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知財論趣

知財論趣
異形機開発の才能
弁理士 石井 正
  1. 航空機のデザイン
     形態は機能にしたがうといいます。よいデザインは必ずその要請される機能をしっかりと実現するべく創作されるということなのでしょう。たしかによいデザインの道具、機械等を目にするとその持つ機能もまた自然に理解でき、納得させられることが多いものです。航空機は、形態は機能にしたがう典型例といってよいでしょう。すべては空力設計のなかで、重量を少しでも軽くし、求められる機能をできるだけ盛り込み、ぎりぎりの設計のなかから美しい航空機のデザインが決定されていきます。
     そうであれば航空機のデザインはみな一様になるかといえば、一面ではそうであると言い得るでしょうが、また反面、それほど簡単ではないとも言い得るところが面白いものです。第二次世界大戦中の各国の主力戦闘機、たとえば英国のスピットファイアー、ドイツのメッサーシュミット、そして日本の零戦のデザインは、飛行機に関心がある者であれば、それぞれに何か共通したデザインを感じるのではないでしょうか。戦闘機に求める機能、すなわち高速で、格闘戦に強いための操縦性の高さ、しかもエンジンの能力はおよそ等しいとなれば、その基本的設計要求は本質的には各国共通ですから、結局、そのデザインも似通ってくるということとなるわけです。ところが逆にまったく独創的なデザインの航空機が存在します。これがまことに面白いもので、こうした航空機を異形機とも称します。
  2. 異形機の設計
     まず無尾翼機です。普通ならば主翼があり、胴体があり、尾翼として水平・垂直尾翼があり、こうした形態の航空機が安定的に飛行すると我々は刷り込まれています。ところがその尾翼をなくしても安定的に飛行すると主張し、実際にそれを実現させた技術者がいたのです。ドイツのアレグザンダー・リピッシュでした。彼はグライダー、ピストンエンジン機と設計し、ついに第二次世界大戦中、唯一の無尾翼実戦機であるロケット迎撃機メッサーシュミットMe163を開発しました。この無尾翼機を発展させたものに全翼機があります。胴体と主翼が一体となるデザインであって、ドイツのワルター・ホルテン、ライマー・ホルテンの兄弟が中心となって開発したもので、驚くべきことは、彼ら兄弟が1930年代に全翼グライダーを始めて飛行させた時の年齢がわずかにワルター18歳、ライマー16歳という若さであったことです。
     異形機というと、さらにこの先、空飛ぶ円盤を想起させる円形翼機や前進翼機、先尾翼機、双胴機などまことに多様なデザインの航空機があります。なかでも驚かされるのが、日本にも技術指導に来たことのあるドイツのフォークト博士が設計した非対象機ブローム・ウント・フォスBv141で、主翼の片側、右翼に3座の乗員席をもつ短胴キャビンを置いたものです。これを見た瞬間、まことに異様な印象を受けることでしょう。飛行機は左右が対象であるという強い思い込みがあるからで、それが左右非対称で、はたして空をバランスよく飛べるのだろうかと不安になります。きちんとした計算で、この非対称でも大丈夫との結果を得ています。なぜわざわざ非対称にしたのかと言えば、偵察のためにはこの配置がベストであるとの設計思想によっていたためです。こうした異形機を設計する才能は、普通の才能をはるかに超える何か特別のものがあるのかもしれません。
  3. 異形ドローン
     これまで筆者は、日本にはこうした異形機を開発する豊かな才能を有する天才設計者は存在しないと思っていました。ところがつい最近、こうした考えを大きく変える日本製異形機を発見し、嬉しい驚きを感じる機会がありました。ドローンという小型飛行体のことは既に多くの方々が目にしていることと思われます。4ないし6のプロペラにより安定的に飛行する小型模型機で、それぞれのプロペラの回転速度を制御し、しかも機体全体を超小型ジャイロで姿勢制御するという優れものです。その機体の形状は世界どこでもほぼ同じもので、同じ設計思想から出発すれば、同じ形状になるという見本のようなものでしょう。
     ところが全く設計思想の異なるドローンを目にしました。15センチ×5センチ程度の発泡ポリプロピレンの主翼がただ1枚だけ。そこから2本の小ロッドがでていて、その先に垂直と水平の二つのプロペラがあって、それが回転することで空中に飛び上がり、好む方向に飛行するのです。どう考えてみてもこんな機体が安定して飛ぶとは思えないのですが、それがリモコンで実に安定して飛行制御することができるのです。主翼は非対称回転をするわけですが、それは植物の楓(カエデ)の種の飛行状態を観察した結果なのだそうです。カエデの種は、木から落ちる時にヘリコプターのローターのように回転しながら落ちつつ、しかも揚力を得ているのです。それで風があると空高く飛び上がり、遠くへ飛行することができるようです。このカエデの種の回転=揚力発生をみて、それならば回転は別に小さなプロペラで与えてやればよいと発想した結果だそうです。
     たとえ小型の模型飛行機とはいえ、既存の世界同一形態のドローンから大きくその設計思想を異ならせ、まことにユニークな発想によりカエデ型ドローンを設計し、実際に安定した飛行を実現させた我が国の天才設計者に心から拍手をしたいと感動しました。
(平成29年5月1日記)

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