USPTO、AI関連発明を含む主題適格性に関するガイダンス更新版を発表
米国特許商標庁(USPTO)は、AI関連発明を含む主題適格性に関するガイダンスの更新版を発表しました(89 Fed. Reg. 58128 (2024年7月17日))。本更新版は、2024年に発表された「AI支援発明の発明者に関する審査ガイダンス」および「AIツール使用に関するガイダンス」に続いて大統領令14110号に対処するためのものであり、USPTOの担当者と利害関係者がAI発明を含む特許出願および特許におけるクレームの主題適格性を評価するのに役立ちます。USPTOは、連邦電子ルール作成ポータルを通じて本更新版に対する書面によるコメントを2024年9月16日までリクエストしています。
本更新版は、「I.背景」、「II.USPTOの主題適格性ガイダンスの概要」、「III.AI発明に適用されるUSPTOの主題適格性ガイダンスの特定領域に関する更新」、「IV.AI支援発明に対するUSPTOの主題適格性ガイダンスの適用性」、および「V.例」の5つのセクションから構成されています。
1.セクションⅠ
セクションIは、「USPTOの主題適格性に関する取り組み」と題して、2019年から本更新版が発表されるに至るまでの背景を説明するくだりがあります。以下、そのくだりを時系列で列挙します。
2019年 2つの主題適格性ガイダンス発表
・「2019年改訂版主題適格性ガイダンス」(2019 PEG)
・「2019年10月主題適格性ガイダンス更新版」(2019年10月更新)
※2019年10月更新版では、ステップ2Aに基づいて、抽象的なアイデアを特定し、クレームが判例法上の例外に向けられているかどうかを判断するための手順が改訂された。
・2019 PEG および2019年10月更新版がMPEP(第9版Rev.10.2019)へ組み込まれた。
これは、MPEP(第9版、Rev.07.2022)のセクション2103-2106.07で利用可能。
・主題適格性に関する46の例(AI、バイオテクノロジー、ビジネス方法、診断および治「療方法、医薬品治療、精密医療、ソフトウェア含む)が発行。
2020年 報告書「Aliceへの適応(Adjusting to Alice)」発表
主題適格性ガイダンスの更新(2019年)により、AIを含むAliceの影響を受ける技術が主題不適格の最初の拒絶理由通知を受ける可能性が25%減少したこと、および関連技術の主題適格性の判断に関する不確実性が前年と比較して44%も大幅に減少したこと、等を報告。
2022年6月 報告書「特許適格主題:米国における現行の法体系に関する国民の見解」発表
「法律の不確実性と予測不可能性により、米国の経済と技術革新の発展が損なわれているのではないかという懸念」を表明する投稿や、「AIのイノベーションは[主題]の適格性から除外されるべきである」と主張する投稿有。
2022年7月25日 米国特許商標庁長官による「長官のブログ」発表
「第101条に基づくより一貫した審査を達成する」ためには「さらに多くの作業が必要である」ことを強調。
2.セクションII
セクションIIでは、MPEPの既存のガイダンスの一部が、よく知られた以下のフローチャート(Alice/Mayo ステップ1および2を含む)と共に要約して説明されており、その説明は、既存の主題適格性ガイダンスに馴染みのない読者に向けられています。
3.セクションIII
セクションIIIでは、AI発明の主題適格性を検討する際に懸念される特定の領域として、以下の(1)および(2)が挙げられた上で、最近の判例と共にそれぞれについて詳細に説明されています。
(1)ステップ2Aのプロング1において、クレームが抽象的なアイデアを記載しているかどうかの評価。
(2)ステップ2Aのプロング2での改善の検討の評価。
特に、プロング1に関し、抽象的なアイデアを記載していないいくつかの例の1つとして、以下のような集積回路が挙げられています。これは、セクションVで紹介されている3つの例のうちの例47のクレーム1です。
■An application-specific integrated circuit (ASIC) for an artificial neural network, the ASIC comprising: a plurality of neurons organized in an array, wherein each neuron comprises a register, a processing element and at least one input, and a plurality of synaptic circuits, each synaptic circuit including a memory for storing a synaptic weight, wherein each neuron is connected to at least one other neuron via one of the plurality of synaptic circuits.
(試訳)人工ニューラルネットワーク用の特定用途向け集積回路(ASIC)であって、アレイ状に配列された複数のニューロンを備え、各ニューロンはレジスタ、処理要素、および少なくとも1つの入力を含み、複数のシナプス回路をさらに備え、各シナプス回路は、シナプス重みを格納するメモリを含み、各ニューロンは前記複数のシナプス回路のうちの1つを介して少なくとも1つの他のニューロンに接続されている。
セクションIIIでは、プロング2に関し、AI発明に対する多くのクレームは、コンピュータの機能の改善または別の技術または技術分野の改善として、「適格」であり、裁判所は、改善の考慮事項を評価する方法について明確なテストを提供していないものの、代わりに、多数の判決でそれがどのように評価されるかを示していると解説されています。なお、これらの決定、および評価手法については、MPEPセクション2106.04(d)(1)および2106.05(a)に記載されていることが指摘されています。
さらに、セクションIIIでは、AI発明について区別すべき重要な点は、明細書に記載されているコンピュータまたはその他の技術の改良を反映したクレーム(主題適格性有)と、(1)追加要素が、「適用する」という語句(または同等の語句)の記述、またはコンピュータ上で判例法上の例外を実装するための指示に過ぎないクレーム(主題適格性無)、または(2)判例法上の例外の利用を特定の技術環境または分野の利用に一般的に関連付けるクレーム(主題適格性無)とを区別することであると説明されています。
加えて、セクションIIIでは、AIの発明は、例えば、特定の技術分野へのAIの特定の応用(つまり、問題に対する特定の解決策)をクレームする場合、望ましい結果を達成するための特定の方法を提供する場合があって、そのような場合、クレームは単に解決策や結果のアイデアに関するものではなく、判例法上の例外を単に「適用」したり、判例法上の例外を分野の利用や技術環境に一般的に関連付けたりする以上の意味を持ち、換言すると、クレームは、コンピュータやその他の技術の改良を反映していると説明されています。
4.セクションIV
セクションIVでは、先に発表された「AI支援発明の発明者に関する審査ガイダンス」と主題適格性の判断との関係に触れられています。ここでは、発明がAI支援の下で創作されたかどうかは、Alice/Mayoテストおよび主題適格性ガイダンスの適用において考慮されるものではなく、発明の開発経緯と主題適格性とが無関係であることが示されています。
5.セクションV
セクションVでは、AI発明の新しい主題適格性の例47~49が紹介されています。例47は、AIに特定の制限、特に異常を識別または検出するための人工ニューラルネットワークの使用を記載したクレームへの適格性分析の適用を示しています。例48は、音声信号を分析し、必要な音声を無関係な音声または背景音声から分離するAIベースの方法を記載したクレームへの適格性分析の適用を示しています。例49は、特定の患者の個々の特性に合わせて医療処置をパーソナライズするのに役立つように設計されたAIモデルを記載した方法クレームの分析を示しています。
例47~49のいずれも、主題適格性を有するクレームと主題適格性を有さないクレームとを含んでいます。追加された例を含む例1~49は、USPTOのWebサイトで入手できます。
[情報元]
1. AI Takeover: PTO Issues More Patent Eligibility Guidance for AI Inventions
PTO Issues More Patent Eligibility Guidance for AI Inventions (ipupdate.com)
2. 2024 Guidance Update on Patent Subject Matter Eligibility, Including on Artificial Intelligence
3. Subject Matter Eligibility Examples
[担当]深見特許事務所 中田 雅彦