、CAFCもこれに同意しました。またCAFCは、本件特許発明の決定と情報処理は法令遵守のために行なわれ、これは法的問題であって、技術的な問題の解決を目的とするものではないことから、本件特許クレームは「コンピュータの動作方法の具体的な改善」を提供するものではないことを認めました。

(2)Aliceテストのステップ2について

 CAFCはまた、Aliceテストのステップ2に関する地裁の分析と、クレームが発明概念を提供しておらず、「一般的なコンピュータコンポーネントによって実行される従来のビジネス慣行を単に記述している」という地裁の結論に同意しました。その理由は次のとおりです。

 (i)CAFCは、「モバイル賭博を処理する際に位置検知(geolocation)および全地球測位システム(GPS)が使用されるのは、本件特許の最も早い優先日である2002年の時点ではまだ何年も先のことであった」という趣旨のBeteiro社の主張に注目しましたが、クレームされたGPSの使用が「一般的なコンピュータデバイス」の単なる使用を超えるものであることを示す決定的な主張であるとは認めませんでした。

 (ii)Beteiro社は、本件特許の明細書において、いくつかのタイプの従来型コンピュータとの関連でGPSの従来型使用について簡単に言及しただけで、携帯電話にGPSを搭載することと、他の従来型コンピュータにGPSを装備することとの違いについては説明しておらず、また、高度なGPSモバイルデバイス技術、またはモバイルデバイス上でGPSを提供するためのハードウェアまたはソフトウェアを記載していませんでした。

 (iii)CAFCは、本件特許発明の主題は、GPSとは何か、あるいはモバイルデバイスにどのようにGPSを装備するかについての当業者の認識を超えるものではなく、また、遠隔ギャンブルへのGPSの使用は、従来から日常的に行われているものと当業者が理解していることから、訴状においてどのような主張をしたとしても、クレームを特許適格性のある主題に変えることに成功しなかったであろうと結論付けました。

(3)USPTOの特許審査官の特許法101条に関する審査結果の影響について

 本件CAFC判決(下記「情報元2」)の第15頁第3行~第21行における記述から、CAFCが、審査段階において特許審査官が本件特許クレームの発明が特許法101条に規定する特許適格性を有すると認定して特許を付与した事実を重視していないことが読み取れます。

 CAFCは、CAFCのElec. Power Grp. LLC v. Alstom S.A.判決(Fed Cir. 2016)を引用して、特許審査官が審査段階で101条に基づく特許適格性を検討したことは、連邦裁判所において特許が適格性なしとして無効とされることを妨げるものではないと説明し、また、審査官が101条の特許適格性についてAlice事件最高裁判決以前の分析を適用したことを指摘しました。これは、CAFCが、特許法101条の特許適格性の判断におけるAlice事件最高裁判決のAliceテストを厳格に適用することの重要性を示したものと言えます。

 

3.実務上の留意点

(1)本件CAFC判決から、コンピュータを用いた方法やシステムの発明の特許出願を行なう際には、単なるデジタル化やオンライン化、あるいは、汎用的なハードウェアやソフトウェアの使用だけではなく、例えば、システムの効率向上を図る手段など、コンピュータ技術自体の課題を解決する具体的な手段や工程を明確に示す必要があります。

(2)特許明細書の開示内容が、クレームされた発明の特許適格性の判断に大きく影響することを強く認識し、明細書において、発明が解決しようとする技術的課題、および、その課題をどのようにして解決するかについて、可能な限り具体的かつ詳細に記述する必要があります。

(3)本件特許の特許適格性判断においてCAFCが、USPTOにおける審査官の審査の段階で、特許法101条の特許適格性を検討した上で特許を許可したという事実をほとんど重視せず、また、審査官がAlice事件最高裁判決以前の判断基準により特許適格性を判断したことを指摘したことは、特許適格性判断においてAliceテストを厳格に適用することの重要性、および、審査段階で特許適格性が認められたとしても、その後の連邦裁判所での訴訟で特許が無効と判断されることを妨げるものではないことを示しています。

 したがって、重要な発明については、審査段階において、特許適格性に関して、説得力のある議論を提示しておくことや、異なる側面からの幅広い出願を試みることなどにより、訴訟の段階で特許無効とされるリスクの軽減あるいは分散を図ることが望まれます。

 

[注1]

米国連邦民事規則12(b)は、訴状を受け取った被告が訴え却下の申立てにより所定の抗弁を主張できることを規定し、そのうち規則12(b)(6)は、訴えの実体的な却下を求めることを規定しています。

[注2]

Aliceテストは、次の2ステップで行なう、特許適格性判定のテストです。

・ステップ1:クレームが抽象的なアイデアなどの特許不適格な概念に向けられているかどうかを判断する。

・ステップ2:そうである場合は、クレームされた抽象的アイデアを特許適格な出願に変換するのに十分な発明的概念が含まれているかどうかを判断するためにクレームの要素を調べる。

 Aliceテストの詳細については、たとえば、弊所ホームページの「国・地域別IP情報」において配信した、以下のURLの記事をご参照下さい。

                 https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/9043/

                 https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8857/

 

[注3]

URL: https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/11889/

[注4]

どのようにして結果を達成するかではなく、達成すべき結果に重点を置いた用語であって、本件特許クレームでは、「情報の検出」、「メッセージの送信・受信」、「決定」、「情報処理」が該当します。

[注5]

例えば、Two-Way Media Ltd. v. Comcast Cable Commc’ns, LLC, 874 F.3d 1329, 1337 (Fed. Cir. 2017)では、「クレームには、変換(converting)、最適経路選択(routing)、制御(controling)、監視(monitoring)、および、記録の蓄積(accumulating records)という機能的結果が求められているが、これらの結果を非抽象的な方法で達成する方法が十分に説明されていない。」として、特許適格性が否定されています。

 

[注6]

例えば、Intell. Ventures I LLC v. Capital One Bank (USA), 792 F.3d 1363, 1369 (Fed. Cir. 2015)において、「個人の所在地に基づいて異なる新聞の折り込み広告を提供する」というクレームが、抽象的であるとして特許適格性が否定されています。

 

[情報元] 

① IP UPDATE (McDermott) “House Rules: Remote Gambling Activity Claims Go Bust” (July 18, 2024)

https://www.ipupdate.com/2024/07/house-rules-remote-gambling-activity-claims-go-bust/

 

② Beteiro, LLC v. DraftKings Inc., Case Nos. 22-2275他 (Fed. Cir. June 21, 2024)(本件CAFC判決原文)

 https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-2275.OPINION.6-21-2024_2337276.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登