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コンピュータ視覚化に関連する特許について、特許適格性を有しないという 地裁の認定を支持したCAFC判決

連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、医療スキャンのコンピュータ視覚化に関連する特許について、特許法第101条に規定する特許適格性を有しないという地方裁判所(以下「地裁」)の認定を支持しました。

                 AI Visualize, Inc. v. Nuance Communications, Inc., Case No. 22-2019 (Fed. Cir. Apr. 4, 2024) (Moore, Reyna, Hughes, JJ.)

 

1.事件の経緯

(1)特許侵害訴訟の提起

 AI Visualize, Inc.(以下「AI Visualize社」)は、Nuance Communications, Inc.(以下「Nuance社」)に対して、それぞれが実質的に同じ明細書および同じ発明の名称を有する4件の関連特許を侵害すると主張して、地裁に訴訟を提起しました。これらの特許は、概して、ユーザーがデータセット全体を送信またはローカルに保存することなく、コンピューター上でボリューム視覚化データセット[注1]を仮想的に表示するためのシステムおよび方法に関連しています。

 Nuance社は、クレームは特許不適格な主題に向けられており、特許法第101条の下で無効であると主張し、連邦民事訴訟規則(FRC)12(b)(6)[注2]に基づいて訴訟の棄却を求めました。

 

[注1]

これらの特許の記載によれば、磁気共鳴画像(MRI)スキャンなどの医療用画像システムは、通常、患者の身体または臓器の2次元断面画像のコレクションを作成します。これらの画像は、スキャンされた領域を表す3次元データコレクションとして、中央サーバーにまとめて保存されることが多く、「ボリューム視覚化データセット(volume visualization dataset, 略して「VVD」)」と呼ばれます。本件特許発明の発明時には、これらのVVDを使用して、既存の2次元(2D)スキャンから、より優れた診断と予後につながる可能性のある豊富な3次元(3D)ビューを提示する技術が存在していました。

 

[注2]

FRC12(b)は、特許侵害訴訟において訴状を受け取った被告が答弁書を提出することなく行なうことができる「訴え却下の申し立て(motion to dismiss)」の規定であり、そのうちFRC12(b)(6)は、訴えの実体的な却下を求める場合を規定しています。Rule 12(b)(6)の申立てにより、他の救済措置を損なうことなく訴えが却下された場合(dismissed without prejudice)、一般的には原告は訴状を修正して再提出することができます。

 地裁は、両当事者が以下の(i)~(iii)の3つのグループに分類したクレームに、Alice 2ステップテスト(以下「Aliceテスト」)を適用しました。

 (i)Webアプリケーション[注3]がサーバーに指示して、仮想ビュー[注4]のどのフレームがローカルに格納されているかを確認し、医用画像の仮想ビューを作成および表示するために必要な追加のフレームを作成するクレーム。

 (ii)以前に要求された仮想ビューに一意のキーが与えられ、独立クレームの手順を完了する前にサーバーがチェックする(キーが存在する場合は表示する)という追加の要件を有するクレーム。

 (iii)画像がローカルに保存されているかどうかを確認することを要件としないクレーム。

 なお、Aliceテストは、Alice事件の最高裁判決で適用された、次の2ステップで行なうテストです。

・ステップ1:クレームが抽象的なアイデアなどの特許不適格な概念に向けられているかどうかを判断する。

・ステップ2:そうである場合は、クレームされた抽象的アイデアを特許適格な出願に変換するのに十分な発明的概念が含まれているかどうかを判断するためにクレームの要素を調べる。

 Aliceテストの詳細については、たとえば、弊所ホームページの「国・地域別IP情報」において配信した、以下のURLの記事をご参照下さい。

                 https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/9043/

                 https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8857/

 

[注3]

WEBアプリケーションとは、「YouTube」、「Gmail」、「Skype」等に代表される、WEBの仕組みを利用した高度な機能を有するアプリケーションのことを言います。

[注4]

ビューとは、一つまたは複数のテーブルに対するクエリ(データの問い合わせや要求などを一定の形式で文字に表現すること)の実行結果を基にした仮想的なテーブルのことであり、クエリ実行時に基となるテーブルからデータを都度取得する種類のビューを「仮想ビュー」と呼びます。

(2)地裁の判断

 Aliceテストのステップ1を適用するにあたり、地裁は、権利主張されたクレームは「ユーザーが要求し、リモートで保存された情報を取得する」という抽象的な概念に向けられたものであり、AI Visualize社が主張したような、コンピュータ機能の改善に向けられたものではないと結論付けました。

 その後地裁は、Aliceテストのステップ2を適用し、3つのグループのクレームのそれぞれを検討し、地裁は、クレームの限定はいずれも、クレームされた抽象的なアイデアを特許適格な出願に変えるものではないと結論付けました。最終的に、地裁は、権利主張されたすべてのクレームは、特許法第101条に規定する特許適格性を有しないと判断しました。それに対してAI Visualize社は、CAFCに上訴しました。

 

2.CAFCの判断

(1)Aliceテストのステップ1の適用について

 CAFCもまた、Aliceテストを適用しました。Aliceテストのステップ1を適用して、CAFCは、クレームされた発明の技術的特徴の焦点が、コンピュータの使用ではなく、コンピュータ技術の改善にあるかどうか、およびクレームの限定が先行技術に対するクレームされた発明の利点を記述しているかどうかを検討しました。CAFCは、データの取得、操作、表示のステップは、高いレベルの一般性(high level of generality)でクレームされた場合、抽象的な概念を構成することを理由として、Aliceテストのステップ1に基づく地裁の認定(すなわち、権利主張された3つのグループのクレームの全てが抽象的な観念に向けられたものであるという認定)を支持しました。

 AI Visualize社は、仮想ビューの作成は、クライアントコンピュータで「オンザフライ(on the fly)」[注5]の仮想ビューを作成する必要があるため、技術的課題に対する技術的解決策であると主張しました。しかしながらCAFCは、クレームの文言は、仮想ビューの「作成」が既存のVVDの一部の操作によって達成されることを明確に記載しており、既存のVVDからの仮想ビューの「作成」は、抽象的なデータ操作であると認定しました。

 

[注5]

電算機用語で「オンザフライで」とは、「いったんデータを保存するなどして別途処理を行なうのではなく、既定のプロセス(送受信や書き込み・読み出しなど)の流れの中で処理を行なう」ことを言います。(研究社 リーダーズ英和辞典第3班より)

 AI Visualize社は、仮想ビューの「作成」が技術的な問題に対する技術的解決策を提供するという見解を支持するために、明細書の複数の箇所を指摘しており、そのうちの1箇所は、VVDから関連する画像フレームがどのように選択されるかを記述することにより、動的および静的な仮想ビューがどのように形成されるかを説明しています。しかしながらこれらの技術的事項自体がクレームに記載されていない場合、明細書の記載を取り込んでクレームを解釈することを、CAFCは拒否し、クレームされた発明は抽象的な観念に向けられていると結論付けました。

(2)Aliceテストのステップ2の適用について

 Aliceテストのステップ2を適用してCAFCは、侵害が主張されたクレームは抽象的な概念そのものにすぎず、非従来型の技術を伴っていないという地裁の認定を支持しました。

 またCAFCは、仮想ビューの作成がクレームを特許適格性を有する主題に変えたというAI Visualizeの主張を却下し、仮想ビューの作成は、特許明細書で述べられているように、当該技術分野で公知であった抽象的なアイデアであると認定し、クレームされた発明は、革新的な方法で技術的問題を解決したのではなく、コンピュータシステムの分野で長い間普及している慣行に既知の解決策(データ操作と視覚化)を適用したに過ぎないと指摘しました。

(3)CAFCの判決

 したがって、CAFCは、侵害が主張されたクレームはAlice 2ステップテストの下では特許不適格であると判示し、FRC12(b)(6)に基づく被告による訴えの却下の申立を認めた地裁の判断を支持しました。

 

3.実務上の留意点

 この判決は、CAFCが特許法第101条に基づく特許適格性について課した厳格な基準を再確認し、特許のクレームは、従来のよく知られた手法を使用して抽象的なアイデアを単に適用するだけでは不十分であって、特にソフトウェアやデータ操作を含む分野においては、技術に根ざした特定の発明的概念を明確に示すことの重要性を強調しています。この判決から、特許のクレームには、非自明な方法で技術的プロセスを強化する特定の独創的な概念を明確に記載する必要があることが読み取れます。

 言い換えれば、明確に定義された発明メカニズムなしに、データの検索や表示などの性能の「抽象的なアイデア」を、過度に上位の概念で記載した特許クレームは、特許法第101条に基づいて無効にされる可能性があることから、特許出願の明細書に発明に特異な技術を詳細に記載した上で、特許クレームに技術的特異性を明記することは、特許権を有効に維持する上で不可欠です。

[情報元]

1.IP UPDATE (McDermott) “Virtually Done: Computer Visualization Patents Are Ineligible for Protection” (April 18, 2024)

                 https://www.ipupdate.com/2024/04/virtually-done-computer-visualization-patents-are-ineligible-for-protection/

 

2.WHDA CAFC Alert “SOFTWARE PATENTS DEMAND SPECIFIC, TECHNOLOGICALLY GROUNDED CLAIMS”| May 3, 2024

                 https://cafc.whda.com/software-patents-demand-specific-technologically-grounded-claims/

 

3.AI Visualize, Inc. v. Nuance Communications, Inc., Case No. 22-2019 CAFC判決原文

                 https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-2109.OPINION.4-4-2024_2296276.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登