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知財論趣

知財論趣
文章作成力を鍛える
弁理士 石井 正
  1. 最近の学生の文章作成力
     大学生の読み書き能力が低下しつつあるようです。以前、大学教育の現場にいたために、日々それを痛感したことが昨日のことのように思い出されます。誤字脱字などはごくありふれたものであって、文章の起承転結がはっきりしない、いろいろ書いてはあるのだが、文章を読んでみても、その主張したいことがどうしても読み取れないということがしばしばあります。
     もちろんこちらの読み方の問題ではなく、そもそも文章を書く際の論理力、説明力の問題なのでしょう。自己の主張を整理して、どのような順序であれば、その文章を読む者が明確に理解できるか、ということをしっかりと考えていないようです。だからたまたま頭のなかをよぎったことをただそのまま書いただけというようです。
  2. 携帯電話文化
     携帯電話等でメールのやり取りしているのをみると、いかにも達意の文章をたいへん速いスピードで作成しているように見えます。しかし、これは携帯電話のメールのやり取りを経験した者ならすぐに理解できるように、通常の文章作成の世界とはまったく異なります。そもそも携帯電話のワープロ機能が特殊に進化しているため、使えそうな文章が次から次に出てきて、ただそれを選ぶというやり方もあるようです。若い人の携帯電話のメール文章は、やたらと感嘆詞が羅列されていたりして、ひどい時は文章の体を成していないことすらあるようです。どうも察するところ、普段から本や新聞等を読むということをしていないことが背景にあるようで、文章を読むことに馴れていなければ、文章を作成することができるはずはありません。
  3. よい文章作成への早道
     あるとき、学生から「よい文章を書けるようになる早道は何か」と聞かれたことがあります。そもそもそういう早道を質問するというのも問題なのですが、それはとりあえず問わないとして、しっかり努力することを前提として、文章作成力の速成方法を教えたことがあります。それはなんでしょうか。
     ともかく新聞の記事でも、あるいは有名作家の随筆でもよい。一枚から数枚の気に入った文章、好きな文章、高く評価される文章を探します。探したら、その文章を暗記するのです。次に暗記した文章を書いてみます。もちろん記憶に頼って一字一句忠実に再現していくのです。学ぶことは真似ることです。よい文章を記憶して、再現することを、繰り返すのです。この繰返しを経験することにより、おのずとよい文章の構造が身に付いていきます。そこで次の段階です。
  4. 文章の展開構造を意識する
     紙一枚の文章を完全に暗記するのは、なかなか骨の折れることですが、それができたら、次はその文章をパラグラフにしたがって構造として整理してみます。最初のパラグラフではその文章全体の導入部として何が書いてあるか。次にはそれを受けてどのような文章が提示されているか。それはどのように展開されていくか。パラグラフ単位でフローチャートにしてみるとよいでしょう。
     文章というものは漠然と書いてあるようでいて、実はかなり構造的にしっかりしているものであって、それが読む側にとって、読みやすく分かりやすい文章となります。それらを体で覚えていくプロセスが大事なのです。しかも文章の展開構造を視覚的に把握することも大事です。
  5. 推理小説家の壁一面の展開図
     随分昔ですが、ある雑誌に世界の著名推理小説家の書斎探訪というシリーズがあり、興味深く読んだことを思い出します。或る著名推理小説家の書斎では、大きな壁一面に、小説のストーリー展開が詳細に図になって書き込まれているのでした。小説・文章の展開が視覚的に表現されていて、いつもその展開の全体を把握できるようにしているのです。推理小説は、想像以上に緻密で構造がしっかりしていることが求められます。全体の論理展開、全体と部分の関係がしっかりしていなければならず、しかも文章は明晰で読み易いことが必要であるため、こうした展開図が壁一面にあって、常にそれを確認しているのでしょう。
  6. 弁理士論文式試験
     弁理士試験では、二次試験が論文式となります。普段、文章を書き慣れていない場合、この論文試験が大きな壁になるのですが、この対応も、以上の文章力を鍛える早道と同じではないかと思っています。どうすればよいのか。
     まずは論文試験の過去の問題に対しての模範解答論文を調査し、納得した良い論文を探し、それを一つでもよいから完全に暗記しなさいと学生には説明します。ともかく解答全文を暗記して、設問を読んで、模範解答全文を記憶にしたがい再現しなさいと強調します。学ぶは真似るということです。それができたら、パラグラフ単位でその模範解答の文章の構造を整理することです。どのような手順で論理が展開されていくかを、図にして理解するのです。とりわけ法律に関わる論文の場合、事実に関する説明、関連法制度の概要、事実に対する法の当てはめ、という論理手順をしっかりと身につけておく必要があります。それができたら次は、似た問題を探すか、あるいは模範答案の問題に似た問題をみずから作成し、その設問に対しての解答論文の論理構造を図にしてみること、その後は、いよいよ論文自体を短時間で書いてみることです。
     要するに、一般的なよい文章の書き方、文章力を鍛える方法と同じなのです。
(平成25年11月1日記)

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