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韓国の最近成立した特許・実用新案の制度改正法案の紹介

 2023年度に、韓国の特許・実用新案の制度改正に関して、「特許審判に関する制度の改正」(2023年7月1日施行)、「優先審査対象の一部縮小および存続期間延長規定の改正」(2024年1月1日施行予定)、「審判請求職権補正及び審判参考人制度の新設」(2024月3月15日施行予定)の3つの法案が相次いで成立しました。

 以下、成立した順に、各法案の概要を紹介します。

 

1.特許審判に関する制度の改正

 韓国特許審判院の審判事務取扱規定が改正され、2023年7月1日から施行されました。以下、下記「情報元1.(1),(2)」に基づいて、主な改正項目の概要を紹介します。

(1)特許審判の審決日予告制の導入

 韓国特許法第162条には、「審判長は、特許審判の事件が審決をする程度に熟したときは、審理の終結を当事者に通知しなければならず、審決は、審理終結の通知をした日から20日以内にしなければならない。」と規定されています。

 従来は、審理終結通知書に審理終結事実のみが通知されたので、審判結果が知りたい審判当事者は、審理終結通知を受け取った後、審決が出たか否かを引き続き確認しなければならないという不便がありました。このような不便を解消すべく、当事者に審理終結通知をする際に審決予定日も一緒に案内するように審判手続が改正されました。また、審決予定日が変更される場合は、審決予定日変更案内通知書が発せられます。

(2)当事者系事件に対する口頭審理の原則的開催の明文化

 従来は、当事者系事件に対して口頭審理の開催可否を当事者の申請又は審判長の職権で審判部が決定するようにしていたため、口頭審理の開催可否が不明確でした。改正された審判事務取扱規定では、当事者系事件に対する口頭審理の原則的開催を明確にし、口頭審理を開催しない例外的な事件を以下に限定しました。

 (i) 審判請求書の謄本送達後に答弁書が提出されない事件

 (ii) 口頭審理期日前に審判請求の取下げ又は却下等の理由で審理終結が予定された事件

 (iii) 当事者が提出した書類のみで事実認定及び判断が容易であると認められた事件

(3)口頭審理の期日変更基準の具体化

 従来は、決定された口頭審理の期日変更の申請理由に制限がなく、期日変更が頻繁に発生していました。このような問題を解消すべく、両当事者の合意があるか他の法院期日と競合する場合のように、顕著な理由がある場合に限り口頭審理の期日変更を許容するように審判手続が改正されました。

(4)迅速・優先審判制度の見直し

 従来は、迅速・優先審判の対象が複数の規定に散在し、比較的緊急性の低い事件まで迅速・優先審判の対象に含まれていたため、一般審判の処理期間が遅れるという問題が生じました。今回の改正により、類似している迅速・優先審判の対象が統合され、緊急性の低い事件は迅速・優先審判の対象から除外されました。

(5)優先審判

 改正された審判事務取扱規定による優先審判の対象となる審判を、18項目に分けて類型化するとともに、審判長の職権で優先審判を認めることができる審判と、当事者が優先審判を申請することができる審判とに分類して列挙しています。詳細は下記「情報元1.(1)」をご参照下さい。

(6)迅速審判

 改正された審判事務取扱規定によると、以下の審判事件の場合、当事者は迅速審判を申請することができます。

 (i) 法院に係属中の訴訟事件、貿易委員会が通報した不公正貿易行為調査事件、警察・検察に立件されて捜査中の事件に係る審判、及び権利者から警告状などを受けた当事者が請求した権利範囲確認審判、無効審判、取消審判

 (ii) 無効審判の審決取消訴訟が係属中の訂正審判

 

2.優先審査対象の一部縮小および存続期間延長規定の改正(下記「情報元2」より)

 韓国特許庁は、特許法・実用新案法施行令改正案を2023年8月24日付で公表しました。2024年1月1日に施行されるものと見られる本施行令改正案では、次の2つの事項が改正されています。

(1)優先審査対象の縮小

 韓国ではPPH、第三者実施、出願人実施を含む様々な事由に基づいて優先審査申請をすることができます。特に現行の韓国特許法・実用新案法施行令によれば、韓国特許庁が指定した専門機関によって実施された先行技術調査結果を添付して優先審査申請をすることが可能です。しかし、今回の改正案ではこのような先行技術調査結果に基づく優先審査申請を申請理由から除く予定です。因みに、海外出願人はPPHに基づく優先審査申請を利用すれば良いので、今回の改正が及ぼす影響は限定的であるものとみられます。

(2)存続期間延長(PTA)の計算時に除外される出願人による遅延期間の拡大

 韓国では特許・実用新案の出願日から4年と出願審査請求日から3年のうちの遅い日(延長基準日)よりも遅延して特許権・実用新案権の設定登録がなされた場合に、その遅延した期間分、当該特許権の存続期間延長を申請することができます。ただし、特許庁からの各種の通知書に対する対応期間、出願人の申請によって延長された期間など、出願人により遅延した期間は延長可能期間から除外されます。下記「情報元2」では、①特許決定後の再審査や拒絶決定に対する不服審判を経ることなく設定登録された場合、②特許決定後3か月以内に再審査が請求された場合、および、③拒絶決定後3か月以内に不服審判が請求された場合の3通りついて、色分けした矢印により表示したタイムチャートを用いて説明されています。上記②および③の場合は、今回の改正により新たに追加される予定の項目です。

 このような改正を考慮するとき、自分の出願がPTA申請対象になると予想される場合、PTA期間を出来る限り長く認められるためには、可及的早期に再審査又は不服審判を請求した方が有利であるものとみられます。

 

3.審判請求職権補正及び審判参考人制度の新設(下記「情報元3.(1),(2)」より)

 特許及び実用新案に係る審判請求職権補正制度及び審判参考人制度を新たに導入する改正法案が、国会本会議を通過し、9月14日付で公布されました。2024月3月15日に施行される予定であり、審判参考人制度は、施行日に特許審判院に係属中の審判事件についても適用されます。

 本改正法の主な内容は以下のとおりです。

(1)審判請求職権補正制度

 現行の韓国特許法第141条では、審判請求書の軽微かつ明確な欠陥であっても審判長が職権で補正できず、一定の期間を定めて審判請求人が直接補正するようにしているため、不必要に審判が遅れることがあり、審判請求人が補正しない場合には審判請求が却下されるおそれがあります。

 これに対して、審判請求における補正すべき事項が軽微かつ明確な場合には、審判長が職権で補正できるように改正されます(韓国特許法第141条第1項ただし書及び第4項~第7項新設)。

(2)審判参考人制度

 現行の韓国特許法は、特許審判において「利害関係人」のみ審判請求又は審判参加ができるように規定しており、審判の過程で、当事者や利害関係人ではない公共団体等の第三者から審判に関する「公衆意見」を聴取できる手続がないという問題があります。

 これに対して、審判長は、産業に及ぼす影響等を考慮して事件審理に必要であると認める場合には、公共団体、その他参考人に審判事件に関する意見書を提出させることができるようにし、国家機関および地方自治団体は公益と関連した事項について特許審判院に審判事件に関する意見書を提出できるように改正されます(韓国特許法第154条の3新設)。

[情報元]

1.(1)FIRSTLAW IP NEWS_September 2023 「特許審判に関する制度の改正」

  (2)ジェトロ知的財産ニュース「審決日予告制等審判当事者の利便性向上、7月から制度施行」(2023年7月4日)

              https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/ipnews/2023/230704a.html

 

2.Lee International[Korea IP News Alerts] 「優先審査対象の一部縮小および存続期間延長規定の改正」(2023年9月1日)

              https://www.leeinternational.com/material/Notice_JP20230901.pdf

 

3.(1)Kim&Chang [IP Legal Update] 「審判請求職権補正及び審判参考人制度が新設」(2023年9月15日)

  (2)ジェトロ知的財産情報「【公布】特許法の一部改正法律(法律第19714号)」2023年09月14日

              https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/law_amendments/2023/230914d.html

[担当]深見特許事務所 野田 久登