知財論趣

海賊党の将来

筆者:弁理士 石井 正

海賊党の登場
 著者や出版社の承諾を得ずに複製出版したような著作権侵害のレコードや著作物を海賊版(pirated edition)としばしば称します。欧州にはこうした海賊版出版を許容し、むしろ応援しようという考えをもつ人々が多くいるようです。海賊版を擁護する、すなわち著作権や特許権を抑制的にするべきであることを基本主張する党が海賊党です。スウェーデンに海賊党が生まれたのは2006年のことで、その後、ドイツ、オーストリア、チェコ、フランス等の欧州各国に誕生していきました。海賊の党というといささかジョークのように聞こえるのですが、実際には真面目で、政治的にもきちんと政策主張をしているようです。

発端はインターネット
 発端はインターネットにおけるファイル共有問題で、スウェーデンでは、2005年に著作権法を改正したのですが、この改正法に基づきリック・ファルクヴィンがファイル共有ソフト開発を理由に当局に逮捕されました。彼はこれを不当逮捕であるとネット上で非難したところ、たちまち賛同者が集まり、翌年、海賊党を結成したというのです。ネット上で情報交換が進み、欧州各国で短期間にブームとなっていったようです。

海賊党の政治ポテンシャル
 それでは海賊党は、実際には政治の場でどれほどの存在感があるのでしょうか。もっとも活発に活動しているドイツでは無視できない程のところまで来ているようです。たとえば2011年のベルリン市議会選挙の得票率をみると、トップが社会民主党の28.3%、緑の党は17.6%、左翼党11.7%に対して、海賊党は第4位の8.9%を占めています。この結果、15人が当選したのです。

著作権に関する主張
 それでは海賊党の知的財産権に関する主張のポイントをみていきましょう。ドイツ海賊党の主張をみていくと、著作権では、さすがに著作権制度全体を廃止せよとの過激なものではありません。まず著作権保護期間は現行の著作者の死後70年は長過ぎるので、これを死後10年に短縮するべきと主張しています。そしてフェア・ユースの範囲を思い切って拡大し、たとえばデジタル分野ではファイル共有やコピーについて弾力的にするべきと主張するのです。インターネットのニュースサイトCNETジャパンをみると、少し古いのですが2009年のスウェーデン海賊党のファルクヴィング党首へのインタビューが掲載されています。そこで彼は、著作権期間は5年で十分であるとし、文化は共有するべきものであって、知識は無料で自由に利用できるものでなければならないと主張しています。

特許に関する主張
 特許については、医薬特許に厳しい批判を展開しています。欧州では製薬企業の利益の80%以上が社会保障等の税金から支払われていること、それが特許権によって確保されていることを厳しく批判するのです。他方、エレクトロニクス分野の特許については、現実の企業間ではクロスライセンスがビジネスの常識として行われていること、これがむしろ新規参入者を排除する可能性があり、競争を制限している可能性があると批判しています。

液体民主主義
 このように知的財産について独自の政策を主張し、それが海賊党という党名にまで及んだわけですが、最近は政治のあり方そのものに独自の思想を提唱しているようです。それは液体民主主義という一見すると随分とユニークな主張なのです。これまでの代議制間接民主主義でもなく、また投票型直接民主主義でもない現代版の民主主義の仕組みであると主張します。そのポイントは、インターネットを活用して、政治のテーマ毎に人々の意見や主張を柔軟に受け止め、人々は各人の意見を理解しつつ、流動的に全体の意思決定をしていく政治の仕組みの事を意味しているようです。はたしてどこまで海賊党の主張が現実化するかはまだまだ見えません。それでもその主張に興味深い内容が含まれていることは確かです。