知財論趣

不二家事件に学ぶ

筆者:弁理士 深見 久郎

-知的財産業務での期限の意識-

(1) 最近洋菓子の不二家が菓子の製造に消費期限切れ、賞味期限切れの原料を使用したことが発覚し、一部製品の販売が休止され、またその後さらに一部製品の消費期限を社内基準より1日長く表示したことも発覚した。不二家の製品の場合、期限切れは傷みやすい食べ物で生じたことから、社会的に大きい批判を受け、不二家は今企業存亡の瀬戸際にある。
期限切れ原料の使用の類似の事件として、2000年に約13,000人の被害者が現実に発生した雪印乳業の食中毒事件がある。
これらの事件は、食品業界では業務の性質上期限が成果物の品質に重大に関り、期限を厳守しないことが食品衛生法に違反することに加えて、顧客(消費者)の反発となり、ひいては企業の存亡に関わることを教えている。

(2) 翻って、弁理士業務は顧客の知的財産面の利益を保護する業務であるが、それは知的財産法務事務の委任業務であり、善良な管理者の注意義務をもって遂行することが至上命令である。
そして弁理士業務は性質上また法律上早期の知的財産の保護、先願主義、法定(指定)期間主義の要請に基づくから、多くの弁理士業務は「誠実・迅速な遂行」が前提となり、「出願は他社に負けないように、中間は(できるだけ延長に頼らず)期間内に可及的迅速に遂行する」ことが要請される。

(3) したがって、自ずから出願については「依頼から所定日程内」、中間については「所定期間内」の提出が弁理士業務での至上命令で、これを徒過すると知的財産権の喪失または品質低下の可能性の責任を生じる。もし期限徒過による権利の喪失、権利の品質低下が生じれば顧客はそれにより生じる損害について委任業務の債務不履行、善管注意義務違反として特許事務所を訴えることすら起こり得る。それ以前に業界においてそのような事態が話題となることで、特許事務所の信用は著しく損なわれる。そのときは事務所は存亡の瀬戸際に立つ。

(4) 結局、不二家や雪印も特許事務所も業務の進行において期限に関わる業務部分を含み、期限を誠実に守らない限り成果物の品質、得喪に関わり、顧客から損害賠償請求を受けるばかりでなく、社会的批難の的となり、事業体の信用を喪失し事業体の存亡に関わる点において共通する。
雪印、不二家での消費者としての顧客の痛みの感じを、特許事務所での出願人としての顧客の痛みとして比喩的に感じることで、知的財産業務における期限管理に生かし、事務所の業務の進行の遅れの解消に努めたいものである。