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知財論趣

知財論趣
業務ミスの結果の修復
−将来における修復の努力と費用の大きさ−
弁理士 深見 久郎
  1. (1) コクヨが平成9年〜12年に製造販売した抗菌デスクマットにおいて、添加した抗菌剤(ピリジン系有機抗菌剤)を原因とするアレルギー性の接触皮膚炎が発症する可能性のある事が判明した。同社は製造から約10年を経過した平成18年末から、今後の発症を防止するため製品の回収・交換と症状の出た使用者への使用中止の呼び掛けを始めた。当事務所への出入り業者からコクヨの事態告知のチラシを入手し、所内の該当製品を調査したところ、該当する製品が47枚あり、さらに原因は不明ながら手に皮膚炎を発症した所員が2名いる事が判明した。
  2. (2) 上記の事態をコクヨへ連絡したところ、コクヨグループから担当者がすぐ来訪し、迷惑をかけたことへのお詫びと、皮膚炎を発症した人との面会の申し出があり、本人への深い陳謝があった(原因は不明のまま)。
    その上で【1】当該デスクマットについては、抗菌剤不添加の最新デスクマットと1週間内に交換する(現在の定価8千円位×47枚=38万円)、【2】皮膚炎を起こした人については、今後専門家の分析で、当該デスクマットとの接触が原因の可能性ありと判断された場合、医療費は勿論慰謝料も含めて補償を相談させて貰う、との申し出があった。
    コクヨは現在デスクマット対応を最重要課題としてコクヨS&T(株)の社員約500名のうち200名強が連日対応に走り回っているそうである。その努力と費用は莫大である。コクヨの企業としての誠実な対応に大いに学び感動した。
    業務ミスの結果被害を受ける身として我々が上記の事態を見るとき、創業100年を超えるコクヨが信用と名誉のために原因から約10年後に結果の修復を目指して如何に努力し費用をかけているかがわかる。
  3. (3) 翻って、弁理士業務で発生し得る業務ミスで将来において損害賠償問題に発展し得るものとして外国出願での優先権の喪失がある。優先権喪失の外国出願は、医療過誤により虚弱嬰児を生ませたに相当する。優先権喪失は直ちに出願の拒絶に繋がるものではないが、拒絶の確率が増すことは明らかである。そして優先権の喪失に起因する出願の拒絶は得べかりし利益の逸失の可能性がある。したがって当事務所ではもしそのようなミスが発生すれば、ミス発覚後すぐ事務所代表が顧客会社を訪問し会社責任者に、事務所の過去の業務ミス排除の努力、それにも拘らずミスが発生した経緯、再発防止措置、喪失された優先期間内に存在し得る先行技術調査の提案、ミス(優先権喪失)に起因する権利喪失または権利取得不可について損害賠償の用意(弁理士責任賠償保険および事務所負担による賠償)を説明し、お詫びする必要があると思う。
  4. (4) 優先権喪失に起因する将来の権利喪失(取得不可)に基づく損害賠償額は高額になることがあり得て、誠実な賠償の履行は事務所の今後の何年か後の大きい負担となる可能性がある。優先権喪失はそのような可能性の一例であってそれ以外にも弁理士業務には類似する業務ミスはあり得る。コクヨの場合それが原因から約10年後に発現した。我々弁理士の業務ミスにも、たとえその時点で損害が立証できないとしても、その種類により将来の巨額の損害賠償に発展し得る可能性があることを念頭に業務ミスの排除に努める必要があることをコクヨ事件は教えていると思う。
    (関西特許研究会機関誌「KTKニュース」平成19年6月号への投稿からの転載)

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