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EPO審判部の手続規則の最近の改正

 欧州特許庁管理理事会は2023年12月13日、審判手続きの適時性をさらに高めるとともに、当事者の権利が適切に保護されることを保証することを目的とした、審判手続規則(the Rules of Procedure of the Board of Appeals: RPBA)第13条第2項、第15条第1項および第15条第9項(b)の改正案を承認したことを発表しました。改正された審判手続き規則は、2024年1月1日より発効しており、発効日に進行中の、あるいは発効日以降に行なわれる審判手続きに適用されます。

 

1.RPBA改正内容の説明

 以下、改正されたRPBA第13条第2項、第15条第1項および第15条第9項(b)の改正内容について、条文ごとに説明します。

(1)RPBA13条第2

 改正前は、「審判部により指定された期間満了後又は口頭手続への召喚の通知後に提出された審判請求の補正は、原則考慮されない」と規定されていましたが、今回の改正により、「審判部により指定された期間満了後又はRPBA15条第1項に基づく通知(口頭審理中に重要事項に集中できるようにするために、審判部が決定を下すのに特に重要と考えられる事項を知らせる通知)後に提出された審判請求の補正は、原則考慮されない」とされました。この改正により、口頭手続への召喚の通知という早い段階で審判請求の補正が制限されることが回避されることになります。

 改正後のRPBA第13条第2項の条文は次のとおりです(追加箇所に下線、削除箇所に取消線を付しています。)。

 ”Any amendment to a party’s appeal case made after the expiry of a period specified by the Board in a communication under Rule 100, paragraph 2, EPC or, where such a communication is not issued, after notification of a summons to oral proceedings communication under Article 15, paragraph 1, shall, in principle, not be taken into account unless there are exceptional circumstances, which have been justified with cogent reasons by the party concerned.”

 [試訳]「EPC規則第100条第2項[注1]に基づく通知で審判部が指定した期間の満了後、または、そのような通知が発行されない場合には、15条第1項に基づく口頭審理への召喚の通知後に行なわれる当事者による審判事件の補正は、関係当事者が正当な理由により正当化した例外的な状況がない限り、原則として考慮されないものとする。」

 [注1]EPC規則第100条は、審判の審理に関する規定であり、その第2項には、「審判の審理においては,審判部は,必要となるたびに,当事者に対し、審判部自体が行った通知又は他方当事者が提出した意見書に関する意見書を指定する期間内に提出するよう求める。」と規定されています。

 

(2)RPBA15条第1

 今回の改正前は、「当事者系審判手続の場合に、RPBA第12条第1項(c)[注2]に基づく答弁書を、被請求人から審判合議体が受領してから少なくとも2箇月経過後に審判合議体が口頭手続への召喚を通知する」とされていたところ、本改正により、「RPBA規則第12条第1項(c)に基づく答弁書を被請求人から審判合議体が受領してから少なくとも1箇月経過後に、RPBA15条第1項に基づく、審判部が決定を下すのに特に重要と考えられる事項を知らせる通知を行なう」ものとされました。

 [注2]この条文で引用されているRPBA第12条第1項(c)は、当事者が複数ある場合に、他の当事者の答弁書は審判請求理由の通知から4か月以内に提出しなければならないことを規定しています。

 改正後のRPBA第15条第1項の条文は次のとおりです

 ”Without prejudice to Rule 115, paragraph 1, EPC, the Board shall, if oral proceedings are to take place, endeavour to give at least four months’ notice of the summons. In cases where there is more than one party, the Board shall endeavour to issue the summons no earlier than two months after receipt of the written reply or replies referred to in Article 12, paragraph 1(c). A single date is fixed for the oral proceedings. In order to help concentration on essentials during the oral proceedings, the Board shall issue a communication drawing attention to matters that seem to be of particular significance for the decision to be taken. The Board may also provide a preliminary opinion. The Board shall endeavour to issue the communication at least four months in advance of the date of the oral proceedings. In cases where there is more than one party, the Board shall issue the communication no earlier than one month after receipt of the written reply or replies referred to in Article 12, paragraph 1(c).

 [試訳]「EPC規則第115条第1項[注3]に影響を与えることなく、審判部は、口頭審理が行われる場合、召喚の少なくとも4か月前に通知するよう努めるものとする。当事者が複数ある場合、審判部は、第12条第1(c)に記載の書面による回答の受領から2か月後以降に召喚状を発行するよう努めるものとする。口頭審理の期日は1つのみに固定される。口頭審理中に重要事項に集中できるようにするために、審判部は、下される決定にとって特に重要と思われる事項に注意を向けるための通知を発行するものとする。審判部は予備的意見を提供してもよい。審判部は、口頭審理の日の少なくとも4か月前にその通知を発行するよう努めるものとする。当事者が複数ある場合、審判部は、第12条第1項(c)に記載の書面による回答の受領から1か月後以降にその通知を発行する。」

 [注3]この条文で引用されているEPC規則第115条第1項は、口頭審理への当事者の召喚については、当事者がより短い期間にすることに当事者が同意する場合を除いて、最低2箇月の事前通知を与えることを規定しています。

 

(3)RPBA15条第9(b)

 RPBA第15条第9項(b)は、同項(a)と調和するように、審判に関する決定の新たな日付について、当事者だけでなく、審判部の部長へも通知することとしたものです。

 改正後のRPBA第15条第9項(b)の条文は次のとおりです

 ”When a case is ready for decision at the conclusion of the oral proceedings but the Chair does not announce the decision on the appeal orally in accordance with paragraph 6, the Chair shall indicate the date on which the decision on the appeal is to be despatched, which shall not be later than three months after the closure of the oral proceedings. If the Board is unable to despatch the decision on the appeal by that date, it shall inform the parties and the President of the Boards of Appeal of a new date or, in exceptional circumstances, shall issue a communication specifying the further procedural steps that will be taken.”

 [試訳]「口頭審理の終了時に審判の決定の準備が整っているにもかかわらず、審判長が第6項[注4]に従って口頭で審判に関する決定を発表しない場合、審判長は審判に関する決定が通知される日付を示すものとし、その日付は口頭審理終了後3か月以内の日を示すものとする。審判部がその日までに審判する決定を提出できない場合、審判部は当事者および審判部の部長(the President of the Boards of Appeal)新たな日付を通知するものとするか、または、例外的な状況においては、講じられるさらなる手順を明記した通知を発行するものとする。」

 [注4]この条文で引用されているRPBA第15条第6項は、次のように規定しています。

 ”The Board shall ensure that each case is ready for decision at the conclusion of the oral proceedings, unless there are special reasons to the contrary. Before the oral proceedings are closed, the decision may be announced orally by the Chair.”

 [試訳]「審判部は、特別な理由がない限り、口頭審理の終了時に各事件について決定を下す準備が整っていることを確認するものとする。口頭審理が終了する前に、主任審判官(the Chair)は口頭で決定を発表することができる。」

 

2.今回のRPBAの改正の意義

 欧州特許庁の発表によれば、RPBA第15条第1項に関する改正が最も重要であるとのことです。この条文の改正により、審判部が手続きの早い段階で口頭審理に召喚できるようになるため、審判手続きの適時性が高まります。これまで、当事者が複数ある場合、審判部は審判請求理由書に対する被請求人の答弁があってから2か月経過後以降に召喚するよう努めなければならなりませんでした。今回の改正により、この制約は口頭審理の召喚には適用されなくなりました。早期の召喚は当事者や代理人にとっても有益であり、口頭審理に必要な手配を直ちに行なうことができます。

 ただし、今回の改正において、RPBA第15条第1項の末尾に、「口頭審理中に重要事項に集中できるようにするために、下される決定にとって特に重要と思われる事項に注意を向けるための審判部による通知については、当事者が複数ある場合、被請求人の答弁の受領から1か月経過後以降に発行する」ことが追加されました。

 この改正により、審判請求理由に対する応答書に当事者がさらに応答しようとする場合に、当該当事者による応答書の提出が、審判部がRPBA第15条(1)に基づく通知と予備的見解を発行した後になってしまうリスクを回避しようとすると、当該当事者への時間的プレッシャーが大幅に増加する可能性があります。 しかしながら、審判部がこれほど早い段階でRPBA第15条(1)に基づく通知を発行することは非常にまれであるため、当分の間、EPOにおける審判手続きの適時性に重大な影響を与えることはないものと言えます。

 

3.改正が見送られた条文

 当初予定されていたRPBA第12条第1項(c)に基づく答弁書提出の期間を現在の4ヶ月から2ヶ月に短縮する改正案は、今回の改正では見送られました。審判部での適時性へ与える影響に対して、答弁書を提出する当事者にとっての負担が増大することが懸念されたためです。この改正案については、「2025年末までに24か月以内に審判の90%を解決する」という審判部の新たな適時性目標の達成の可否が評価され次第、再検討されるものと思われます。

[情報元]

1.HOFFMANN EITLE March 2024 QUARTERY “EPO amends the Rules of Procedure of the Boards of Appeal (RPBA)”

              https://hoffmanneitle.com/news/quarterly/he-quarterly-2024-03.pdf#page=20

 

2.EPOウェブサイト “Amended Articles 13(2), 15(1) and 15(9)(b) of the Rules of Procedure of the Boards of Appeal (RPBA) enter into force on 1 January 2024”)

              https://www.epo.org/en/law-and-practice/boards-of-appeal/communications/amended-articles-132-151-and-159b-rules-procedure

 

3.EPO審判部手続規則(英文)

              https://www.epo.org/en/legal/epc/2020/rpba.html#rpba.f2-intext

 

4.JETRO デュッセルドルフ事務所「欧州特許庁(EPO)審判部、2024年1月より審判手続規則を改正」2023年12月14日

              https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2023/20231214.pdf

 

[担当]深見特許事務所 野田 久登