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IPR請願書で提起のない主張を放棄と認定したCAFC判決 | 弁理士法人 深見特許事務所

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IPR請願書で提起のない主張を放棄と認定したCAFC判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、特許審判部(PTAB)の特許性判断を支持し、当事者系レビュー(IPR)請願人の控訴審での主張はIPR請願書で提起されていないため、放棄されたと認定しました。

              Netflix, Inc. v. DivX, LLC, Case Nos. 22-1203; -1204 (Fed. Cir. Oct. 25, 2023) (Linn, Chen, JJ.)

 

1.事件の背景

(1)本件特許の概要

 DivX, LLC,(以下「DivX社」)は、メディアストリーミング技術に関する2件の米国特許(No.9,270,720およびNo.9,998,515)を保有しています。メディアストリーミングでは、コンテンツ(映画など)は通常、さまざまなデバイス機能に適した個別の”ストリーム” として格納されます。スマートフォンなどの再生デバイスは、使用可能なストリームから適切なメディアファイルを選択できる必要があります。この選択を達成するために、特許無効を申し立てられた上記2件の特許は、メディアのストリームを持つコンテナファイルの場所と内容を記述するトップレベルのインデックスファイルを自動的に生成する方法を論じています。特に、各特許における独立クレームは、

 (a)コンテンツの要求を「受信」し、コンテンツに関連するアセット(assets)のリストを「読み出し」し、

 (b)デバイス機能を使用してアセットのリストを「フィルタリング」し、

 (c)フィルタリングされたアセットのリスト内の各アセットを記述するトップレベルのインデックスファイルを「生成」し、

 (d)そのトップレベルのインデックスファイルを再生デバイスに「送信」すること

を含む方法を記載しています。

 ご参考までに、米国特許No.9,270,720に対応する日本の特許公報である特許第6076347号公報(下記「情報元3」)は、同米国特許とほぼ同一内容が開示されており、その請求項1は、米国特許クレーム1と同一内容です。本件特許の実施形態においては、「特定のタイトルに関連付けられたコンテンツのストリームを含むコンテナファイル」が「アセット」に対応します。本件米国特許に対応する日本特許公報(特許第6076347号公報)の段落[0015]第8行~第9行をご参照下さい。

(2)Netflix社によるIPRの請願と、PTABの決定

 Netflix社は、先行技術文献の2通りの組み合わせ(Pyle引例とMarusi引例、および、Lewis引例とMarusi引例)に基づく2つの別々のIPR手続きで、2つの特許に異議を唱えました。PTABは、Netflix社、DivX社のそれぞれが提出した主張と証拠を綿密に分析し、両方のIPR請願に対して長い最終決定書を発行しました。その決定においてPTABは、Netflix社が異議を申し立てられたクレームに特許性がないことを証明する責任を果たさなかったとしてDivX社を支持し、2件の特許は有効であるとの判断を示しました。それに対してNetflix社はCAFCに控訴しました。

 

2.CAFCにおける審理およびCAFCの判断

(1)PTABが裁量権を濫用したかどうかについて

 IPR請願書の内容をどのように解釈するかについて、PTABは裁量権を有しますが、CAFCは、判例に基づいて、PTABの決定が以下のいずれかの場合には、裁量権の濫用と認められると述べました。

 (i)明らかに不合理、恣意的、または空想的である。

 (ii)法律の誤った解釈による結論に基づいている。

 (iii)明らかに誤った事実認定に基づいている。

 (iv)PTABが合理的に決定を下す根拠となる証拠がない認定が含まれる。

 さらにCAFCは、PTABはIPRの請願内容を過度に機械的に捉えて、請願者が理想的な明確さをもって主張しなかったという理由で、主張への対応を拒否すべきではないものの、PTABは、請願書を解読して、請願書の記載から明確に読み取れる内容を超える主張を見つけ出す必要はないと指摘しました。またCAFCは、請願者が、請願書において漠然とした一般的な主張に依拠し、後で請願の真の意図を理解できなかったとしてPTABを責めることは許されず、請願書において明確な主張を提示するのは請願人の責任であるとも指摘しています。

 以上の判断基準に基づいてCAFCは、本件におけるIPR請願書の主張についてのPTABの決定に際して、PTABは裁量権を濫用していないと判断しました。また、PTABが、IPR請願書の記載から明らかに読み取れる内容を超えて、請願人の主張を推認していないことについて、合理的であると認めました。

(2)PTABによるIPRの最終決定について

 まず最初にCAFCは、Netflix社の控訴理由は、PTABの実体的な分析に異議を唱えるものではなく、単に、「PTABが、Netflix社のIPR請願書で提起されたとされるいくつかの主張に対処しなかったことで、誤りを犯した」という大雑把な主張をしたに過ぎないと指摘しています。

 CAFCが特定したそのような主張の1つは、各特許の独立クレームに含まれる「フィルタリング」というステップ(上記項目「1.(1)」で述べた「ステップ(b)」)に関連しています。CAFC、PTABのいずれもが、Netflix社が、Pyle引例が既存のマニフェストの選択に基づいてフィルタリング要素を教示していると主張したことを認めました。ただし、実体的な判断としては、Pyle引例の既存のマニフェストが「フィルタリング」を教示しているかどうかについては、PTABは否定的でした。

 CAFCが特定したNetflix社のもう1つの主張は、「トップレベルのインデックスファイルを生成」するステップ(上記「ステップ(c)」)の限定に関連しており、Netflix社は、Pyle引例が新しいマニフェストの作成を開示することでその限定を教示していると、IPR請願書で指摘した」という点です。

 PTABは、この主張がNetflix社のIPR請願書に提示されていないと認定し、CAFCもこれに同意しました。

 CAFCの審理においてNetflix社は、この主張を裏付けるため、IPR請願書の記述をいくつか特定し、それに基づいてPyle引例に記載の新しいマニフェストが「トップレベルのインデックスファイルを生成」するという限定をどのように教示しているかを示していると主張しました。

 この主張に対してCAFCは、Pyle引例は新しいマニフェストについて説明しているものの、Netflix社は「Pyle引例はさらに、コンテンツのリクエストに応じてマニフェストファイルをリクエスト側のデバイスに送信することを教示している」という声明を裏付けるために、IPR請願書を引用しているに過ぎず、Pyle引例の新しいマニフェストの記載が本件特許クレームの「トップレベルのインデックスファイルを生成」するという限定を教示することを何ら示すものではないと認定しました。

 その結果CAFCは、PTABがこの記述のみから明らかに読み取れる事項のみを考慮し、引用された記述のみから別の考え方を推認することを拒否したのは合理的であると判断し、PTABの決定を支持しました。

 以上のようにCAFCは、「Pyle引例の新しいマニフェストの記載が本件特許クレームの『トップレベルのインデックスファイルを生成』するという限定を教示する」というNetflix社の主張は、控訴審で初めて主張されたものであって、IPR請願書では主張されていなかったことから、この主張は放棄されたものと認定しました。そして、異議を唱えられた2件の特許は有効であるとするPTABの最終決定を支持しました。

 

3.Dyk判事の反対意見

 CAFCの担当パネルの多数派意見に基づく上記判決に対して、パネルを構成する判事の一人であるDyk判事は、PTABがNetflixが請願書で提起した議論を不当に無視したとして、反対意見を述べています。

 反対意見の中でDyk判事は、Netflixは「Pyle引例の新しいマニフェストの記載」に基づく主張をIPR請願書で適切に提示していたとの考えを示しています。同判事は、PTABによるIPRの決定において、「Pyle引例の新しいマニフェストが『フィルタリング』の限定を満たしていると主張した事実を明確に認めた」と指摘しました。Dyk判事は、この点を強調し、PTABによるIPRの決定は、「Netflix社はIPR請願書において、Pyle引例が『特定のデバイスまたは機能に基づいて作成できる新しいマニフェストファイルの使用を教示している』と主張している」と指摘しました。

 この主張についてDyk判事は、PTABが最終決定書において、Netflixが「Pyle引例に記載の新しいマニフェストの作成が『フィルタリング』を含むこと」、あるいは「Pyle引例の新しい最適化されたマニフェストがフィルタリングをどのように教示しているか」を説明していないと認定し、実体的な判断を行なわなかったことに対して、否定的な見解を示しました。これに関連してDyk判事は、2018年のGoogle v. Conversant Wireless LicensingにおけるCAFCの判決(下記「情報元4」)を参照し、「PTABがIPRの決定において2つの主張を認めているが、実体的判断においては1つの主張のみを取り上げている場合、残りの主張についての実体的判断のために、PTABへの差し戻しが必要である」との考えを表明しました。

 

4.実務上の留意点

(1)本件判決において、PTABは、IPR請願書を解読して、請願書の記載から明確に読み取れる内容を超える主張を見つけ出す必要はなく、IPR請願書において明確な主張を提示するのは請願人の責任であると指摘されていることから、IPRにおいて実務担当者は、PTABが主張内容を表面的にのみ捉えたり、無視したりする余地がないように、IPR請願書において、主張内容を明確かつ具体的に記載し、主張が曖昧となることを避けるように心掛ける必要があります。

 (2)CAFCは、控訴審で初めて提示され、IPR請願書では記載されていなかった主張について、放棄されたものと認定していることから、控訴審でのそのような権利放棄の認定を避けるために、特許性欠如の主張に関連して、考えられるすべての理由をIPR請願書において提示しておくことが重要です。

[情報元]

1.IP UPDATE (McDermott) “Say Goodbye: Argument Not Presented in IPR Petition Is Waived” (November 2, 2023)

              https://www.ipupdate.com/tag/netflix-inc-v-divx-llc/

 

2.Netflix, Inc. v. DivX, LLC, Case Nos. 22-1203; -1204 (Fed. Cir. Oct. 25, 2023) (Linn, Chen, JJ.) 判決原文

              https://cases.justia.com/federal/appellate-courts/cafc/22-1203/22-1203-2023-10-25.pdf?ts=1698240944

 

3.本件訴訟対象米国特許に対応する日本特許公報(特許第6076347号)

              https://www.j-platpat.inpit.go.jp/gazette_work3/domestic/B/006076000/006076300/006076340/006076347/36922BD179DEE617AF346A42CF04BC7C002C86026754C3FC2B53088B675449C7/JPB%20006076347-000000.pdf

 

4.”Google v. Conversant Wireless Licensing” CAFC判決原文

              https://cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-2456.Opinion.11-20-2018.pdf

 

[担当]深見特許事務所 野田 久登