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韓国における先端技術の保護に関する最近の国家的取組みの紹介

 以下の項目1で詳細に紹介する「国家先端戦略産業の競争力の強化および保護に関する特別措置法」(2022年8月4日施行)の第1条には、同法の目的として、「国家先端戦略産業の革新サプライチェーンの造成と技術力の強化を通じて、産業の持続可能な成長基盤を構築することにより、国家・経済安全保障と国民経済の発展に資すること」と規定されています。この法律の制定を起点として、韓国では、同法の目的に沿って、先端技術の技術者や産業の育成、保護等に関し、国家的な取組みが相次いでなされています。そのような取組みの概要を、韓国からのサーキュラー等の記事に基づいて、以下に概ね時系列的に紹介します。

1.国家先端戦略産業の競争力の強化・保護のための特別措置法の制定

(下記「情報元1」より)

 韓国経済と国家安全保障にとって重要な技術を支援・育成するため、韓国は「国家先端技術産業の競争力強化・保護のための特別措置法」(以下「特措法」)を制定し、2022年8月4日に施行しました。同法の第1条に規定する上記目的達成のため、「国家先端戦略技術」指定による輸出承認などを行なうほか、「戦略産業特化団地」や戦略産業専門人材を育成するための「特化大学」整備による国内の重要技術の保護を図ります。

 この国家先端戦略産業法に基づいて、2022年11月に国家先端戦略産業委員会開催され、半導体、二次電池、ディスプレイに関する15技術が国家先端戦略技術に指定されました。

 (1)特措法の対象

 この特措法は、以下の技術を対象としています。

 (i) サプライチェーンの安定化など国家および経済の安全保障、輸出や雇用などの国民経済に重大な影響を与える技術、

 (ii) 成長の可能性がある技術、および

 (iii) 半導体、ディスプレイ、二次電池、バイオ産業を含む関連産業への波及効果が大きい、国家先端技術戦略技術(National High-Tech Strategic Technology:以下「NHST」)。

 NHSTの研究、開発、商業化を行なう企業は、政府からの給付金と特別支援を受けられます。ただし、NHSTを保有する企業には、以下の項目(2)、(3)で述べる、NHSTを保護するための厳しい要件と、NHSTを輸出する際の追加規制が適用されます。

 (2)特措法に基づく規制

 特措法に従いNHSTは、輸出およびび海外M&Aについて、以下のような規制の対象となります。

 NHSTの保有者は、(i) 販売、譲渡、またはその他の手段によって技術を外国企業に輸出する場合、または、(ii)海外での買収、合併、合弁事業などを進める場合、通商産業エネルギー部(「部」は日本の「省」に相当)の承認を得る必要があります。NHSTに含まれる知的財産権を国外に譲渡すること、またはかかる知的財産権のライセンスを外国企業に付与すること、裁判所または国際貿易委員会での法的手続き(例:特許侵害訴訟)を目的としてかかる技術に関連する資料を海外に転送すること、または、クラウドサービス(インターネット経由で誰もが自由に利用できるサービス)に保存されているそのようなテクノロジーへの外国企業のアクセスを許可することはすべて、特措法の目的では「輸出」に該当する可能性があります。

 (3)特措法に基づく保護対策

 特措法は、NHST保有者に対し、

 (i) 立ち入り管理の対象となる保護区域の指定、出入口での所持品の検査、および、

 (ii) 取り扱い従業員の移動の把握など、NHSTの漏洩を防止するための保護措置を講じるとともに、NHSTに従事する従業員と秘密保持契約を締結していることを義務付けています。

 

2.半導体特許出願に対する優遇措置の施行(下記「情報元2」より)

(1)半導体関連特許出願を優先審査対象に追加

 2022年11月1日付で韓国特許庁は、優先審査に対する特許法施行令第9条の改正により、「半導体など国民経済及び国の競争力強化に重要な先端技術に係る特許出願」を優先審査の対象に追加しました(特許法施行令第9条第1項第2号の3)。

 この改正によれば、半導体特許出願の優先審査は2022年11月1日から2023年10月31日までに優先審査申請された出願に対して時限的に施行し、その後優先審査制度を延長するか否かが検討される予定です。

 優先審査の対象は、半導体技術と直接関連する出願であることともに、次の基準を満たす必要があります。

 (i)CPC(Cooperative Patent Classification)システムによって半導体関連特許分類(H01L(半導体素子、製造)、G11C(半導体装置関連回路(駆動))等の11分類、)が主分類として付与された出願であること。

 (ii)半導体関連製品・装置等を韓国内で生産するか生産準備中の企業の出願、半導体技術関連国家研究開発事業の結果物に関する出願、又は「国家先端戦略産業の競争力強化及び保護に関する特別措置法」に基づく半導体特性化大学又は大学院の出願であること。

 韓国で開発又は製造される半導体技術分野の特許出願に対して優先審査を申請する場合、平均2.5ヶ月で特許審査結果を受けることができ、これは以前に比べて約10ヶ月早くなると言われています。

 韓国特許庁は、半導体関連特許出願を優先審査対象に追加し、半導体関連特許出願専任の審査組織を設立することで、審査期間の短縮及び審査品質の向上を期待しています。

(2)半導体審査推進団の設置と運営開始

 2023年4月11日、韓国特許庁は半導体技術だけを専門に審査する「半導体審査推進団(以下、「推進団」)」を設置しました。この推進団は半導体の設計から素材、部品、工程に至るまで半導体技術の全分野に対する特許出願を専任で審査を担当する部署であり、2023年4月11日付で運営を開始しました。

 

3.韓国首都圏に世界最大の「半導体クラスター」建設を発表(下記「情報元3」より)

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は3月15日の第14回非常経済・民生会議で、300兆ウォン(約31兆円)の大規模民間投資を基に、首都圏に世界最大規模となる半導体クラスター(半導体関連の生産施設や産業団地の集積地)を造成する計画を発表しました。計150社以上の国内外の素材・部品・装置メーカー等を誘致し、半導体のシステムLSIのメガクラスターを育成するとのことです。

 国家先端産業を育成するための中核をなす半導体クラスターとして、サムスン電子が主体となって投資する「先端非メモリー半導体クラスター」があります。

 

4.国家先端産業団地候補地の選定(下記「情報元4」より)

 韓国大統領府はさらに上記の「第14回非常経済・民生会議」において、(1)「国家先端産業育成戦略」に基づく6つの核心的課題および半導体、ディスプレー、二次電池、バイオ、未来自動車、ロボットなどの先端産業別育成戦略、および(2)「国家先端産業ベルト造成計画」に基づく15カ所の国家先端産業団地の候補地を発表しました。

 「国家先端産業団地」は、半導体、自動車、宇宙、原発などの未来の先端産業の育成のため、4,000万平方メートルを超える規模の工業団地を構築し、企業の投資を全面的に支援するものです。

 

5.「産業技術漏洩防止及び保護に関する法律」改正案を発表(下記「情報元5」より)

 通商産業エネルギー部(「部」は日本の省に相当)は2023年5月30日、第43回産業技術保護委員会を開催し、「産業技術漏洩防止及び保護に関する法律」(以下「産業技術法」)の改正案を発表しました。修正草案は、輸出規制の対象となる国家基幹技術をより適切に管理するために産業技術法の適用範囲を拡大することを目指しており、リスクの低い国家基幹技術の輸出審査プロセスを簡素化し、そのようなテクノロジーを共有または開示する必要がある企業の負担を軽減するための、次のような変更案が含まれています。

 (1)産業技術法のより広い適用

 修正草案は産業技術法の適用範囲を拡大するとともに、これまで生じていたいくつかのグレーゾーンを明確にしています。

 一例として、「技術輸出」について、従来から特許権の譲渡または独占的ライセンスの許諾」をカバーしていましたが、修正案では以下をカバーすることを明確化しています。

 ・韓国人から外国人への国内での移転

 ・海外に移転した技術の他者への再移転

 (2)特定の国家基幹技術の輸出のための審査手続きの簡素化案

 通商産業エネルギー部はまた、特定の低リスク国家基幹技術を輸出する際の審査プロセスを簡素化し、輸出する必要がある企業の負担を軽減することも目指しています。関連する通商産業エネルギー部の通知(産業技術保護ガイド)は、2023年7月までに次の内容を含むように修正されました。

 ・完成医薬品の海外承認に係る年次一括審査制度:海外承認を目的として完成医薬品の技術を輸出する場合、海外承認に必要な技術資料については、毎年、事前に一括承認を受けることができ、輸出審査期間が短縮されます。

 ・海外子会社との共同研究に対する年次一括審査制度:国内機関と海外子会社または国内機関の100%出資機関との共同研究開発の場合、審査期間の短縮を図るため、共同研究開発プロジェクトを毎年事前に一括承認を行なう場合があります。

 ・海外の特許紛争における証拠開示に応じた輸出の書面審査:海外の特許紛争により文書の開示が必要な技術資料を海外へ持ち出す場合、書面による審査のみを要求することで審査期間が短縮される可能性があります。

 ・非独占的ライセンスに基づく技術等の輸出について

 非独占的ライセンスに基づく技術の輸出や、特許出願で開示済みの技術情報のみの譲渡は輸出審査の対象外となります。

 

6.第1次国家先端戦略技術育成基本計画発表(下記「情報元6」より)

 韓国政府は、2023年5月26日に開催された第2回国家先端戦略産業委員会で、2022年8月の国家先端戦略産業法の施行(上記項目1参照)以来、初めてとなる「第1次国家先端戦略産業育成基本計画」を発表しました。

 政府は、2022年11月に国家先端戦略産業に指定した半導体、ディスプレー、二次電池に加えて、バイオを加えた4つの先端戦略産業における17種類の技術を国家先端戦略技術に指定しました。具体的には、2027年までの主要な目標として、以下の項目を掲げています。

 (i)550兆ウォン(約60兆5,000億円)以上の民間投資達成のため支援強化。

 (ii)産業ごとのクラスターやエコシステム形成に向けた「特化団地」の造成。

 (iii)産業界が必要とする人材を育成・確保するための「特性化大学院」の創設、および、先端素材・部品・装置分野における一流企業の育成。

 (iv)今後、国家先端戦略産業に未来自動車、ロボットなどの追加を検討。

 

[情報元]

1.Kim & Chang Legal Updates “Korea Announces Selection of National High-Tech Strategic Technologies”(June 23, 2023)

 

2.FIRSTLAW IP NEWS_June 2023「半導体出願に対する優遇措置の施行」

 

3.聯合ニュースより「韓国首都圏に世界最大規模の半導体クラスター造成へ 31兆円投じ」(2023年3月15日)       https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2023/03/15/2023031580095.html

 

4.ジェトロビジネス短信「韓国政府、15カ所の国家先端産業団地候補地を選定」(2023年3月23日)              https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/d0ca46b80e930560.html

 

5.Kim&Chang [IP Legal Update] “Korea Announces Draft Amendment to Industrial Technology Act to Broaden and Simplify Regulation of National Core Technologies” July 7, 2023

 

6.ジェトロビジネス短信「国家先端戦略技術育成基本計画発表、半導体・二次電池の支援強化」(2023年6月2日)              https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/06/d0c337a9c1482f8d.html

[担当]深見特許事務所 野田 久登