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5G Advanced (3GPPリリース18)

1. はじめに

 イギリスの特許事務所Venner Shipleyが5G Advancedの特許出願の分析[1]をしており、5G Advancedの簡単な説明とともにご紹介します。

 

 

2. 5G Advancedについて

 特許分析の前に、5G Advancedおよび3GPP Rel-18について、NTTドコモの資料を基に簡単にご説明します。

 NTTドコモの「5Gおよび5G-Advanced 標準化動向」[2]によれば、移動体通信システムの規格策定を行う標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)において、5Gでは、次世代6G(2029年商用サービススタート)までの間に、Rel-17からRel-22の仕様が計画されているとしています。

 さらに、Rel-18以降を5G Advancedと定義し、Rel-18について、現在仕様の検討がされているとされています。仕様化項目として、上りリンク通信(送信)の性能改善、5GS(5G System:コアネットワーク、無線アクセスネットワーク、および通信端末で構成される5Gのネットワークシステム)によるIndustrial IoTサポート、AI/ML(人工知能/機械学習)技術の無線インターフェイスへの適用等が挙げられています。

 

 

3. Venner Shipleyの特許分析

・Venner Shipleyは、PatBase[3]のデータを用いて、以下の分析内容を紹介しています。

 2020年以降、世界で5G関連(*)の特許出願で公開されたパテントファミリーは20万件を超えている。

 (*) IPC分類 H04W、H04L、H04Bは、それぞれ「無線通信ネットワーク」、「デジタル情報の送信」、および「送信」であり、5G関連の発明の大部分が属すると解されるIPC分類と推測している。

・このPatBaseのデータによると、上位10社は、以下である。

 <1> Huawei (23%)、<2> Qualcomm (22%)、<3> Samsung(10%)、<4> LG (8.6%)、<5> Ericsson (8.3%)、<6> Guangdong Oppo (6.7%)、 <7> NTT DoCoMo (5.7%)、 <8> Beijing Xiaomi (5.7%)、 <9> ZTE (5.6%)、 <10> Apple (4.9%)

 

・Venner Shipleyが5G Advancedにおいて主要技術と推察する4つの技術「エクステンデッドリアリティ(XR)」、「マッシブMIMO」、「サイドリンク」、「AI/ML」においては、Qualcomm, Samsung(サイドリンク除く), LGが主要出願人であるとしています。そして、各技術について、以下のように説明しています。

 

(a) エクステンデッドリアリティ(XR)

 エクステンデッドリアリティ(XR)は、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)など、仮想世界と現実世界を組み合わせることを目的とした没入型テクノロジーを指す用語である。

 XRは、ゲームから仕事、日常生活まで、さまざまな分野に影響を与える力を持っている。Rel-18では、XR アプリケーションに必要な高いデータレートと遅延抑制を提供するなど、この可能性を実現するためのサポートに重点が置かれており、処理負荷がクライアント・デバイスで発生するのではなく、ネットワーク自体で発生するようにする方法などが検討されている。

 この分野のトップ3を見ると、<1> LG (61% ; 3,488ファミリー)、<2> Samsung (18%)、 <3> Qualcomm (7%)である。

 

(b) マッシブMIMO

 Massive Multiple-Input Multiple-Output(大規模に複数のアンテナを用いて通信を行う技術)は、ビームフォーミング(電波を特定の方向に向けて送信、または特定の方向から受信する技術)と組み合わせることで、多数のアンテナを利用して、同じ無線チャネルで多くのデータ信号を同時に送受信できるようにする。5G Advancedの開発における重要な分野である。たとえば、高品質のストリーミングをサポートするために、上りリンクと下りリンクの両方で容量を増やしたいという要望がある。そのため、5G Advancedに求められる高いデータレートに対応するために、ユーザー速度ごとに異なるビームフォーミング方式を使用するなど、MIMO容量を増やすことが進められている。

 この分野のトップ3を見ると、<1> Qualcomm (41%)、 <2> Samsung (16%)、 <3> LG (10%)である。

 

(c) サイドリンク

 サイドリンクは、ネットワークを介してデータを中継する必要のないデバイス間の直接通信であり、3GPP Rel-12で初めて導入された。Rel-18では、特にデバイス間通信を使用してデバイス間でデータを中継し、ユーザーデバイスを相互に情報伝送するためのネットワークとして効果的に使用する。

 この分野のトップ3を見ると、<1> Qualcomm (43%)、 <2> LG (13%)、 <3> Ericsson (10%) である。

 

(d) AI/ML

 AI/MLは5G Advanced仕様のさまざまな分野に大きな影響を与えることが予想される。5G Advancedの開発で特に重点を置く分野は、ネットワークのエネルギー効率、モビリティの強化、負荷分散のためのAI/MLの使用である。

 この分野のトップ3を見ると、<1> Qualcomm (25%)、 <2> LG (24%)、 <3> Samsung (14%)である。

 

・Venner Shipley分析結果コメント

 Huaweiは5G関連の特許出願で最大の出願人であるが、ここで取り上げた4つの主要な開発分野で、1つもトップ3には届いていない。

 5G全体で4位のLGは、QualcommやSamsungと並んで、5G Advancedのこれらの分野でトップ3として確固たる地位を築いている。

 この上位3社においては、LGがXRに重点を置き、Qualcommがサイドリンク関連技術に重点を置くなど、それぞれ重要な注力分野がある。

 Samsungは、サイドリンク技術を除いた技術分野に注力しているようである。

 この状況が、5G Advancedの開発が進み、6Gの開発に向かっても続くかどうか、興味深いところである。

 

 

4. 弊所コメント

・Venner Shipleyの見解によれば、5G Advancedにおいて主要技術と推察する4つの技術では、Huaweiはトップ3に入っていないとしています。

 しかし、資料(1)「世界5G標準必須特許(SEP)及び標準提案に関する研究報告(2023年)」[4] および資料(2)「ドコモの5G 必須特許保有数は引き続き世界トップ5、通信事業者としてもトップ」[5]によれば、Huaweiは、14.6%、11.4%といずれもトップとなっています。4つの技術とSEP特許とは異なる点があると考えられますが、5Gにおける真の特許力については、推察が難しいと予測されます。

 上記資料(1)において、トップ5は、<1> Huawei (14.6%),  <2> Qualcomm (10.0%), <3> Samsung (8.80%), <4> ZTE (8.14%), <5> LG (8.10%)となっています。

・Qualcommは、4つの各分野においてトップ3内で出願されており、モデムチップ事業において、オープン&クローズ戦略を継続するための知財確保がなされているように推察されます。

・携帯電話でSamsungと首位を争うAppleは、全体で4.9%と10位であり、決して多いとは言えないように考えられます。

 また、今回挙げられた各主要技術について、(a) XR 1.5%, (b) マッシブMIMO 5%, (c) サイドリンク 5%, (d) AI/MLデータなしとなっています。

 一方、Appleの2023年US特許出願件数が24,000件程度とベスト10に入っており[6]、USでの特許出願件数が少ないわけではないと考えられます。

 分析はできていませんが、今回は技術分類以外の(5Gとは直接関係しない)技術分野に出願されている可能性があります。また、Qualcommとの実施許諾契約[7]があるため、通信技術以外に力を入れている可能性も考えられます。

 

 

[情報元]

 [1] https://www.vennershipley.com/insights-events/5g-advanced-the-big-developments-and-the-big-innovators/

 [2] https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol30_3/vol30_3_003jp.pdf

NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナルVol. 30 No. 3 (Oct. 2022))

 [3] https://www.rws.com/jp/intellectual-property-services/technology/patbase/

 [4] https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/pdf/report_20230426.pdf

 [5] https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/ipr/topics_230519_00.pdf

 [6] https://patent-i.com/report/

 [7] https://www.apple.com/jp/newsroom/2019/04/qualcomm-and-apple-agree-to-drop-all-litigation/

 

[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠