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知財論趣

知財論趣
MOOCと放送大学
弁理士 石井 正
  1. 大学教育とインターネット
     インターネットが活用される時代です。最近ではそれは大学教育にも及んでいて、なかでも米国や欧州の大学がインターネット活用に積極的で、講義をビデオで撮影し、それをインターネットですべて公開するという動きが広がっているようです。米国の大学の費用は極めて高額なだけに、経済的なハードルを下げて、高等教育の機会を拡大するという点からみれば、大歓迎するべき動きと言えるでしょう。講義をネットで公開するとともに、教材などもネットで公開しているようです。
  2. MOOCというインターネット大学教育
     大学の講義をインターネットでビデオ公開する延長線上には、MOOCが登場します。MOOCはMassive Open Online Coursesの略称で、インターネットを活用したオンライン大学教育システムです。日本語で言えば、オンライン大学特別公開コースと言えるでしょうか。正規の大学のカリキュラムにしたがい、講義し、ネットを経由して質疑応答して、受講生の理解度を評価し、最終的には学位までを授与するオンライン大学と言えるでしょう。大学の講座を放送やインターネットを使って広く公開するなどと言うことは、随分昔から実施されていて、いまさら注目されることもあるまいと思われがちです。ところが米国ではこのMOOCが今、注目されているようなのです。何がその注目のポイントなのでしょうか。
  3. 放送大学
     日本では放送大学という組織があって、放送を利用しての大学教育を進め、かなりの規模で学生を確保しているのだから、特にMOOCだからといってあらためて注目されることもあるまいと思われがちです。筆者自身、以前、放送大学で教える経験もしてきているので、日本において推進されてきたテレビメディアを活用した放送大学という仕組みと、米国で注目されているMOOCと、何が本質的な差異なのか、興味深いことでありますし、その本質的な差異を考えてみたいと思います。
     放送大学では、その学生の多くが中高年齢者で、なかには家庭の主婦で、勉強熱心で一度はしっかりと大学で学びたかったと考えている方や、定年間近で、第二の人生を有意義に過ごすために放送大学で勉強したいと願う立派な方が多いようです。もちろん、若くて仕事をしていて大学に通えないので、放送大学で学んでいると言う方もいるでしょうし、あるいは学費が支弁できないという理由から放送大学で学んでいるという学生もいることでしょう。筆者の経験では、全体としてみると真面目に学ぶ学生が多いという印象を持っています。ただ放送大学を卒業することで、さらに次のキャリアを創り出そうとする方は少ないとみています。放送大学では、受講生はただ真面目に勉強するということで終わっているように感じられるのです。しかも情報の伝達に放送を利用するために、講義が一方通行になりやすいのです。質疑応答は難しいわけですし、講義のある段階で受講生がどの程度、その講義内容を理解しているかを確認するということが難しいのです。そのために放送大学では夏期などに集中講義を行う等して、そうした弱点を解決する努力をしています。しかしなかなか問題克服とまでは行かないようです。
  4. MOOCの強いところ
     MOOCでは、大学で学びたくても学費がない、大学に入学できない事情がある若い学生がほとんどのようです。その背景には米国の大学の学費が非常に高額になっていて、年間に300万円とか400万円という高額の負担を強いられている現状があります。MOOCであればそうした経済的負担はありません。しかしこれは放送大学も同じであって、同じように教育費負担問題を解決しています。それでは何がMOOCの価値を決めているのでしょうか。放送大学がその課題としていた質疑応答や講義の一定段階で受講生の理解度を確認するということは、MOOCはインターネットによる双方向通信であるために、かなり解決しています。受講生がしっかりと目的意識をもってインターネット授業に参加している限り、高い水準の講義が実現できるようです。しかもネットでの教育の方法の細部について教え方とその学生の成績との相関を詳細に分析して、教材の構成、教える順序、体系を検討しているようです。受講生は教える側とリアルタイムで情報交換でき、分からないところはその場で質問し、他方、先生も学生に質問したり、指示を与えることもできるそうです。多分、フェースブックのようなものの発展系を想像すればよいのでしょう。
  5. 成績優秀学生の外部接続性
     しかしMOOCにおいてはそれに加えて、さらに決定的なメリットを生み出しているようなのです。それは何でしょうか。MOOCが、その成績の優秀者を外部の組織に接続させるシステムとなっていることで、それが受講生には受講する強いインセンティブとなっているようなのです。成績優秀学生を外部の組織に接続するとは何でしょうか。数年前に、モンゴルの15歳の学生が米国のMOOCで学んでいたのですが、その成績があまりに抜群なので、MOOCが米国のマサチューセッツ工科大学=MITに推薦して、その結果、奨学金付きで入学が許可されたというのです。それだけではありません。MOOCの成績優秀者の情報は外部に公開接続され、これに人材紹介会社が強い関心をもつようなのです。MOOCでしっかり勉強していて、優秀な成績を確保していると、ある日、人材紹介会社から就職の斡旋が行われることがあるというのです。これは受講生が、MOOCでしっかりと学び、際立った成績を得ることで次の大きなキャリアを創り出すことができる可能性を示しています。
     日本の大学では、インターネットによる講義の公開や講義資料の公開を積極的に行っているところも出てきているようで、こうした動きは大歓迎なのですが、成績が際立って優秀な学生を外部に公開接続することにより強いインセンティブを生み出すという大学はまだないようです。成績優秀学生の外部接続には解決しなければならない問題点も多くあるようですし、悪用されかねない面もありそうです。それでも高等教育の重要性と機会確保そして経済負担の解決等を考えると、挑戦に値する課題ではないかと思われます。
(平成29年8月1日記)

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