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知財論趣

知財論趣
創作者と利用者
弁理士 石井 正
  1. 著作権法第113条5項
     東京大学中山名誉教授は論説「著作権法の憂鬱」(パテント2013 Vol.66 No.1)において、デジタル社会における著作権法の問題点、その解決の難しい点等に触れています。確かに著作権法を読んでいると、所々にひどくいびつな法規定の存在することに気付き、筆者自身もそれがどうにも気になることがあります。
     たとえば著作権法の第113条5項の規定がそれです。この規定は、国内頒布を目的に発行した商業用レコードがあったとした場合に、同じそのレコードの製作者が、国外での頒布を目的として商業用レコードを別に発行した場合の規制の規定です。この国外で発行された商業用レコードを別の者がたとえ正規に国外で購入したとしても、これを国内に頒布目的で輸入したり、国内頒布したり、所持してはならないという規定なのです。
  2. 海外廉価盤の輸入問題
     この規定の興味深いことは、商業用レコードの製作者は同一でありながら、国内頒布目的と国外頒布目的の2種のレコードを発行することを前提にしていることであって、同じ製作者の同じ内容のレコードであっても国外頒布目的のレコードは、国内に輸入してはならないということです。
     なぜこうした規定を用意したのでしょうか。それは同じレコードでも国外ではきわめて安く販売している実態があり、国外で安く販売したそのレコードが、高価格設定の国内に逆輸入されたのではレコード製作者としては困る、という事情があるからです。しかしそうした実態があるにしても、著作権法において、こうしたことにまで配慮した規定をわざわざ設ける必要があるのでしょうか。国外で安くレコードを販売するのはあくまでもレコード製作者あるいは会社の都合にすぎないもので、この法改正がされたときから疑問に思っていました。そこまで権利を保護する理由はなぜなのでしょうか。
  3. 著作者の権利の保護
     そこであらためて著作権法の目的について考えてみたいと思います。著作権法第1条では著作者の権利を定め、・・著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする、としています。要するに、著作権法の基本は著作者の権利の保護を図ること、それによって文化の発展に寄与することにあります。著作権の世界では、創作者と利用者ははっきりと分かれます。創作者はあくまでも創作者であって、創作者が同時に利用者となることは少ない。他人の創作物を利用しつつ、創作するということは実際に少ないようです。法はそのうちの創作者の権利と保護をまず考えます。もちろん著作権法も利用者のことを考慮していることは確かで、その第1条の目的規定に「文化的所産の公正な利用に留意しつつ」とありますからただ著作者の権利の保護だけを考えているわけではないということとなります。しかし主眼はあくまでも創作者の権利保護ですから、当然のように制度の議論には創作者や権利者が多く参加することとなり、結果的にみれば法規定のなかにひどくいびつな規定が生まれることもあり得るわけです。海外廉価版の問題もその一つと言えるでしょう。
  4. 創作者と利用者
     知的財産法を見ていくと、特許法と著作権法では大きな違いを見出せます。その一つが、制度に関わる者で、特許法と著作権法では大きく異なるようです。特許の場合で考えてみましょう。発明者はまったく何もない状態から発明を生み出すわけではありません。必ず先行するさまざまな技術知識を前提にして発明を生み出すのが通常です。そしてその多くは他人の発明すなわち特許権を利用した改良発明です。技術は常に技術知識が連鎖しつつ発展していきますから、特許権者は他の特許権の利用者でもあるわけです。特許権者と利用者はほとんどコインの裏腹表の関係にあると言ってよいでしょう。したがって特許法はその目的規定において「発明の保護及び利用を図ることにより」としているわけです。
     これに対して、著作権法では著作者は彼一人の創作活動によって著作物を産み出すと想定します。たとえ先行する他人の著作物を参考としてそのアイデアを利用しても、著作物はその創作的表現に意味がありますから、それは許容されるでしょう。そうであれば著作創作者と著作利用者は全く別の者であり、立場は基本的に異なることとなります。
     特許における法制を議論をする場においては、特許権者ともなる企業の関係者は、常に特許権を保有する立場と、他人の特許権を利用する立場のと、その両方の立場を意識して主張することとなります。極端な特許権の強化は、いつ自分が利用者になったときにのマイナスとして響いてくるかもしれないとを考えざるを得ないからです。このため、特許法のなかに過度な権利保護規定が入り込むことは少なく、バランスの取れた規定となるわけですが、それは創作者と利用者が一体であることの結果ということができるでしょう。残念なことですが、著作権法の場合には、創作者と利用者が別々であって、制度議論には創作者・権利者が関わることが多く、このため制度設計に影響するのではないでしょうか。
  5. 著作権法第113条(侵害とみなす行為)
    第5項 国内において頒布することを目的とする商業用レコード(以下この項において「国内頒布目的商業用レコード」という。)を自ら発行し、又は他の者に発行させている著作権者又は著作隣接権者が、当該国内頒布目的商業用レコードと同一の商業用レコードであつて、専ら国外において頒布することを目的とするもの(以下この項において「国外頒布目的商業用レコード」という。)を国外において自ら発行し、又は他の者に発行させている場合において、情を知つて、当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布する目的をもつて輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもつて所持する行為は、当該国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることにより当該国内頒布目的商業用レコードの発行により当該著作権者又は著作隣接権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限り、それらの著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。ただし、国内において最初に発行された日から起算して七年を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した国内頒布目的商業用レコードと同一の国外頒布 目的商業用レコードを輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもつて所持する行為については、この限りでない。
(平成30年1月4日記)

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