知財論趣

パラリーガルという法律事務専門家

筆者:弁理士 石井 正

医療専門家集団
 病院に行くと、医者の他にさまざまな専門家が活躍しています。看護師は当然として、X線技術者、CTあるいはMRIの専門家、薬剤師、理学療法士、介護補助者、さらには社会保険の相談に関わる者等々。ともかく現代の医療は医者一人が治療に専念するのではなしに、専門家集団が組織的に対応することが常識になってきています。見方を変えれば、医師を支える組織力が医療の水準と効率を決定していると言って過言ではないのです。そうした医師を支える専門家達をパラ・メディカル・エキスパートと称することもあります。

米国の法律事務所
 米国の法律事務所を訪ねると、弁護士とともに法律事務にながく携わっているとみられる事務専門家が同席することが多いですね。時にはセクレタリーのように見える場合もありますし、時にはかなりしっかりした法律専門家のような印象を受ける場合もあります。多くは女性で、きちんと誇りを持ってそれぞれの業務を成し遂げていく姿を見出せます。なにしろ弁護士と打ち合わせる時でも、契約書を作成する時でも、そうした女性が必要な書類のほとんどを作成し、最終的に弁護士がチェックし、サインするのです。彼女達のような法律事務専門家をパラリーガルと称します。
 1960年代に米国では法律事務所に勤務する事務専門家やセクレタリー達の業務について評価・見直しがされました。弁護士でないにもかかわらず法律事務を行い得る範囲は何かという問題と、実際に行われている業務実態、また逆に専門的業務を行っている割には評価が低いのではないかという批判もありました。各法律事務所ともこうした法律事務専門家に業務のかなりの部分を依存しているという現実があったのです。

米国法曹協会の対応
 1968年に米国法曹協会(ABA)が「弁護士のための非法律家アシスタントの特別委員会」を組織し、弁護士とともに業務をする非法律家の実態調査と将来のあり方を検討しました。特別委員会の目的は二つあって、弁護士が弁護士資格を持たない者をいかに効果的に利用できるかという調査であり、もう一つがパラリーガル教育のために必要な教育条件および基準を明らかにすることでありました。ABAのこうした動きをみて、連邦政府は1972年に国立パラリーガル研究所(National Paralegal Institute)を設立したのです。弁護士団体も政府も現実に機能している法律事務専門家の業務を正式に認知するとともに、その教育体制をきちんと整備していく必要性を認めたわけです。

大学の対応
 1970年代はじめからいくつかの大学がパラリーガル育成のためのコースを用意しました。1972年にはABAはパラリーガル養成のための教育プログラムの基準を開発し、これを受けて各大学が一斉にパラリーガル育成コースを設置していったのです。現在では全米でパラリーガル育成コースを供給する教育機関は600を越すようです。このうち130校はABAが正式に基準を満たすものとして認定されています。例えばインターネットでパラリーガル(paralegal)で検索すると、ただちにパラリーガル育成コースを持つ全米の大学のホームページが出てきます。 現在、米国には二つのパラリーガル全国組織が活動していて、一つは全米パラリーガル協会連盟(NFPA)であり、もう一つが全米リーガル・アシスタント協会(NALA)です。

日本の状況は
 これに比べて、我が国ではこうした法律事務専門家の組織化、あるいは教育システムが未整備な状態にあります。我が国に多数ある法律事務所はただ必要に応じて時には秘書、あるいは事務係りを採用するだけで、長くそうした仕事に従事したからといって外部から評価されることもなく、もちろん客観的な評価システムも、またそのための教育システムもないという状況です。今後、我が国は行政主導の仕組みから司法主導に仕組みが変わっていくとみられます。言うところの事前調整型から事後調整型への転換です。そうなれば弁護士と法律事務所の果たす役割はますます大きくなっていくに違いありません。その場合に、法律業務を専門的に補助する法律事務専門家をこれまで通りにしていくことが望ましいのか、考えるべき時期に来ているようです。これはまた特許事務所にも同じように言えることでしょう。