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知財論趣

知財論趣
欧州特許庁都市四題(1)
弁理士 石井 正
  1. 三極特許庁協力
     1983年から日本、米国、欧州の各特許庁が協力して、データベースの交換、コンピュータ計画の情報交換、特許審査の実務情報交換などの事業を進めてきています。既に30年を超す協力事業で、これが各国特許庁のコンピュータ化の推進、審査実務のハーモナイゼーション、制度自体の改革に大きな貢献をしてきたことは、高く評価できるでしょう。筆者はこの協力事業に直接関わってきただけに、それを評価することは身びいきで、自画自賛であると批判されかねないことなのですが、それでも客観的にみて、まことに有意義で世界の特許制度運営に大きな貢献を果たしてきたことは事実であると考えています。
     この協力を円滑に行うためには日本、米国、欧州の特許庁専門家がお互いに話し合い、情報交換をし、誠実に交渉をしていくことが大事なことで、そのためにしばしば相手国特許庁の設定した会議に出張することが求められます。その会議のために訪れた、そしてさまざまな記憶の残る欧州特許庁の四都市の印象をメモしてみることとしましょう。
  2. ハーグ
     オランダのハーグは、アムステルダムの南、車で1時間もかからない大西洋に面した小さな都市なのですが、ここに欧州特許庁の第1局が所在しています。当時、第1局は、欧州特許庁のサーチ部門であって、しかもコンピュータシステム、データベース作成部門もあり、会議も主としてこのハーグで行われました。10回を超して出張したことを覚えています。オランダの街は美しく、しかも地味であることが好ましいのですが、問題は食です。あきれる程の味音痴ではないかと、第1局のフランス人の局長ミッシェル氏にポロリと言うと、彼は全く同感であるとその後は愚痴の交換となるのでした。旧植民地のインドネシアの食文化が残っているようで、味付けが濃く、しかもやたらと胡椒等の香辛料を使用するようです。したがってハーグ、アムステルダムの日本料理店の味も頂けないということとなります。
     そのハーグでただ一度だけ、食に感激をしました。12月半ばのハーグは底冷えのするまさに冬の街です。寒い夜、小さなフランス料理の店を探し出し、まず御願いしたのが、生牡蠣でした。ただレモンを搾って、そのまま口に放り込む生牡蠣なのですが、これが珠玉の名品でした。理性的な情報は時間とともに記憶が薄れていくのですが、味は人間の官能に係るようで、いまでもこの生牡蠣の味をありありと記憶しているのですから奇妙なものです。
     なお先程の欧州特許庁第1局のミッシェル局長は、筆者の仕事の上でのカウンター・パートでした。会議で東京に来ると、フランス人ですから、当然に日本の食を堪能することとなります。その彼を東京・八丁堀の小生行きつけの店に誘い、天ぷらを数度楽しんだのですが、それを店の職人が今でも思い出し、言及するのです。人と味、懐かしいことです。
  3. ベルリン
     ベルリンの壁が崩壊して後、欧州特許庁はベルリンに支局を設けました。メンバー国ドイツの要請があったのでしょう。ハーグのコンピュータ・システムの責任者はドイツ人であったのですが、ベルリン支局開設とともに彼は支局長として転勤となりました。ハーグでは何度も彼と議論を重ねてきましたから、早速、ベルリン支局を訪問しました。縁をつなぐ、これが日本人の流儀というものです。西ベルリンと東ベルリンのちょうど境にあたる角に支局のビルは立地しているのですが、まことに政治的な高度な配慮であると感心しました。
     1999年は欧州特許庁がホスト国となりました。その年のホスト国は、秋あるいは初冬に長官も出席する三極特許庁首脳会合をセットするのが通例です。欧州特許庁からはベルリンで首脳会合を開催したいと連絡があり、もちろん当方も異議なく賛成したものです。会議の前夜は通常、ホスト国がレセプションをセットしますが、このベルリンでは前夜はオープンにしたいとのことでした。なぜか、その理由はすぐに理解できました。会議の前夜はちょうど、あのベルリンの壁崩壊から満10年だったのです。ブランデンブルグ門においてお祝いの大コンサートが開催されるとのこと。欧州特許庁はそうした情報をかなり前から得て、このタイミングで会議をセットしたのでしょう。
     さて当日、ブランデンブルグ門に急ぐ人々を観察すると、手にはビールの入った大きな紙コップを持ち、もう一つの手にはこれまた大きなソーセージを持っているではありませんか。ウンターデンリンデンにはそうしたビールとソーセージを売る店が並び、賑わっているのです。まことに愉快な気分です。コンサートはベルリンフィルハーモニーを中心に、300名くらいからなる大オーケストラで、ベートーベンの交響曲を数万人の人々が楽しんだのです。もちろんビールとソーセージも一緒に。
(平成27年7月1日記)

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