米国特許商標庁によるターミナルディスクレーマーの規則改定案の発表
2024年5月10日、米国特許商標庁(USPTO)は、ターミナルディスクレーマー(TD)実務の大幅な変更に関する規則改定案の通知を発行しました。この変更は、特許出願戦略に大きな変化をもたらす可能性があります。提案されている変更では、先行技術に基づいてクレームが無効または取り消された特許がTDにより他の特許に直接的または間接的に関連付けられている場合に、当該他の特許に基づく権利行使は不能になるという特許所有者の同意をTDに含めることが義務付けられます。89 Fed. Reg. 40439(2024年5月10日)。
1.規則改定案の概要と目的
この規則の変更は、最終的に特許不可または無効と判断されたクレームを有する特許にTDが結び付けた他の特許に基づく権利行使を競合他社が回避できるようにすることで、イノベーションと競争を促進することを目的としています。
「自明型のダブルパテント」(ODP)の拒絶理由が通知された場合には、TDを提出することにより当該拒絶理由を解消することができます。現在の規則では、TDにより他の特許に結び付けられた特許を無効にした場合でも、他の特許の特許性には直接影響しません。
今回の規則改定案では、競合他社は、特許付与後の特許有効性紛争で1つの特許を無効にした場合には、当該特許にTDで結びつけられた他の特許の無効を請求することなく、当該他の特許に基づく権利行使が不能になるとされています。
規則改定案の通知によれば、当該変更は、バイデン大統領の「米国経済における競争の促進」に関する大統領令14036号に従い、市場参入障壁を減らすことで医薬品のコストを削減し、競争を促進するという米国政府の意図に沿ったものであるとのことです。当該コスト削減の一部は、TDによって縛られた単一の製品または製品のマイナーバリエーションをカバーする複数の特許の大きな「特許の茂み」に無効を申し立てるコストを下げることによるものと言われています。
2.規則改定案の詳細
現在の規則37 CFR 1.321(c)または(d)に基づく現在のTD実務では、共同所有されまたは共同研究契約に基づいて共同所有されている、互いにわずかに異なるクレームを有する複数の発明について特許出願した場合、そのような出願で発行されまたは係属中の密接に関連する特許クレームに対するODP拒絶を、出願人がTDを提出することで回避することが可能とされています。TDを提出する際、特許出願人は、同様の特許クレームを有する先願特許の存続期間を超える存続期間を放棄することに同意します。
規則改定案では、37 CFR 1.321(c)および(d)を改正して、以下の(1)または(2)の場合に、ODP拒絶を回避するために提出されたTDに、本件特許または本件出願で許可された特許がODP拒絶を回避するために提出された1つ以上のTDによって直接的または間接的に特許に結び付けられておらず、一度も結び付けられたことがない場合にのみ権利行使可能であるという、TDの申立人による合意を含めることを義務付けることを目指しています。
(1)いずれかのクレームが、民事訴訟において連邦裁判所によって、またはUPSTOによって、35 U.S.C. 102条または103条に基づいて最終的に特許不可または無効と判断され、すべての控訴権が尽くされている場合。
(2)クレームに対して35 U.S.C. 102条または103条に基づく無効の申し立てがなされた後に、当該クレームの法定放棄が提出された場合。
3.規則改定案についてのコメント
提案された規則改定案は将来的なものであり、新しいTDに合意文言がないTDを含む特許には適用されません。さらに、新しいTDの慣行では、特許は直接的に一方向にしか結び付けられません。したがいまして、たとえば、特許/出願Aは、特許/出願Aで提出されたTDによって特許/出願Bに直接結び付けられる場合がありますが、特許/出願Bは特許/出願Aに結び付けられません。しかしながら、当該ケースで、特許/出願Cで2番目のTDが提出され、特許/出願Aを参照特許または出願として特定する場合に、特許/出願Cは特許/出願Bに間接的に結び付けられることになります。今回の規則改定案では、特許がTDによって直接的または間接的に結び付けられるケースと、変更される規則が実際にどのように機能するかを示すいくつかの例が説明されています。
提案された規則改定案は、特許出願戦略に大きな影響を与える可能性があります。当該規則改定案が採用された場合には、例えば、以下の①~⑥のような事象が起こるかも知れません。
①ODP拒絶を克服するための反論とクレーム補正の増加。
②競合するクレームの削除。
③わずかに変更されたのみのクレームについての継続出願の減少。
④1つの出願にわずかに変更されたクレーム数を増加させることによって限定要求を促し、継続出願の必要性を低下させること。
⑤特定の場合にはODP拒絶の対象とならない分割出願の増加。
⑥狭い範囲のクレームについて先に出願し、後の出願でクレームの範囲を徐々に広げることで、後の出願が先の出願よりも無効になるリスクを減らすこと。
USPTOは、提案された規則改定案に対するコメントの締め切りを2024年7月9日に設定しました。コメントの中には、USPTOの改定案を制定する法定権限に疑問を投げかけるものもあると予想され、最終的には裁判所または議会によって解決される可能性があります。
[情報元]
1.IP UPDATE (McDermott) “Patent Thicket Avoidance: PTO Proposes Changes to Terminal Disclaimer Practice” (May 23, 2024)
2.連邦官報の通知
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2024-05-10/pdf/2024-10166.pdf
[担当]深見特許事務所 赤木 信行