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知財論趣

知財論趣
天才ニュートンの光と陰
弁理士 石井 正
  1. ニュートンは天才
     物理学の偉人といえばいくらでも列挙することができますが、やはりその一人としてアイザック・ニュートンを挙げるのが常識でしょう。なにしろその成し遂げたことがすごいのです。数学の微積分法を考えだし、物理学では万有引力を中心とした力学の基本を考え、それを体系的にまとめ、さらには反射望遠鏡は発明するし、光についても考え、実際、プリズムを使用して白色光が多くの光から構成されていることを証明したのです。ともかくその業績たるや大変なものです。そのうちの一つを発見してもあるいは発明しても、後世、偉人として評価されるに違いないでしょう。それをまとめて短い期間に成し遂げたのですから、普通の人、すなわち凡人には、到底理解しがたい天才である、としか言いようがない程です。
  2. 王立学会会長
     当然、彼は英国で評価されること、まことに高いものがあり、単なる物理の科学者にとどまらず造幣局長官にもなるし、王立学会の会長には61歳でその地位につき、85歳で死ぬまでの24年間、その会長の地位にあったのです。王立学会の会長職についたのが1703年でしたから、英国の科学は18世紀前半、ニュートンによって指導された、といっても過言ではないでしょう。要するに彼は英国における科学の世界の名誉のすべてを享受していたのです。
  3. 偏執的なニュートン
     ただ彼は変わっていました。ずばり言えば、変人でした。ニュートンには妻子がなく、遺言状も残しませんでした。英国の農家に生まれ、育ち、父は生まれたときには他界していて、母親は3歳のときに再婚し、彼の傍にはいなかったという不幸な生い立ちでした。ただ幸いしたことは、亡き父親が土地を持つ農家であったことで、祖母に育てられたが、高等教育だけは受けることができたことでした。孤独に生きたといえば、これほど孤独に生きた学者も少ないのではないでしょうか。ニュートンが変わっていた、ということは他人に対するときにそれが出たのです。過激なほどの競争心、そしてそれを支える自尊心と偏執的な性格。負けたときには、こんどは後から蹴落とすまでの、いわば陰険な振る舞い。それが発見の先取得権を争うときに醜いまでにでてくるのです。
  4. 先取得権争い
     ニュートンの前の英国王立学会の会長であったフックは弾性の法則で著名ですが、そのほかにも顕微鏡を用いて観察した「ミクログラフィア」や大型望遠鏡の発明など偉大な物理学者でした。ニュートンはそのフックと先取得権についてあきれるほど長く争い、微積分法ではライプニッツとその先取得権を争うというような状況でした。要するに最初に考えたのは誰か、という科学者にとって永遠の名誉につながる問題であり、現代では知的材財産につながる課題でもありました。それにニュートンは偏執狂的にこだわったのです。フックが王立学会の会長をニュートンに譲った後には、ニュートンは積年の恨みを晴らすように、あらゆるところからフックの名誉をはがしていくという有様です。王立学会の歴代会長はその肖像画が飾られますが、フックの肖像画はいつの間にか紛失してしまったのです。ニュートンの指示であったようです。
     初代グリニッジ天文台長のフラムスティードともニュートンは、あいついで現れた二つの彗星について争います。ニュートンは二つの彗星は別のものであると主張し、フラムスティードは天文台長として正確な観察に基づいて、それらは同一の彗星であると主張しました。結果はフラムスティードが正しく、ニュートンもそれを認めるのですが、それは彼の自尊心を傷つけ、その後、ことごとくフラムスティードを叩いていくという醜い有様まで見せました。ニュートン研究家のヴァビロフは「世間を騒がせたフック、ライプニッツ、フラムスティードとの間の紛争のすべてに、ニュートンの病的な自惚れ、怒りっぽさ、権勢欲が現れている」とまで言います。
  5. 錬金術が原因か
     なぜニュートンはそうした性格となったのでしょうか。最近、その原因が少し明らかになってきています。ニュートンは錬金術の研究もしていましたが、この錬金術の研究には水銀がつきものでした。実際、ニュートンが水銀を使っていたことは確かです。どうやら彼はその結果、水銀中毒になったようなのです。水銀中毒では、神経がいらいらし、気分が変わりやすく、わけもなく癇癪を起こすという症状がでてきます。そうした水銀中毒が疑われるというのも、近年、ニュートンの残された毛髪から過量の水銀の蓄積のあったことが検出されたからです。そうであれば水銀中毒にもかかわらず、あれほどの業績を上げたニュートンはさらに評価されなければなりませんね。
     科学における先取得権争いも、また知的財産の争いも、どこかに寛容でバランスのとれた対応が必要なのではないかと、ニュートンの振る舞いをみていくとつくづく考えさせられます。
(平成27年1月5日記)

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