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知財論趣

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健康診断における検査と効用
弁理士 石井 正
  1. 健康診断におけるPSA検査
     先日、定期健康診断の際にはじめてPSA検査をしました。家人が健康にやたらとうるさく、せっかく健康診断のオプションとしてPSA検査をお願いできるのであれば、是非、検査をお願いするべきである、とこだわった結果です。当方にはそこまでこだわる理由はないのですが、検査自体は血液で判別するようで、ごく簡単なものですから、検査を受けてみようと決めたわけです。
     PSA検査は前立腺から分泌される前立腺特異抗原(PSA)を血液中の濃度から調べるもので、前立腺がんになるとこの濃度が高くなるようです。ただ前立腺がんだけではなく、炎症や肥大でも濃度が高くなるようですが、ともかくこの値をみることで前立腺がんの可能性をチェックできることは確かなのだそうです。結果はごく低い数値で、問題はありませんとのことでした。
  2. 専門家の評価
     検査を受けるか否か、やや躊躇しました。検査自体はただ血液を採取するだけで、その血液を機械で分析するのですから、当方には何の負担もなく、それを躊躇するのはいささか合理性がないのではないかと受け取られそうですが、理由があります。実は、以前読んだ新聞記事が記憶に残っていたからでした。その記事は日本泌尿器科学会セミナーでの発表を伝えたものでした。世界的に権威ある米国医学誌にPSA検査に関する論文が掲載されたこと、その論文によれば欧州においてPSA検査を受けたグループの方が、検査を受けなかったグループに比べて9年後の死亡率が20%低かったというもので、同医学会ではこの論文内容を受けて、全国各自治体に対してPSA検査は有益なのだと、あらためてセミナーで説明したそうです。ただ実際にはそれほど単純ではないようです。同じ医学誌の同じ号に掲載された別の論文が米国でのPSA検査に関する大規模比較試験結果を分析しているのですが、この論文ではPSA検査を受けたグループと受けないグループとの間に死亡率の差はなかったというのです。その両方の詳細は次の通りです。
  3. ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン
     米国の一流医学雑誌であるニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに、2009年の欧州における調査結果が報告されています。そこでは、50〜74歳の患者18万2千人を無作為に2群に分け、検査群は4年に1回PSA検査を実施し、対照群は検査を受けません。9年間経過観察した結果では、前立腺がん発生率は検査群で 8.2%、対照群で4.8%でした。しかし死亡率は検査群の方が対照群より20%ほど低いとのことでした。
     これに対して米国における調査結果は、患者7万6千人を、無作為に3万8千人ずつの2群に分け、検査群は毎年PSA検査を行い、対照群は検査を全く受けません。その条件で7年間経過を追いかけた結果、前立腺がんの患者1万人当たりの発生率は検査群で116人(1.16%)、対照群で95人(0.95%)でしたが、死亡率は検査群では2.0%、対照群で1.7%と、検査群のほうが高かったのです。 この結果、継続的なPSA検査については否定的な結論を出しています。
  4. 検査とその効用
     この欧州と米国の調査の結果を見ていくと、PSA検査を受けて前立腺がんの疑いがあるとされて手術になった場合と、まったくPSA検査を受けずにただ前立腺がおかしいという自覚症状から精密検査を受けて、手術になった場合とでは、最終的な死亡率に本質的な差異はなさそうだと考えられます。そもそも欧州の調査でも、その死亡率の差異はわずかに20%にすぎません。しかも米国の調査では、PSA検査をしたグループの方が逆に死亡率が高いと結論しているのです。前立腺がんは進行の遅いことが多いのだそうです。そうであればPSA検査の数字が悪くなる場合、何らかの自覚症状が出ることも多いだろうし、そうであれば体からの信号で前立腺異常らしいと感じて、受診するでしょう。PSA検査の数値で受診するか、体の異状信号で受診するかの違いであって、その結果、死亡率の差異はあまり大きくないと理解されます。
     ただ体にはあまり顕著な異常がないのに、PSA検査はどうも異常な数値であるという場合もあるから、やはりチャンスがあれば、PSA検査は受けておくべきだろうというのが今回の経験からの結論でした。
(平成29年2月1日記)

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