UPCまたは国内裁判所での取消訴訟開始に伴うEPOでの異議申立処理の加速に関するEPO発表
欧州特許庁(EPO)は2023年11月の官報(Official Journal)で、EPOでの特許の異議申立手続について、当該特許に関連する侵害訴訟または取消訴訟が統一特許裁判所(UPC)またはEPC締約国の国内裁判所/管轄当局に係属していることがEPOに通知された場合、EPOは異議申立手続を加速すると発表しました。(OJ EPO 2023, A99: Online publication date: 30.11.2023)
1.背景
EPOは以前は、UPCまたは国内裁判所/管轄当局に侵害訴訟が係属している場合にのみ、異議申立手続を加速していましたが、今回の発表によって取消訴訟が係属している場合も含むようにEPOの実務が変更されました。今回の変更はすべての利害関係人にとって朗報であると考えられます。
この変更は、2023年11月23~24日に開催されたEPOの異議申立関連事項に関する会議で議論されました。会議では以下に示すような重要な事項が取り上げられました。
① UPC/国内裁判所は通常、係属中の侵害/取消訴訟があることをEPOに通知し、これによってEPOは自動的に異議申立手続を加速することになります。
② 異議申立手続の当事者が処理の加速を要求することも可能です。
③ 異議申立手続が加速される場合、目標は3ヶ月以内に次の手続上の指令を発行することです。
④ 口頭審理の日程がすでに設定されている場合は、可能な限り早い日に日程を変更して行うことができます。
⑤ この異議申立手続の自動的な加速は、第一審の異議申立手続にのみ適用され、必ずしも審判段階には適用されないことが理解されます(ただし、正当な利益を持つ当事者は依然として審判手続の加速を要求することができます)。
2.EPOの発表内容の和訳
今回の発表(OJ EPO 2023, A99: Online publication date: 30.11.2023)の内容について弊所の仮訳を以下に示します。
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EPOからの情報
統一特許裁判所または締約国の国内裁判所もしくは管轄当局において侵害訴訟または取消訴訟が開始れた場合の異議申立の迅速な処理に関する2023年11月7日付けの欧州特許庁からの通知
(なお、この通知は、侵害訴訟が開始された場合の異議申立の迅速な処理に関する2023年4月24日付けのEPOからの通知に代わるものです(補足刊行物3、OJ EPO 2023、9))。
(1)欧州特許または単一効力を持つ欧州特許(「単一効特許」)に関連する侵害または取消訴訟は、EPOでの異議申立手続と並行して(「並行異議申立手続」)、統一特許裁判所においてまたは締約国の国内裁判所もしくは管轄当局において提起されることがあります。このような場合に、EPOでの並行異議申立手続を迅速に終結させることで、法的確実性と手続きの効率性が促進されるとともに、欧州特許制度の高い品質と均一性が促進されます。このことは、公衆だけでなく、訴訟の当事者、関係する当局および裁判所の利益にもなります。
(2)したがって、EPOは、統一特許裁判所または締約国の国内裁判所もしくは管轄当局から、欧州特許または単一効特許に関連する侵害または取消訴訟が開始されたという情報を受け取った場合、並行異議申立手続の処理を加速します。そのような情報が存在しない場合には、並行異議申立手続の当事者はいつでも処理の加速を要求することができます。
(3)並行異議申立手続が加速される場合、異議部門は、そのような情報または当事者の要求の受領から3ヶ月以内に次の手続指令(たとえば局通知、口頭審理への召喚)を発行するためにあらゆる努力を払うものとします。特許権者が異議申立通知に応答する前に異議部門がそのような情報または要求を受け取った場合、異議部門は、異議申立通知の受領後3ヶ月以内に次の手続指令を発行するようあらゆる努力を払うものとします。該当する場合、口頭審理は、可能な限り早い日に日程を変更して行うことができます。通常の期間を超えて期限を延長するまたは口頭審理を延期するという当事者からの要求は、例外的で正当に立証された場合にのみ許可されます。
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3.今回の変更の影響
UPCまたは国内裁判所/当局に侵害訴訟が係属している場合だけでなく取消訴訟が係属している場合にもEPOは異議申立手続を加速する今回の発表は、法的な確実性の点で、および調和のとれた一貫したアプローチを提供するという点で、明らかに良いニュースです。これにより、EPOとUPCとで異なる決定や一貫性のない決定が下される可能性が減り、関係する当事者の遅延を減らし、そして恐らくコストをも削減することができるでしょう。
[情報元]
① FORWARD DECEMBER 2023 Mewburn Ellis | 4 December 2023 “EPO will accelerate oppositions when there are parallel UPC infringement or revocation proceedings”
② OJ EPO 2023, A99: Online publication date: 30.11.2023 (EPO官報原文)
(https://www.epo.org/en/legal/official-journal/2023/11/a99.html)
[担当]深見特許事務所 堀井 豊