USPTO、AI支援発明の発明者に関する審査ガイダンスを発表
2024年2月13日、米国特許商標庁(USPTO)は、人工知能(AI)支援発明を含む出願における発明者の地位に関する審査ガイダンスおよびコメント要請を含む通知を発行しました。このガイダンスは、AI支援発明における人間の貢献に焦点を当てて発明者を決定するための予備的なガイドラインを定めています。
1.大統領令による指示に基づく発表
このガイダンスは、バイデン大統領の人工知能の安全、安心、信頼できる開発と使用に関する大統領令(2023年10月30日)に対処して発表されました。この大統領令は、USPTOが120日以内に「発明プロセスにおける生成AIを含むAIの使用および発明者の地位の問題に対処するガイダンスであって、発明プロセスにおいてAIシステムが異なる役割を果たす実例と、それぞれの例において発明者の問題をどのように分析すべきかとを示すガイダンスを、USPTOの特許審査官および出願人に対し」提示することを義務付けています。
今回のガイダンス発表を知らせる2024年2月12日付けの”USPTO Alert”(下記「情報元3(1)」)の冒頭で述べられているように、ガイダンス発表の趣旨についてUSPTOのVidal長官は次のように発言しています。
『このガイダンスは、人間の創意工夫とAIの支援を受けた発明への投資を促進するために特許保護を与える一方で、将来の開発のために不必要にイノベーションを封じ込めることのないよう、バランスをとっている。このガイダンスは、イノベーションにおけるAI の利用を受け入れ、人間の貢献に焦点を当てることによって、それを実現するものである。』
2.ガイダンスの概要
2024年2月13日に発表されたガイダンスの主な内容は以下のとおりです。
(1)AI支援発明の発明者の要件
AIが生成していない発明の発明者決定の場合と同様に、AI支援発明は、AIシステムがクレームされた発明の作成に役立った可能性がある場合でも、発明に大きく貢献した自然人を発明者または共同発明者として指名する必要があります。
この指針は、Thaler v. Vidal事件CAFC判決に基づいています。この判決の詳細は、弊所ホームページの「国・地域別IP情報」において2022年9月22日に配信した「人工知能(AI)ソフトウェアシステムを特許出願の発明者として記載することはできないとしたCAFC判決紹介」(https://www.fukamipat.gr.jp/region_ip/8734/)をご参照下さい。
特許出願における発明者となり得るのは、少なくとも1つのクレームの発明を創出するために「重要な貢献(substantial contribution)」をした人です。この基準はすべての発明に共通であり、AI支援発明における発明者にも適用されます。
(2)AI支援発明における「重要な貢献」の評価について
AI支援発明における発明者の評価には、発明者のためのPannuファクターを考慮する必要があります。「Pannuファクター」とは、Pannu v. Iolab Corp.事件CAFC判決(1998)で、発明者を決定する際の基準として示された、次の3つのファクターを意味します。
①発明の着想や実用化に何らかの重要な形で貢献すること。
②貢献が発明全体と比較した場合に不十分でないこと。
③発明者によく知られた概念や技術の現状を単に説明する以上の貢献をすること。
(3)Pannuファクター適用のための指針
AIの支援を受けた発明における自然人の貢献が顕著であるかどうかの判断は困難であり、明確なテストは存在しないことから、特許出願人およびUSPTOの特許審査官が判断する際に役立つよう、USPTOは、AI支援発明におけるPannuファクターの適用に役立つ指針として、以下のような原則を提供しています。
①自然人が発明の創作にAIを使用したからといって、発明者としての貢献が否定されるわけではない。
②単に問題を認識し、その認識をAIに入力して提起しただけの自然人は、AIの出力から特定される発明の適切な発明者ではない可能性があります。しかしながら、AIから特定の解決策を引き出す方法が「重要な貢献」につながる可能性はあります。
③発明を実施化(reduction to practice)しただけでは「重要な貢献」にはならず、AIシステムのアウトプットを単に認識し、評価するだけの自然人は、特にアウトプットが当業者ににとって自明な場合、必ずしも発明者であるとは言えません。対照的に、自然人がAIのアウトプットに大きく貢献したり、アウトプットに基づく実験を成功させて発明を生み出したりする場合には、そこに「重要な貢献」が存在する可能性があります。
④特定の問題に対処するためにAIシステムに不可欠な構成要素(building block)を開発し、その構成要素が出力から解決策(発明)を引き出すのに役立つ場合は、その構成要素を開発した自然人は適切な発明者である可能性があります。
⑤発明の創出に使用されたAIシステムを単に所有または監督することは、その人が発明の構想に多大な貢献をしない限り、発明者にはなり得ません。
(4)具体事例の提供
USPTOは、AIのInventorshipに関するウェブページにおいて、上述の指針が審査においてどのように適用されるかを説明する2つの事例(以下のURLのExample 1および2)を提供しています。
Example 1:https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ai-inventorship-guidance-mechanical.pdf
Example 2:https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ai-inventorship-guidance-chemical.pdf
3.実務上の留意点
生成AIの進化により、AI支援発明の特許出願がますます増加し、発明者の特定に際して、今回発表されたガイダンスを参照する機会も多くなることが予想されます。そのような場合に留意すべき点として、下記「情報元2」には次の事項が述べられています。
(1)情報開示(IDS)について
「発明に関与した唯一の自然人が重要な貢献をしていない」という状況が特許性欠如(米国特許法101条および115条違反)につながるため、特許性に関する重要(material)な情報として、情報開示の対象となる可能性があります。
(2)AIによる譲渡証(assignment)、宣誓供述書(affidavit)の可否
発明者宣誓書や譲渡証は、自然人だけが対象となっており、AIによる宣誓供述書や譲渡証は受け付けられないとされています。
(3)AIによる優先権の主張
パリ優先権に対しては、明確な立場が示されています。最先の出願に記載された発明者がAIだけであった場合、米国では、その優先権主張は認められません。また、共同発明者のうちの一部がAIであった場合、米国出願の発明者は、AIを除いた自然人のみを記載する必要があります。上記の取り扱いについては、PCT出願にも同様に適用され、国際段階で発明者にAIが含まれていた場合、これを除いた発明者を記載することになります。
[情報元]
1.IP UPDATE (McDermott) ” PTO on AI Inventorship: Will the Real Natural Human Inventors Please Stand Up? ” (Feb 22, 2024)
2.WHDA NEWSLETTER(February 2024)「AI-assisted inventionの発明者認定に関する米国審査基準」
3.USPTOのウェブサイトより
(1)USPTO Alert “USPTO issues inventorship guidance and examples for AI-assisted inventions” (2024.2.12)
(2)A Notice by the Patent and Trademark Office on 02/13/2024 “Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions”
4.JETRO NY 知的財産部「USPTO、AIの支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンスを発行」2024年2月13日
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20240213.pdf
[担当]深見特許事務所 野田 久登