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自明性判断における「成功の合理的期待」に関するCAFC判決 | 弁理士法人 深見特許事務所

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自明性判断における「成功の合理的期待」に関するCAFC判決

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、先行技術文献を組合せることの動機付け、および、組合せることによりクレームされた発明を導くことの成功の合理的な期待の両方について、実質的な証拠によって裏付けられていると結論付けて、特許審判部(PTAB)による特許性欠如の決定を支持する判決を下しました。

              Elekta Ltd. v. Zap Surgical Systems, Case No. 21-1985 (Fed. Cir. Sept. 21, 2023) (Reyna, Stoll, Stark JJ.)

 

1.自明性判断における「成功の合理的な期待」について

 本件CAFC判決における中心的な争点である、自明性判断に際しての「先行文献を組合せてクレームされた発明を導くことの成功の合理的期待」の補足説明として、以下、米国における自明性の判断手法を判示した2つの連邦最高裁判決(Graham判決およびKSR判決)の関連する判示事項に言及します。これらの判示事項は、MPEP(米国特許審査便覧)2141に反映されていますので、詳細については、下記「情報元4」p.345-p.353をご参照下さい。

 米国特許法第103条(a)に規定する発明の自明性の判断に関し、連邦最高裁判所は、自明性の法律の原則として、KSR判決において、Graham判決で示された自明性を判断するためのよく知られた枠組み((A)先行技術の範囲と内容を確認すること、(B)クレーム発明と先行技術との違いを確認すること、(C)当該技術分野の当業者のレベルを決定すること、(D)商業的成功等の二次的考慮事項)を再認識し、教示(teaching)、示唆(suggestion)、動機付け(motivation)の有無を調べるTSMテストが自明性判断の有効な理論的根拠であることを認めています。またKSR判決において連邦最高裁判所は、「自明性による拒絶は、法的結論を裏付ける何らかの合理的で明瞭な根拠を必要とする」と述べ、自明性の結論を裏付け得る7項の例示的根拠を示しました。そのうちの1つとして、「改良の試みが自明であること(obvious to try)」、すなわち、クレームされた発明が、成功が合理的に期待できる状況において、予測可能な有限の解決手段の中から選択されたものに過ぎないことを挙げています。

 

2.事件の背景

 Elekta Ltd.(以下「Elekta社」)は、「電離放射線による治療のための方法および装置」に関する特許(米国特許第7,295,648号)を所有しています。この特許のクレーム1に記載の発明は、同心円リングに取り付けられた線形加速器(linac)などの放射線源を使用して、患者の標的領域に電離放射線のビームを投射することにより、患者を治療する装置に関しています。

 Zap Surgical Systems (以下「Zap社」)は、当事者系レビュー(IPR)の請願書を提出し、その中で、当該特許クレームに記載の発明は自明であるとして異議を唱えました。具体的には、Zap社は、次の3件の引用文献の開示の組合せにより、本件特許発明は自明であると主張しました。

 Grady引例:X線画像を撮影するために患者の周りを回転する、スライドに取り付けられたX線管を開示しています。

 Ruchala引例:ヘリカルCTを応用した放射線治療装置によって360度方向から腫瘍を照射する、線形加速器を用いたトモセラピー治療システムを開示しています。このシステムでは、CTスキャナーのように、患者は静止したままですが、線形加速器と検出器は患者の周りを回転して治療を行います。

 Winter引例:請願書での主張において背景技術として引用された文献であって、治療のためにターゲットを照射して使用される、撮像のための放射エネルギーを使用した診断用CTスキャナを開示しています。

 IPRにおいてElekta社は、Grady引例の撮像装置とRuchala引例の放射線装置とを組合せることを当業者が動機付けられなかったと主張して、Zap社の異議に反論しました。

 しかしながら最終書面による決定において、PTABは、Elakta社の主張を受け入れることなく、Zap社の主張に同意し、当業者はZap社が申し立てた先行技術文献を組合せるように動機付けられたと結論付けました。それに対してElekta社はCAFCに控訴しました。

 なお、問題となった特許クレーム1は、米国特許第7,295,648号に対応する日本特許第607119号(下記「情報元5」)の請求項1(下記「注1」)に記載の発明と同一です。また、米国特許の開示内容も、対応の日本特許公報の開示と実質的に同一です。

注1.本件米国特許に対応する日本特許第607119号(下記「情報元5」)の請求項1

【請求項1】

 その上にマウントが設けられたリング形支持体と、

 マウントに取り付けられた放射線源と

 を備えており、

 支持体は前記リングの中心を通る支持体軸の回りに回転可能であり、

 線源は、前記支持体軸に対して平行でない継手軸の回りに、マウントの周りにおける線源の回転を可能にする継手を介してマウントに取り付けられており、

 前記継手軸は前記支持体軸を通過し、前記放射線源による放射線は、前記継手軸と前記支持体軸との一致点を透過するビームを発生させるように平行化されている

 患者を電離放射線で治療するための装置。

 

3.控訴審におけるElekta社の主張

 Elekta社は控訴審で次の3つの点を主張しました。

 i. 先行技術の組合せの動機に関するPTABの審理結果は、実質的な証拠によって裏付けられていなかったこと。

 ii. PTABは、成功の合理的な期待について(明示的も暗示的にも)事実認定することができなかったこと。

 iii. PTABがそのような事実認定をしたとしても、それらは実質的な証拠によって裏付けられていなかったこと。

 

4.CAFCの判断

 CAFCはまず、放射線画像を開示する先行技術文献と放射線療法を開示する先行技術文献とを組合せる動機の問題を検討しました。CAFCは、Fleming v. Cirrus Design Corp., 28 F.4th

1214, 1223 (Fed. Cir. 2022)を引用して、自明性の決定は、当業者の技術常識を考慮して行われることから、必ずしも先行技術がすべての自明性の組合せに対する動機を明示的に述べている必要はないことを認めました。

 Elekta社は、線形加速器の重量のために先行技術を組合せたとしても物理的に実施不可能であるとの主張に基づいて、Zap社が主張する先行文献の組合せに異議を唱えていました。しかし、PTABは、「重い装置を回転操作できる頑丈な機械装置の工学設計を含む」という本件特許発明に関連する分野の定義に加えて、この種の技術分野の技術レベルの高さを主な理由として、Elekta社の主張を認めていませんでした。

 CAFCは、PTABの先行技術の組合せの動機付けの認定は、審査経過、先行技術文献の教示、および記録された専門家の宣誓証言を含む実質的な証拠によって裏付けられていると判断しました。

 次に、CAFCは、PTABが「成功の合理的な期待」に関する事実認定を明確にしなかったために誤りを犯したというElekta社の主張を検討しました。CAFCは、「自明性の判断には、当業者が成功の合理的な期待を持っていたであろうことを見出す必要がある」と説明し、「クレームされた発明の限定を導くために先行技術文献を組合せることに成功する可能性」に言及しました。しかしながらCAFCは、他のCAFC判決を引用して、KSR判決の下で、明示的な分析でなければならない先行文献を組合せる動機付けの決定とは異なり、成功の合理的な期待の認定は暗示的である可能性があると結論付けました。

 CAFCは、この結論が、基礎となる事実認定と理論的解釈を含む説明をPTABに対して求める米国連邦行政手続法(APA)に基づくPTABの決定についてのCAFCの判断(下記「注2」参照)と対立しているように見えることを認めましたが、「PTABが、先行技術文献を組合せる動機に関するものを含む他の絡み合った議論を検討し、対処することによって、成功の合理的な期待について暗示的に認定する場合に、そのような対立は生じない」と結論付けました。

 注2.CAFCはPackard Press, Inc. v. Hewlett-Packard Co., 227 F.3d 1352, 1357 (Fed. Cir. 2000)において、「APAは、審判部に、基礎となる事実認定とその決定の根拠を十分に正確に説明することを義務付けている」と判示しています。

 最後に、CAFCは、「PTABが成功の合理的な期待について暗示的に認定したとしても、それを裏付ける実質的な証拠はない」というElekta社の主張を検討しました。CAFCはElekta社の主張を却下し、この場合、先行技術を組合せる動機を立証する証拠は成功の合理的な期待をも立証していると認定し、PTABの決定を支持する判決を下しました。

[情報元]

1.IP UPDATE (McDermott Will & Emery) “No Need To Be Explicit: Implicit Finding of Expectation of Success Is Sufficient” (October 5, 2023)

              https://www.jdsupra.com/legalnews/no-need-to-be-explicit-implicit-finding-6930743/

 

2.Elekta Ltd. v. Zap Surgical Systems, Case No. 21-1985 (Fed. Cir. Sept. 21, 2023) 判決原文

              https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-1985.OPINION.9-21-2023_2193832.pdf

 

3.「KSR 事件連邦最高裁判決を踏まえた,米国特許法103条に規定する非自明性の判断基準に関する米国特許商標庁の審査指針の概要及び本審査指針を踏まえた実務」パテント2008, Vol. 61 No. 4

              https://jpaa-patent.info/patents_files_old/200804/jpaapatent200804_087-105.pdf

 

4.アメリカ合衆国特許審査便覧(MPEP)第2100章 特許性 第10版2020年6月25日施行(日本特許庁ホームページ「諸外国・地域・機関の制度概要および法令条約等」より)

              https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/usa-shinsa_binran2100.pdf

              (MPEP2141は第2100章のp.345-p.363)

 

5.米国特許第7,295,648号に対応する日本特許第607119号の特許公報

              https://www.j-platpat.inpit.go.jp/gazette_work3/domestic/B/004607000/004607100/004607110/004607119/639639801196B2D2903A267654A8FFC6687C30B03B2C333B454CA7DBF8731950/JPB%20004607119-000000.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登