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知財論趣

知財論趣
循環型経済社会としての江戸
弁理士 石井 正
  1. ダイオキシン
     昔は燃えるゴミは庭で燃やしていたものです。ところが最近では、ダイオキシン公害が問題とされることが多く、ゴミを燃やすとこうした化学物質が発生するようで、家人からは庭でのゴミ処理は厳しく禁じられています。このダイオキシンと称する化学物質がどれほどの悪さをするものか、生物にとってどれだけの悪影響をもたらすものか詳しくは知りません。しかし専門家の言によればきわめて微量であって生物にはひどく悪いものであるようです。このダイオキシンは家庭や産業で排出される物を燃やすときに発生するようです。特別の物を燃やすから発生するというのではなしに、普通の物の燃焼によって発生するというからややこしいものですね。
  2. 大量の廃棄物
     現代の社会は途方もない量の廃棄物を産みだし、これを捨てたり、燃焼して処分しています。東京の郊外や少し離れた地方でしばしばこうした産業廃棄物の処分地に出くわすことがあります。ひどいときにはこうした廃棄物を谷地に捨てたり、あるいは野焼きしていたりするのです。こうした廃棄物の処理業者を批判することは容易なのですが、それで問題は解決しません。ことの本質は究極のところ、なぜこれほど大量の廃棄物が発生するのか、廃棄物をリサイクル利用できないのだろうか、という点をしっかりと考えていかなければならないようです。
  3. ゴミのない大都市
     江戸時代はそうした意味からはまことに洗練された社会でした。幕末、海外から日本にきた人々は、当時、世界有数の大規模な、しかも高人口密度の大都市、江戸の町が驚くほどきれいであること、ほとんどごみらしき物がないことに驚いています。江戸の町にごみがなぜ存在しないのかといえば、ごみを回収する職業が立派に存在したからであって、別の表現をするならば、きちんとしたリサイクル経済システムが確立していたからなのです。
  4. 紙屑拾いと紙屑買い
     どんな廃品回収業があったかといえば、まずは現在も存在する紙屑拾いがあります。ただ注意しなければならないことは、紙屑拾いと紙屑買いとは厳密に区別されるべきものであって、前者は落ちている紙屑を拾い、古紙問屋に持っていってその紙屑を買ってもらう業であります。後者はお金を払って古紙を買い取り、古紙問屋に持っていってその紙屑を買ってもらう業です。もちろん古紙問屋は両者を厳密に分けて対応していたのだそうです。使い終わった紙屑を回収するという点では同じではないかと言われそうですが、そこは有料か無料かで、職業の本質は大きく異なっているわけです。
  5. 古着屋・古傘買い・古樽買い
     古着屋は、最近では若い人が関心を持つようですが、普通にはまずお目にかかれないですね。江戸時代では新しい着物を買うなどということはまことにぜいたくなことであって、いわゆる長屋に住む職人たちはほとんど古着を買っていました。傘の古骨買いはその言葉通り、使い古した傘を買い取り、専門の古傘問屋にこれを売り、古傘問屋はこれを修理・再生する店に売るのです。湯屋の木拾いといえばこれは風呂屋がコスト低減のため何でもかんでも、燃えるものはすべて拾ってきて燃やすというところからきたものです。古樽買いも言葉通り、古くなった樽を買い取り、この古樽が再び修理されて使用されるようにしたものです。
  6. 蝋燭の流れ買い
     蝋燭の流れ買いとなると、一体何かと、びっくりしますね。蝋燭を使用するとかなりの量の蝋の滴が流れ出てきますが、これを買い取るというのです。よくそんな職業が成り立つものだと心配してしまうのですが、それなりにうまくやれたのですね。なにしろ当時は蝋燭の蝋は貴重品であったために、流れて出てしまった 蝋をそのまま捨てるのは、それこそ、もったいないことであったのです。ごみ取り、肥汲み、灰買いはなにやら共通するもので、生ごみなどを買い集め肥料としますし、肥汲みも同じで実に貴重な肥料源であったのです。
  7. 資源巡回社会としての江戸
     こうしてみてくると、江戸時代においてはなにからなにまでほとんどすべてのものがリサイクルされていることがわかります。古くなったものはすべて修理して使うこと、そのための職業が成り立っていたのです。ごみは立派な資源でした。だから江戸の町にごみらしきものが存在することはなかった訳です。私達社会がこれから江戸の時代の消費生活に戻ることは有り得ないことです。ひとたび豊かな生活に慣れてしまうと、節約しリサイクルする消費生活に戻ることは不可能といってよいことなのです。しかし江戸の人々が確立した消費文化・リサイクル経済文化を、その一部であっても現代において実現できないものでしょうか。しっかりと考えていかなければならない時に差し掛かっているようです。
(平成26年11月4日記)

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